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53 唄の運び屋 穂風湊


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


 大切な人に贈り物をしたいけれど、何を選んでいいか分からない。そんな読者さんはいないでしょうか。そこでよくお勧めされるのがグラシデアです。かんしゃポケモンシェイミのような花を咲かせるそれは、日頃の感謝を込めて届けられます。
 ですがグラシデアは限られた場所でしか育たず、手に入れるには財布に少々痛いダメージが入ってしまいます。ネット通販も利用できますが、やはり自分の手で選んだものを贈りたいものです。では他の贈り物なら何がいいか。調べてみると興味深いものが見つかりました。早速見ていきましょう。
 ウツネタウンを北端から入り赤い煙突が見えてきたらそこが目的地です。ドアの向こうで迎えてくれたのは二十代の若い男性と一羽のペラップでした。名前は男性がレオ、ペラップがココと言いました。
 ドア横の看板には「唄の運び屋」と書いてありましたがこれだけでは何だか分かりません。具体的にどんなことをしているのか、そう尋ねるとレオさんは明るい表情で答えてくれました。その内容をまとめると次のようになります。
 「唄の運び屋」はその名の通り唄を運びます。差出人がペラップのココに唄を覚えさせ、ココは届け先に向かいその唄を伝えます。ペラップは器用な種族で、相手の声をそっくりに真似ることが出来ます。なので、相手はまるで送り主が側で歌っているように感じるそうです。自分の声を直接運んでほしいというお客さんにはココにICレコーダーを運ばせています。
 一体何時からそしてなぜこの仕事をしているのか。それについてもレオさんは答えてくれました。唄の運び屋はなんとレオさんの曾祖父のそのまた祖父の代から続けられているそうです。彼らは代々鍛冶屋を営んでいて、ある時彼はお客さんとの伝達用にペラップを手に入れました。喋るポケモンが連絡をしに来てくれるということで評判になったのですが、ただ一つ困ったことがありました。ペラップは簡単な単語はすぐに覚えてくれますが、複雑なものや長い文になるとペラップはなかなか記憶してくれなかったのです。
 しばらく困っていると、彼はあることに気がつきました。長い言葉は覚えられないのに、唄は一回聴いただけで全て覚えてしまうのです。そこで試しに伝達内容に節を付けてみると、ペラップは一言一句漏らさずに復唱してみせました。そうしてレオさんの祖先はペラップと巧く鍛冶業を営んでいました。
 ただ皆さんもご存じの通り、時代の流れと共に鍛冶屋業は廃れていきました。この家も例に漏れず、鍛冶だけでは食べていけなくなりました。そこで思いついたのが「唄の運び屋」でした。ペラップの習性を生かしたこのサービスは口伝いに広まっていき、今では仕事の依頼が絶えることは珍しいそうです。
 さらに現在では各地方に協力者がいて、転送装置を使いココを送り、そこから飛び立ち遠い地方にも運べるなどの工夫もなされています。
 私もしばらく会っていない母に"唄"を贈りたいと言うと、レオさんは笑顔で頷いてくれました。音楽経験が全くない私でも、レオさんとココのアドバイスを受けながら何とか形にすることが出来ました。歌詞を考えるのは顔が赤くなるほど恥ずかしかったのですが、相手に想いを届けたい気持ちと、出来上がった時の達成感とでそれは吹き飛んでしまいました。
 ココが飛び立つのをレオさんと並んで眺めてから、私は取材の礼を述べてその場を後にしました。
 最近はメッセージを運ぶだけでなく、出張で忙しいお父さんから子供に誕生日の唄を歌ってほしいというお願いもあるそうです。歌に関する頼みであれば柔軟に対応してくれるそうで、これからもサービスの幅を広げていきたい、そうレオさんは力強く答えました。