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39 聞耳頭巾 砂糖水(HP


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 昔々、とある爺さまが山へたきぎを取りに行った時のこと。一匹の六尾の子狐(ロコン)が罠にかかっていて、ひどく苦しんでいた。可哀相に思った爺さまは、子狐を罠から離してやった。子狐は罠から解放されると、足を痛そうに引きずりながら逃げていった。
 何日かたって、また爺さまが山でたきぎを取った帰りに、子狐が一匹現れた。足を引きずっていたから、どうやらこの間爺さまが助けた子狐のようだった。子狐は爺さまを待っていたらしく、しきりに前足で手招きをしていた。爺さまは不思議に思いつつも、子狐の後をついて行くことにした。
 やがて竹やぶが見えてきて、爺さまは、ははあここが狐の住み処かと思っていた。竹やぶの中に入ると、どうやら親狐らしい九尾の狐(キュウコン)がいた。親狐は、人のように何度もおじぎをするように頭を下げると、何やら差し出してきた。見ると古い頭巾だった。
「これをわしにくれるのかね。ありがとう」
 と言って、爺さまは頭巾をかぶって一人で帰っていった。
 しばらく歩いていると、何やら木の上に小鳩(ポッポ)が二羽、ぽっぽぽっぽと鳴いていた。すると爺さまにはなぜか、小鳩の鳴き声が人の言葉のようにわかった。
「人間というのは、賢いようで馬鹿だなあ。そこの川にある石を人間は踏んで行くだろう? だけどあの石は人間どもの大好きな金でできているのさ」
「たとえ人間に教えてやっても、こちらの言葉がわからないからなあ」
 爺さまは驚いて川へ行くと、石を探した。そうしてその石を洗ってみると、本当にぴかぴか光る金のかたまりだった。
 どうやら狐がくれた頭巾をかぶると、獣の言葉がわかるようだった。爺さまはこんな大事な頭巾をくれた狐に心から感謝した。そうして山へ入る度、獣の話し声を聞いては、爺さまは楽しく過ごしていた。
 そんなある日のこと。木の下で野鼠(コラッタ)が何やら話し込んでいた。
「長者(ちょうじゃ)の娘が病で臥せっているが、どんな医者に診せても治らないそうだね」
「ああそれは医者に診せても治らない。あれは祟りだから。前に母屋のわら屋根を直した時、蛇(アーボ)を巻き込んでしまったのさ。その蛇が苦しんで恨んでいる限り、娘の病は治らない」
 この話を聞いた爺さまは、娘を可哀相に思ってさっそく長者の家へ行ってみた。爺さまが野鼠から聞いた話をそっくり教えると、長者の家では本当に困っているらしく、すぐに爺さまの言う通りにした。屋根を調べると小さな蛇が本当にいて、とても弱っている状態だった。長者が蛇に水と食べ物を与えると、蛇は少しずつ元気になった。そうすると、娘も少しずつ元気になっていった。やがて蛇が自分で這ってどこかへ行くと、娘は布団から出られるようになった。
 娘の病がすっかり癒えると、長者は爺さまにたくさんのお礼をくれた。爺さまは、これは狐がくれた頭巾のおかげだということで、狐の好物である油揚げをたくさん買って、山へ行ったそうだ。