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119 歌は銃よりも強し


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 歌は古今東西の文化として存在し、またその多くの例にポケモンが関わっている。古くは祭事の儀式の一環として神とされたポケモンに捧げるための歌が歌われたり、またその歌い手がプリン、ラプラスなど歌唱に長けるポケモンであったという事例が存在し、また現代ではポケモンの歌唱や、腹太鼓などポケモンにしか出せない音を取り入れる音楽グループも多く存在する。
 だが、外国にはそれよりさらに強く歌というものの力を見せ付けられる、物語のような実話が存在する。ポケモンの歌が一つの国を独立へと導いたのである。その顛末はこのようなものだ。
 大国による併合を受けその支配下にあったその国は、支配の過程で公用語や通貨の変更など社会制度の面だけではなく、文化面においても様々な制約を課せられていた。代表的なものが一般市民のポケモンの所持制限と、五年に一度の祝祭である大合唱祭、そしてその中の代表的な演目であった国歌の大斉唱の禁止である。
 その国の人々は古くから土地のポケモンとともに日々の生活を送り、その中で特にポケモンの歌からヒントを得た独自の合唱文化を築き上げていた。いわば彼らにとっては歌こそが民族の寄りどころであり、だからこそ支配側は真っ先に彼らから歌とポケモンを奪い、そのまとまりを瓦解させようとしたのだった。
 人々に残されたのは歌とは全く関係のない仕事に使う間だけ貸し与えられるポケモンと、唐突に無実の罪で人々が連行されたりといった途方もない不自由、そして大国への不満ばかりだった。大国の権勢が弱まってくると人々は大挙し、かつて大合唱祭が行われた広場へと集合する。暴力的な者もいれば話し合いを重んじる者もいる混沌とした状況をまとめ上げたのは、集まった者の一人が隠し持っていたモンスターボールの中から現れたペラップだった。
 彼は空へと羽ばたくと、かつてのように大きな声で国歌を歌い上げる。群衆の頭上を飛び回りながら歌を降らせるペラップの姿に人々は我先にとそれに合わせ歌い始め、駆けつけた兵士をも圧倒した。広場には当時の国の人口の三分の一もの人々が集まっており、全員を逮捕してしまっては国が立ちゆかなくなるという判断の元その斉唱は見逃され、それを契機として独立運動が一挙に加速する。
 程なくしてその国は条約の締結により平和的に独立を勝ち取り、現在では小さいながらも一国としての主権を回復している。
 ペラップを所持していた人物の孫であるエドアルドさんは、独立後に広場に建てられたペラップ像を撫でながらこう語ってくれた。
「祖父のペラップがなぜあんなことをしたのか、実はいろいろ説があるんです。占領後すぐの頃からずっとモンスターボールに入ったままで、出てきた時に見たのがあの広場に集まった人々だったから合唱祭の場だと勘違いしただけなんだろう、なんて話があるくらいで。
 けれど、私は信じています。祖父のペラップはあの大国が忘れさせようとしていた、歌いたいという心に呼びかけてくれたのだと。歌を愛する人の心とポケモンの心のどちらが欠けても、この国の歌は成り立たないのです。この国の歌は、人とポケモンがともに作り上げてきたものなのですから」
 今年は五年に一度の合唱祭の年だ。エドアルドさんもまた、祖父のペラップの子孫である相棒とともに歌い手として合唱祭へ参加する予定だという。