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11 探検の舞台は クーウィ


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。



 シンオウ地方を旅行していると、必ず目にする事になる煙突の様な通気口。他の地方では見られないあの独特の景観には、こんな言い伝えがあるそうです。

 昔々のその昔、そのまたずーっと大昔。まだ人間達が赤ん坊(あかんぼ)で、シンオウ地方が暖かかった頃のお話だ。
 冬でも滅多に氷も張らないその時代、この地域の海岸線には、沢山の陸鮫達が住んでいた。大きいのも小さいのも、進化したのもしないのも。暖かい御日様の下で砂に潜ったり海で泳いだり、何不自由なく暮らしていた。
 ところがその内気候が変わり、だんだん寒くなって来た。北風どんどん冷たくなって、雪や霰もどっさどさ。寒さの苦手な陸鮫達は、ほとほと弱り込んでしまった。
 困った彼らは悩んだ末に、同じく海に住んでいる、水竜の一族に相談した。風雨を司る彼ら水竜は、竜の一族の中でも知恵者として知られていたから、何とか出来るのではと考えたんだ。
 果して水竜達の長、嵐の海を見守り駆ける山吹色の竜は、逞しい陸鮫の長が別人の様に憔悴し、青い体に疲れを見せて苦衷のほどを語った所、「それなら良い避難場所がある」と言って、寒さに震える陸鮫達を、海から離れた内陸にある、大きな洞窟に案内してくれた。すると確かにそこは暖かく、雪も氷も届かずに、冬でも安心して過ごせるのだ。
 こうして元々海辺にいた鮫達は、シンオウ地方が寒くなるに伴って、洞窟の中で暮らすようになった。彼らの鰭が海の獣達のに良く似ているのは、昔海辺で生活していた名残なんだ。
 ところでその時、陸鮫達が洞窟に向けて歩いて行く際に、意地悪な北風が真っ黒な雪雲を伴って、冷たい霰を驟雨の如く、ばらばら降らせる出来事があった。
 子供の鮫は脚も短く、積もる氷に為す術もない。周りの大人の鮫達も、足や腰こそ達者なものの、動けぬ子供を庇うばかりで、ぶるぶる震えて進めやしない。
 これはいけないと思ったのが、彼らと一緒に付き添っていた、水竜達の一族だった。白い竜が力を込めて首元の球を光らせると、吹雪は忽ち衰え消えてなくなり、空を埋めた雲が千切れて、明るい日差しが戻って来る。
 やがて無事に目的地に辿り着き、水竜達も安心して自分達の住処へと引き上げて行ったのだが、その背中を見送りながら、一匹だけ思案に暮れている者がいた。その陸鮫の若者は、白竜が天気を変える様を目の当たりにした事で、あの首元の不思議な球が、欲しくて堪らなくなったんだ。
 勿論助けてくれた恩人に向け、無心するなど出来る筈もない。けれどももし自分も天気を操れたなら、何時でも好きな時に外に出て、小さな弟達にもたっぷりおいしい物を食べさせてやれる。……そう考えると、どうにもこうにもあの球の事が頭の中で膨れ上がって、夜の夢にも出て来るようになってしまった。
 そこで彼は、毎日暇を見つけては地面を掘って、白竜が付けていたものと、同じ球を探す事にした。彼には白竜の球が何処から手に入れたものかは分からなかったが、宝玉の様なその形状から、土の中から出て来たのではと考えたんだ。
 そうやって土を掻い出し、『これは』と思うものを探しながら、何年も何十年も同じ事を続けている内。やがてシンオウの地下は迷路の様に穿り返され、大きな大きな空洞が出来た。シンオウ地方の地下通路は、こうして出来上がったんだ。
 ガバイトが巣穴をどんどん大きくして珍しい石を貯め込むのは、こう言う経緯があったからなんだよ。

 出典:シンオウ地方の昔話『陸鮫と船守神』より