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37 赤いスズラン 砂糖水(HP


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 皆さんは赤いスズランというものを知っているだろうか。深奥地方の銭亀沢というところに、スズランで有名な土地がある。実はこの土地に咲くスズランというのは、うっすらと赤みを帯びているのだ。
 それについては、こんな理由があると言われている。

 昔、銭亀沢の近くにある村に、それはそれは美しいカパラペという娘がいた。同じ村には勇猛なキロロアンという若者が住んでいて、二人は仲睦まじい恋人だった。しかし、カパラペは村長(むらおさ)の娘であり、中々二人の結婚は認められなかった。
 冬が近づいたある日、キロロアンは一人で山へ狩りに出かけた。落ち葉の敷き詰められた山に分け入っていくと、普通よりも一回りも二回りも大きなリングマに出会ってしまった。
 この大きなリングマは、己の血肉を与えるならば、それに相応しい力を持つものに与えたいといつも考えていた。それゆえ今まで幾人もの狩人と戦ってきたが、未だリングマが認めるほどの力の持ち主はいなかった。
 キロロアンは大きなリングマを見て、もしこのリングマを狩って帰ったなら、どれだけ素晴らしいことだろう、きっとカパラペとの結婚も認めてもらえるに違いないと考えた。普段のキロロアンであれば、敵わないと思って逃げていただろう。けれど、カパラペとの結婚を焦っていたキロロアンは、毒矢をつがえて放ってしまった。
 毒矢はリングマの足をかすっただけでしかなく、足を傷つけられたリングマはキロロアンに戦いの意志があるとして襲いかかってきた。キロロアンは腰の小刀(マキリ)で、どうにか応戦する。やっとの思いでリングマの心臓に小刀を突き刺し、リングマを倒すことができたキロロアンだった。しかしながらキロロアンもまた脇腹に深い傷を負い、そのまま死んでしまった。
 翌日、帰って来ないキロロアンを探して村人たちが山へ入ると、キロロアンと大きなリングマの遺体を見つけた。その知らせを聞いたカパラペは慌てて山へ駆けつけた。キロロアンの遺体を見たカパラペは、遺体に縋りついて泣き崩れてしまった。村人たちは、きっとキロロアンはこのリングマを狩ることができればカパラペとの結婚を認められると思い、挑んだのだろうと言った。本当に勇敢な若者だった、とも。
 けれどカパラペは、そんなことはしないで生きていて欲しかったと泣き叫んだ。やがて泣き止んだカパラペは、おもむろにリングマに刺さったままだったキロロアンの小刀を手に取ると、周りが止める暇もなく自分の喉に突き刺した。カパラペはそのままキロロアンの遺体の上に重なるようにして息絶えてしまった。この時、カパラペの血潮が周囲に飛び散り、近くに咲いていた白いスズランの花を赤く染め上げた。
 それ以来、銭亀沢近くのスズランは、赤い色に染まっているのだという。

 実のところ、赤いスズランはマンガン廃坑付近に多く見られるため、土壌成分が関係するのではないかと考えられている。