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03 冬の神 砂糖水(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


 ファイヤーが姿を見せると春が訪れるという。ファイヤーの伝説、すなわち火の鳥伝説は世界各地に残っている。
 フリーザーは、ファイヤーと並ぶ伝説の鳥ポケモンである。長い尾をたなびかせ、氷でできていると伝えられる翼で飛ぶ姿は優雅で美しいとされる。
 しかしながらファイヤーとは違い、フリーザーに関する伝承は数が少ない。フリーザーは氷タイプであるため生息域が限られていることや、人は春を寿ぐが寒い冬は敬遠する、といった理由が考えられる。
 フリーザーに関する伝承として、最も知られているものは、雪山で遭難した人間が死を迎える時、その前に姿を現すというものだ。また、空気中の水分を凍らせるためか、フリーザーが飛ぶと雪が降るとも言われている。
 これに関連して、シンオウ地方キッサキシティにはフリーザーを冬の神とする言い伝えがある。

 冬の神はその名の通り、訪れた土地を冬にする。北から南へ、各地を冬にするため飛び回る。ところが、冬が終わったとき冬の神には居場所がない。なぜなら、冬の神がいる限り、冬は終わらないからだ。
 困り果てた冬の神に、北の果てに住むキッサキの民が言った。
「この土地の民は皆、寒さにも雪にも慣れています。どうか我らの土地へおいでください」
 冬の神は居場所を与えた彼らに深く感謝し、キッサキの民にこう告げた。
「私はお前たちから大地の恵みを奪うだろう。しかし、代わりに冬がお前たちを守るだろう」
 それ以来、キッサキは雪の止まない土地になったという。

 キッサキシティ周辺では、その気候故に特殊な植物だけは育つものの、それらは食用に適していない。また、常に雪の積もる山で狩りを行うのも難しい。そのためキッサキの人々は、代わりに海から恵みを得て暮らしてきた。
 しかし冬の神が言う通り、冬はキッサキの人々を守った。朝廷がシンオウ地方を蝦夷地とし、平定する際、最後まで残ったのがキッサキである。
 キッサキシティへ行くには現在でも陸路ではなく海路を使う。陸から行くにはテンガン山を越え、さらに常に吹雪で荒れる道なき道を行くしかない。道を作ろうにも万年雪がそれを阻む。また、キッサキの海は、冬の海の常であるように非常に荒れやすく、慣れた者でなければまともに海を渡ることすら敵わなかった。そんな環境が朝廷から差し向けられる人間を遠ざけ、キッサキを長く守ったのだ。
 今では冬季以外滑れるスキー場(冬は吹雪きやすいため閉鎖される)やキッサキ神殿など、キッサキシティの開発が進み、観光客が数多く訪れる。だが、冬の神はたしかにキッサキを守り、そして今もなお守り続けている。