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31 ラムの木のお城 キトラ


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。



 始まりましたふしぎ発見伝。今週は様々な種類のラムの実の産地にあるパーサール城、別名ラムの木のお城を取材していきたいと思います。
 ラムの木のお城はおよそ千年前、ゲラート国の郊外パーサール地方にある小高い山に建てられました。外壁に近づくと、一本の大きなラムの木が見えてきました。このお城の名前の由来です。
 そしてこちらが、ラムの木のお城を案内してくれるガイド、シャーダーさんです。本日はよろしくおねがいします。
「はい。よろしくお願いします。では皆さん、私から絶対離れないように。迷ったらゼーヴズに追い出されてしまいますからね」
 シャーダーさんは、なんと千年前、このお城に使えていた執事の子孫なんだそうです。
 あ、門が開きました。では入って行きましょう。
 わあ、大きなラムの木も凄いですが、中もたくさんのラムの木が! ラムの花のいい香りがお城を包んでいるようです。
「ここは領主パーサールがラムを栽培していたところで、外壁の向こうの畑から中庭まで様々な種類のラムの木が今でも植えられています」
 領主パーサールは、この辺りの発展に尽くし、今でもこの国の歴史で必ず教えています。
 シャーダーさんの案内でラムの森を抜けてついにお城の前にきました。近くで見ると立派ですねえ。お城の壁は一面ツタで覆われています。それには、シャーダーさんの言っていた「ゼーヴズ」が関係しています。
 中に入ると当時の美術品や彫刻品がならんでいます。このお城自体が美術館のようです。
「当時のものがこんなに形よく残っているのはゼーヴズの力によるものです。後の画家がゼーヴズと領主パーサール、その娘のカイレール姫の絵をたくさん生み出し、城の一部にかざってあります。特にこれが有名でしょう」
 食卓だった広間には、大きな絵が飾ってありました。真ん中に立つ領主パーサール、娘のカイレール姫。そしてカイレール姫が抱いているのは後に語り継がれるゼーヴズ、灰色のイーブイです。
「このイーブイはカイレール姫がラムの木の畑にさえずっていた鳥に導かれて出会ったという伝説があります。カイレール姫の出会いを描いた絵画がこちらになります」
 この鳥、というのは我々が知ってるムックルでしょうか? ラムの木に止まり、カイレール姫を呼んでいるように見えます。そしてラムの木の根元に淡く光るイーブイがうずくまっています。
 こうして出会ったイーブイは、とても不思議な能力を持っていたと伝えられています。傷を癒したり、夜でも明るく光っていたりと話によって様々ですが、共通しているのが、植物に力を与えることが出来た、と言われています。
 領主であり、父親であるパーサールはイーブイの力を借りて、ラムの木を大きくしました。そのおかげで痩せていたここら辺の土地は一気にラムの実の名産地となりました。
 厳しい冬にも飢えることなく豊かに発展していくイーブイの秘密を知った周辺の国は、高く買い取ろうとしたり、誘拐しようと企てましたが、イーブイの持つ不思議な能力で追い払ってきました。
 ちょうどこの廊下にかかっている絵画がその場面ですね。領主パーサールに取引に来た貴族や商人たちを、カイレール姫の腕に抱かれている銀色のイーブイが追い返しています。そしてこのカイレール姫を護衛しているのが近衛兵のボーグパーツと言われています。
 この部屋に飾られている鋼鉄の槍は、当時の兵隊が持っていたものだそうです。ボーグパーツもこの槍を持ってお姫様に近づくものを追い払っていたのでしょうか。
「演劇や小説作品ではボーグパーツはカイレール姫と恋仲だったということが多いですね。正式な記録としては二人の関係は解らないのですが、ボーグパーツをお供に領地をまわったり、国王からの誘いを断ったりと中々親密な関係ではあったようです」
 国王から妾にと誘われた時、追い払ったのはこのイーブイなんだそうです。カイレール姫を懐に入れればイーブイもついてきますからね。それが狙いだとバレてしまったのでしょう。
 しかしそれがよくなかったようです。パーサールの対応に激怒したゲラート王は兵をあげてパーサール城を包囲しました。
「ラムの木が多かったので火をつけたようなのですが、ふしぎなことにどの木も燃えなかったようです。ゼーヴズの力だと言われています」
 なるほど、お城から火が燃え上がっているのに、まわりだけは静かな絵はそれを指しているのですね。
