ポケモンストーリーコンテストSP　-鳥居の向こう-
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06 海蛇の話（二）　Ｎｏ．０１７（HP）


ＰＤＦバージョン 　フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


　いつくしみポケモン、ミロカロス。その美しさ故、人々はこのポケモンに様々な想い、願望を抱いたようである。
　二編目はその美しさを我がものにしようとした女の話を紹介しよう。

　昔、ホウエンのとある国に有力豪族の娘がいた。小さい頃から何一つ不自由せず、容姿にも恵まれた子だった。けれど彼女にも思い通りに出来ない事があった。それは恋であった。
　彼女は恋に破れてしまった。密かに思っていた男性は、別の女と結婚の約束をしてしまったのだ。相手の女性もまた、とても美しい女であった。
　自分の恋が叶わなかったのは美しさが足りなかったせいだ。ああ、美しくなりたい。もっと美しくなりたい。
　思い詰めた彼女は次第にそんな考えに取り憑かれるようになり、誰よりも美しさに執着するようになっていった。
　彼女は美しい着物を金に糸目をつけず手に入れた。ある食べ物や飲み物が、美容にいいと聞けば、家来に命じて手に入れさせた。そんなある日、彼女は旅の怪しげな易者からこんな話を聞いた。易者は絵を見せるとこう言った。
「清い水辺や穏やかな入り江には、このような美しい海蛇がいるそうです」
　この海蛇の肉を食べたなら、きっともっと美しくなれるに違いない！
　彼女は易者から絵を買い取り、国中に触れを出した。海蛇を捕らえた者には褒美を出す、と。
　そうして幾月かが経ったある日の事、ある洞窟の湖に海蛇がいるという報せを受ける。新鮮な肉を食らいたいと思った彼女は自らその地に赴いた。
　そこでは海蛇が抵抗を続けていた。洞窟には海蛇を捕らえようと、たくさんの男達や獣達が押しかけてきていたが、海蛇は不思議な術や水の術を使い、それらを追い返していた。が、日が経つにつれて、弱っていった。圧倒的な物量の前に、海蛇はついに力尽きた。そうして、杜で突かれ、彼女の前に差し出される事になったのだった。
　彼女は喜び、連れてきた料理人に、海蛇を料理させた。その美への執着はすさまじかった。彼女は何日も時間をかけて、海蛇を頭から尻尾まで食べ尽くしたのだった。
　海蛇は彼女に想像以上の美しさをもたらした。肌は絹のように細かく、髪は誰よりも艶を増した。もう誰にも美しさで負けはしない。彼女は満足だった。
　だが、年月が経つにつれ、その行きすぎた効用に気付く事になった。
　彼女は歳をとらなかった。父、母、かつて好きだった男性、知っている者達が次々に歳をとって死んでいくのに、容姿はまるで変わらないのだ。
「どう、満足？　これが貴女の欲しかったものでしょう？」
　身体の中から声が聞こえた。
　その後、彼女は何度かの結婚をしたが必ず夫に先立たれてしまった。
　やがて知る者もいなくなり、周りからも不気味がられた彼女は髪を剃り、出家する。
　八百比丘尼(やおびくに)と彼女は名乗った。彼女は貧しい村々を回っては、人々を救い、罪を償おうとしたが、海蛇の不死の呪いが解ける事は無かった。
　ある日、彼女は洞窟に入り、姿を消した。食を絶ち、入定(にゆうじよう)――すなわち即神仏になる事によって、ようやく死ぬ事が叶ったのだ。
　彼女が最期を迎えた洞窟には諸説があり、様々な町に伝説がある。
　また、地方によってはミロカロスがギャラドスであったり、ジュゴンであったりするようだ。