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47 今日も鼠の子は増える No.017(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。



 カントー地方、クチバシティへと続く6番道路から脇道へと入っていくと一風変わった神社がある事をご存じだろうか。
 苔むした石の鳥居を潜った先にあるその風景は一度見たら忘れる事が出来ないだろう。
 ここは通称、鼠神社。またの名を子宝神社と言う。本当の名前は田倉神社らしいのだが、その名で呼ぶ人は少ない。
 境内には通常のラッタの二、三倍はありそうな石で出来た大きなラッタ像があり、それだけでも結構びびるのだが、これは序の口である。初めて来る参拝客を圧倒するのはその横にそびえ立つ山である。
 そう筆者の目の前には山がある。あるものが積もり積もって出来た大きな山が。その山を構成するものを一つ、手にとってみる。
 筆者の手の中にあるのはコラッタの形をした焼き物だ。
 五メートルはあろうかというこの山は、コラッタの焼き物を積み上げた結果出来たものである。よくよく見るとピカチュウやサンドなど他のねずみポケモンも混じっていたりするのだが、やはりメインはコラッタである。
「ここに積んであるコラッタ像は好きなものを持ち帰る事が出来ます」
 と、氏子さんは言う。
「無事にお子さんや、あるいは飼っているポケモンの子が生まれたら、像の数を増やしてまた山に戻す事になっています」
 なるほど、それで。筆者は納得した。つまりこの山は持ち帰っては増やして戻って、また持ち帰っては増やして戻してを繰り返した結果であるらしい。まさにラッタの繁殖力にあやかって鼠算的(?)に増えた結果がこの山という訳だ。
「昔は陶器のコラッタが多かったけれど、最近は樹脂製のものも多く見かけますね」
 竹箒で境内を掃きながら氏子さんは続けた。
 近くに育て屋がある為か育て屋でタマゴを受け取った自転車に乗ったトレーナーがよく来るのだそうだ。
「親になるポケモンの安産を願って、無事タマゴが産まれると像を戻しにいらっしゃいます」
 そんな事を話しているとタマゴをひとつ抱えたミニスカートの女の子が現れた。
 何のタマゴ? 私が尋ねると、
「ピカチュウ」
 と彼女は答えた。
 彼女の手の中にはピカチュウの像が二つ、握られていた。一つは古めかしい茶色い陶器のピカチュウ、そして彼女が新たに持って来たのは真新しい陶器のピカチュウで色も黄色だった。
「どうせならピカチュウのがいいなって思って、ポケモン達と手分けして探したんです」
 彼女は言った。
 古いほうを見せて貰った。なかなかの年代物と思われ、造形が細かい像だった。彼女は新旧二つの像を山へ置く。パンパンとかしわ手を打った。
 その昔、かのピカチュウを奉納した誰かさんも同じように像を置き、そしてかしわ手を打ったのだろうか。積み上がった山に長い長い時の流れを想った。
 その様子を母たるラッタの像がそっと見守っている。
 こうして今日も鼠の子が増え、山は少しずつ大きくなっていく。
 育て屋近く、鼠神社の鳥居の向こう、今日も鼠の子は増える。