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44 空中稲荷 No.017(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。



 ホウエンの都市、カナズミシティ。老舗百貨店DOGOビルの屋上にそれはある。フードコード、遊技施設を通り過ぎ、南側を目指すと僅かに緑が目に入る。稲荷大明神と書いた赤い旗が風にたなびいていた。
 三光稲荷、このビルが出来る前、まだこのあたりが畑だった頃から建っていたという小さいながら長い歴史を持つ稲荷神社である。DOGOのビルが建設されるにあたり、屋上に移転した。祭神はロコンで、年齢や男女を問わずに信仰を集めている。
「三光稲荷では、失せ物……つまり捜し物が見つかるようにと願を掛ける方が多いですね。特に離ればなれになってしまったポケモンとトレーナーが再び出会う事が出来るという風に言われております」
 そう語るのはカナズミDOGOの支配人であるミツコシ氏だ。
「探しているポケモンの種類や名前を絵馬に書いて奉納するのです。わざわざ他の地方から参拝にいらっしゃる方もいるんですよ」
 そう行って赤い鳥居を潜ると拝殿横にある絵馬の掛け所に案内してくれた。大小様々な絵馬が奉納されている。
「みなさん、再会したいポケモンの事を出来るだけ詳しく書かれます。身体的特徴もそうですが、いなくなった時の状況を書きます。特に云われがある訳では無いのですが皆さんそうなさいますね」
 とミツコシ氏は言う。いなくなってしまったポケモンを探すとき、詳しい情報を記載するのは常だが、こういう所でも同じという事か。目の前にあった絵馬を見てみると奉納者の探しているポケモンは「ブラッキー」とあった。なんでも散歩に出たっきりそのまま帰らない、という事らしい。支配人によればこういった失踪のパターンは割合よくあるのだという。
「さらに探していたポケモンと再開できるとお礼参りとして、もう一度絵馬を奉納します」
 そう言って神社横のギフトショップに案内してくれた。ここではカナズミ土産他、各種絵馬を購入する事が出来る。通常の数百円代の絵馬をはじめとして、数千円、数万円単位のものもある。実際にポケモンに再会できたご婦人が十万円の絵馬を購入したケースもあるそうだ。高額絵馬の売上げの一部はポケモン探しや捨てられたポケモンの里親探しをするNPOに寄付されるという。この屋上では里親探しのイベントが定期的に開催されるのだという事だ。
「昔、別れてしまったポケモンと似たお子さんに出会って、引き取られる方もいらっしゃいます。広い意味ではこれも再会なのかもしれませんね」
 また、絵馬の他に祭神のロコンの好物である油揚げを奉納する事もあるという。
「地下の総菜コーナーにホウエンでも老舗の豆腐店「筑紫」がございます。そちらで購入されてお持ちになる方が多いようです」
 ギフトショップには他に、ロコンのストラップやフィギュアなどが並ぶ。職人が手作りしたガラス細工や木彫りのものもあって、いかにも百貨店の屋上らしいラインナップだ。
「実はポケモン探しのご利益って、昔からあった訳じゃないんですよ」
 そうこっそり教えてくれたのは巫女姿の店員さんだった。
 え、そうなんですか? と尋ねると、
「どうも神社が屋上に移転してからの話のようです。高いところに引っ越して空から地上がよく見渡せるからって事でそういう話になったと聞いています。その頃にポケモン探しの願掛けをなさった方がいらっしゃったようで、それで噂が広まったと言われています。本来のご利益は豊作です。昔は周りが畑でしたから当然と言えば当然ですね」
 はー、なるほど。妙に納得してしまった。場所変われば信仰変わるという事か。土地がその姿を変えるように、それに合わせて信仰の形も変化していくものなのかもしれない。