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54 継がるる血 穂風湊


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 先日友人の結婚式に列席するため、シンオウ地方のミオシティまで出かけていました。その友人とは大学生の頃一番親しくしていて、彼女が告白されたと聞いて自分の事のように一緒に喜んだのはつい最近だったような気がしますが、それからもう三年も経ったようです。
 ところでその友人の彼氏は少々変わった点がありました。彼は耳の先が尖り足首には雪のように真っ白な毛が生え、澄んだ蒼い瞳をしているのです。その容姿はゴウカザルを彷彿とさせられます。事実彼はゴウカザルの血が入っていました。シンオウでは彼のように四分の一ポケモンの血が混じった人々を「クォーター」と呼んでいました。
 私達の地方では耳慣れない言葉なのでここで補足しておきたいと思います。シンオウ地方ではポケモンと番(つがい)になり子孫を残すことが良いと信じている人々が多くはないけれど存在していました。そうして生まれた子が「ハーフ」であり、その子供が「クォーター」です。彼らは姿形は人間のものをしていますが、所々に受け継いだ血のポケモンの特徴が出ています。ゴウカザルであれば上に挙げたようになり、ロコンのクォーターなら赤茶色の巻き毛の髪・紅色の瞳・胸元に白い獣毛が生えるなどの特徴が見られます。クォーターはその見た目の奇異さから差別や嫌悪を受けることが度々あります。つい先日もギャロップのクォーターの全国陸上大会出場資格を巡って激しい議論が交わされていました。他にも学校でのいじめや、就職の拒否などが問題となっています。
 私達とは違う存在、そう思ってしまいそうなクォーターですが、実際に話してみると私達と何も変わらないことを実感させられます。友人とその彼氏――クォーターと会う機会が何度かありましたが、彼は落ち着いた目をし優しく接してくれました。ある時忌避されて辛くはないのかと聞いてみると、彼はこう返しました。
「君の言う通り、指を差されて笑われたり顔をしかめられるのは確かに辛い。けどそんな俺を正面から受け止めてくれる、理解しようとしてくれる、そんな彼女がいるから俺は幸せだ、そう思えるよ」
 それが彼の告白の理由だったと言います。そう答える彼は言い終わってから照れくさそうに頬をかいていました。
 さて友人の結婚式に話を戻しましょう。その式は比較的少ない人数で開かれ、落ち着いた雰囲気で進められました。祝辞を述べたのは車いすに乗った女性で、年は私と変わらないように見えました。髪は鳶色で耳の先やうなじ、肩などからは深緑色の葉のようなものが生え、それはリーフィアを思い出させました。友人は中学の頃入院していた彼女が転院して以来ずっと連絡が取れず探している、と様々な人に当たっていましたが、ようやく見つけたようでした。クォーターは人間とポケモン、両方の血が混じっているため不安定で体が弱い人が多いのですが、まともに取り合ってくれる病院はほとんどなく転院を繰り返さずをえない、それもまたシンオウに残されている課題の一つです。その中で二人が出会えたことは本当に幸運なのでしょう。
 式が終わると、友人と彼氏は拍手に包まれ教会の扉から姿を現しました。新婦の両手には花束が握られ、宙へ放たれました。そして――吸い込まれるように車いすの彼女、リーフィアのクォーターの膝の上に届けられました。花束はいっぱいのグラシデアの花で彩られ、友人が選んだそれは心からの感謝を示します。受け取った彼女は最初に驚いた顔をして、それから不機嫌そうなそれでいて嬉しそうな複雑な表情をしていました。友人は「とても喜んでくれてよかった」と言っていたのできっとそうなのでしょう。証拠に彼女は大事そうに花束を抱きかかえていました。
 そうして式は終わり、一組の夫婦が誕生したのでした。