 この静まり返ったラムの木と燃え上がるお城の対比はどことなく不気味な感じがします。
「取り囲まれた中で、ボーグパーツは鋼鉄の槍で兵士からカイレール姫とゼーヴズを守りました。この壁の傷はその時に出来たものと言われています。しかし一人では守りきれず、領主も目の前で殺されてしまいます。それでもボーグパーツはカイレール姫を守ろうと奥まで来たところで、力つきました」
 カイレール姫は兵士たちに捕らえられます。しかしイーブイはカイレール姫の腕からするりとどこかへ逃げたようでした。兵長からどこへ逃がしたのだと聞かれるカイレール姫。しかし彼女もどこへ行ったのかは解りません。
 かたくなに口をつぐむカイレール姫にしびれを切らした兵たちは銀色の刃を首に当てました。燃え上がるお城の中で、彼女は最後まで兵に抵抗しながら殺されてしまします。
 その瞬間、物凄い大きな鳴き声がしました。どこかにいなくなっていたイーブイがカイレール姫の死を予感して戻ってきたのです。そして主人の亡骸を見ると、体中から銀色の光を放ったと言われています。
 目がくらむほどの光は止まらず、このお城を包むようにラムの木が生い茂りました。あれだけ燃えていたお城は一瞬にして鎮火し、中にいた兵士たちはラムの木の栄養にされたと言われています。
「ゼーヴズは主に灰色のイーブイだったと言われています。その他にもグラエナやジグザグマなどのポケモンや、モンジャラなんて説もありますが、一番の主流はやはりイーブイでしょう。その証拠にゼーヴズの場所がここになります」
 ちょうど最期をとげたと言われている王座に案内してもらいました。
 なるほど、大きなラムの葉っぱに包まれている形はリーフィアみたいになっています。そこから何本ものツルがのびていて、お城に栄養を与えているようです。もうすでに生きてはいないみたいですが、生命の神秘を感じます。
「この辺りには死んだものは生まれ変わってまた戻ってくるという教えがあります。ゼーヴズも死んだ領主と主人、そして主人を守って死んだ騎士の帰りを待っているのです。よく知った召使いとその子孫以外をこの城に近づけないようにして、千年以上の長い時を守ってきました」
 イーブイが起こした奇跡。目の前で見ると圧倒されます。ふしぎな力を持っていたというのは嘘ではないのかもしれません。触れようとすると、葉っぱが優しく私の手に触れて来るようです。
 もし領主や主人が帰って来たらゼーヴズはどうなってしまうのでしょうか。
「その時はゼーヴズは解放されて、天に帰ると言われています。守ってきたお城を領主に返して、神様のもとへ行くのでしょう」
 帰ってきて欲しいような、ほしくないような。しかしいつまでもここでゼーヴズが一人でお城を守っているだけなのは寂しい気もします。
「そのうち、魂が惹かれてこのお城にやってくるよ。ゼーヴズのことだからそれまで気長に待ってるさ。それにゼーヴズの感謝祭もあることだし、主人が帰ってきてもいてもらわなきゃな」
 シャーダーさんは今の時期に行なわれるゼーヴズの感謝祭へ案内してくれました。
 お城を出て市場に行くと、とてもいい香りがします。
 ラムのお酒、ラムのお菓子など、とてもおいしそうな料理ばかりです。
「ゼーヴズの力によってもたらされたラムだから、こうして毎年ゼーヴズへの感謝をこめています」
 私も一つ、ラムのパンのようなものをいただきました。では一口いただきましょう。フルーティーな香りのパンですが、中身はしっかりとしていて、バターが合いそうですね。こちらはラムのクッキーのようなお菓子です。甘くてハチミツの香りもふんだんにしてきます。
「特にゼーヴズはこのラムのクッキーが好きなんです。これをたくさん供えるとラムの木が元気になるんですよ」
 なるほど。だからどこの店にもこれはかならずあるんですね。
「向こうではラムの木を新たに植える神事があります。行きましょう」
 シャーダーさんはそういってラムのお酒をもって行きました。
 大きなツボにたくさん入ってるラムの実に、みなさん何か入れてますね。っとシャーダーさんもラムのお酒を入れました。
「たくさん収穫できるように、お願いを込めてます」
 ゼーヴズが育てたラムの木はあれからずっと長い間人々に楽しまれて来ました。そしてラムといったらゲラートのパーサール地方と言われるまで発達したラムの木。そこには一匹のふしぎなポケモンの主人への忠誠があったのでした。

 さて、来週のふしぎ発見伝は「イッシュの海底に迫る! 古代遺跡を解読せよ」です。サザナミタウンの海底で見られる謎の遺跡は何を示しているのか。次回のふしぎ発見伝でお会いしましょう。