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76 椰子の実の神話  No.017(HP


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


 南の島国の神話には共通したモチーフがある。海の向こうにある理想郷――神様の国から海流に乗り、壺が流れ着く。その中身は食料となる種(多くは五穀の)で、それを最初に島に住み着いた人間が受け取る、という内容だ。東南アジアのバナナを主食とする地域の多くではその役割を担うのはトロピウスである。
 口伝のひとつによれば、その地域に最初にやってきた夫婦であるイラブーとイノーはある時、幾つかの椰子の実が浜辺に漂着しているのを発見した。夫のイラブーは割って食べようとしたが、妻のイノーは育てればもっと多くの実りをもたらすだろうと手をつけさせなかった。
 次の日に椰子の実は芽吹き、三日目には羽根のような大きな葉が四枚生えた。七日目には竜の首を生やして鳴き声を発し、十日目には四つの足が生えて歩き出したという。まだ子の無かったイノーは大変にこの竜達を可愛がった。竜達は南国の日の光を浴びて日増しに大きくなりやがて顎の下に果物がたわわに実ると、それをイノーに与えたという。これが東南アジアにおける種々のバナナの最初という風に言われている。やがて竜達は葉の羽根で飛び立ち、どこかへと去ってしまったが、風の強い朝の浜辺にはココヤシやマンゴー、ドリアンなどの果物が漂着するようになっと伝えられている。