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67 クリムガンのガーゴイル  No.017(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


 ガーゴイルとは建物の終端として西洋建築に設置されている像を言う。これらの彫刻には雨樋(あまどい)の機能が備わっており、雨が降れば石像はその口から水を吐き出すようになっている。逆に屋根の上の彫刻であっても雨樋を備えないものはガーゴイルとは呼ばれない。その語源がラテン語で水が流れるときのゴボゴボというような音を表す[gar]である事からも、雨樋こそがガーゴイルをガーゴイルたらしめている事がお分かりいただけるだろう。ガーゴイルがしばしば屋根や壁から突き出るように設置されているのは、建物を水の浸食から守っているという側面があるのである。類似の雨樋を備えない像はグロテスク、キメラなどと呼ばれるがしばしば混同されている。
 カロス地方など西欧の歴史ある建築物の屋根や壁から街を見下ろす彼らの歴史は長く、古くは古代エジプトまで遡れるという。エジプトでは寺院の平屋根にその姿があり、その口から吐き出される水で聖杯などを洗っていた。様々な古代国家の遺跡からも数々のガーゴイルが発掘されており、その題材は水を吐くポケモンのみならず、あらゆるタイプに渡っている。中には空想上のポケモン、実在のポケモンの姿を組み合わせた姿のものや、翼を生やしたりしたようなものまであるほどだ。特に中世においてはそういったグロテスクなものや、ドラゴンポケモン、大型のポケモンなどの勇ましいものが好まれた。次第に装飾的な側面が強まってきたガーゴイルに人々はいつかし霊的な側面を見い出すようになった。迫力のある恐ろしい顔つきは悪霊や災いを寄せ付けず、外敵から街や建物を守るという風に考えられた。本来の機能に加えて魔除け・門番という意味合いが込められるようになったのである。
 当時の西洋諸国は国家間のみならず、都市ごとに小競り合いを繰り返しており、領主にとって土地の防衛は重要な、また頭の痛い仕事であった。迫力あるガーゴイルが普及した背景にはそんな事情もあったのではないか。
 そんな願いを反映してか、西洋綺譚集ジャロダーニュにはこんな物語が収録されている。
 ある都市を治めていた領主はお抱えの芸術家達に好んでクリムガンの作品を作らせていた。その地域にクリムガンは生息していなかったが、幼い頃に本で見たその造形に強く惹かれた彼のクリムガンへの思い入れは人一倍強かったという。領主は常々本物のクリムガンを手に入れたいと思っていたがそれはなかなか叶わなかった。そこで、画家にクリムガンの絵を描かせ、彫刻家に彫像を作らせて心を慰めていた。特に彼はクリムガンを象ったガーゴイルがお気に入りだった。屋敷の外に出てその姿を見る度に彫像の一匹一匹に声を掛けるほどの入れ込みぶりであったという。周囲はそんな領主を変人扱いしたものの、当人はお構いなしであった。それどころか町中にクリムガンのガーゴイルやキメラを増やしていって人々から呆れられた。
 そんなある時、街が敵の急襲に遭い、火を放たれた。あちこちから火の手が上がり、人々が逃げ惑う中、敵兵達は中心にある領主の屋敷を目指し進んでいく。だが今まさに門を破ろうとしたその時にクリムガンのガーゴイルの一匹が動き出し、敵兵やそのポケモン達をなぎ払った。そのクリムガンが雄叫びを上げると、領主の屋敷中、いや町中のガーゴイルが同様に動き出した。彼らは雨が降った時と同じように口から水を吐いて火を消し止めると、侵入した兵士達を次々と追い払って街を守ったという。助かった人々は手を取り合って喜び、領主がいつも話しかけていたから魂が宿ったのだと噂し合った。以後、変人扱いだった領主も尊敬されるようになった。
 実際のところ、ガーゴイルがクリムガンだらけという街はない(少なくとも現存はしていない)のだが、ごつごつとした立派な体躯のクリムガンがガーゴイルの人気モチーフであったのは事実で、古い貴族の屋敷や教会などでその勇ましい姿を確認する事が可能である。