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13 盗まれた才能  No.017(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。



 グローバルリンク。世界中の人々とポケモンを交換出来る画期的システム。お世話になった人は多いだろう。最近、そこで交換されるポケモンについてこんな都市伝説が囁かれている事をご存じだろうか。
 それは人から人の手へ渡り続けているブラッキーがいる――という話である。
 ブラッキーは人気ポケモンであるイーブイの進化系で同じくその人気は高い。だが、持ち主は、破格の条件で交換をしてくれるのだという。どの持ち主も不気味がって、一定期間で手放してしまうからだ。
 その理由はそのブラッキーの得意技が「どろぼう」だからであるらしい。主人に忠実なブラッキーは一度命令すればどんなものでも盗んできてくれるという。
 驚いた事に、盗む対象はお金や物などの物理的な物に留まらない。たとえばスマイル動画で人気のあの動画の再生数とか、人気イラストレーターの画力とか、人気歌い手の歌唱力とか、あの子の美貌だとかも可能だというからすごいというか、恐ろしい話だ。
 ブラッキーは人語が話せるようで、主人が代わる度、自分の能力を説明するのだという。
 ブラッキーを入手したトレーナー達は最初、試しにしょうもないものを盗んでくるように頼む。すると、ブラッキーが証拠も残さず見事に盗んでくるものだから、だんだん彼等の要求はエスカレートしてくるらしい。
 だが、棚からぼた餅のように手に入れたものは持ち主にはあまり幸福をもたらさない事が多いようだ。
 色々な人気動画から100万の再生数を盗んできたある主人は、次回作でも同じように再生数を盗むようになった。けれど、今度は伸びるかな、伸びないかなというドキドキ感は無くなって、ちっとも面白くなくなってしまった。彼はついに投稿をやめてしまったという。
 ある人気絵師の画力を盗んだ主人は、人気も出て、最初喜んでいたけれど、人気が出るにつれ「○○っぽい」という感想しか貰わなくなってしまった。もちろん○○とは自分が盗んだ画力の元の持ち主の名前である。
 歌い手の歌唱力を盗んだ主人についても話は似たようなもので、顔を見せないのも手伝って、単に名前を変えて投稿しただけと思われたらしい。
 また、とあるネットアイドルから美貌を盗んだ主人の元にはおかしな脅迫メールが届くようになったという。
「名前なんか変えたって無駄だよ。僕はいつでも君を見ているからね」
 どうやら余計なものまでくっついてきてしまったようだ。
 もちろん中にはうまく立ち回った主人もあるらしい。けれど、だんだんと自分の状況が恐ろしくなってきて、最終的にはブラッキーを手放すという。
 だから彼は今でもグローバルリンクを彷徨っている。持ち主を転々としているのだそうだ。

 そういえば先週、スマイル動画にこんな動画がアップされた。VOCALOID飛跳ミミに歌わせた「どろぼう月光ポケモン」という曲で、この都市伝説をモチーフにしたロックだ。好評のようでランキング入りも果たしている。作者であるSkar198氏はこの曲のおかげで月光PというP名を授かった。はじめての10万再生、殿堂入りを果たしたそうだ。
 ちなみに動画コメントにはこうある。
「最近、ブラッキーを交換して貰いましたSkar198です」
 これは単なる演出なのだろうか? 真相は不明である。