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92 子化身 とあるオカルト雑誌のコラム欄から ピッチ


PDFバージョン  フォルクローレに採用されると見開きの片側に絵がつきます。


 人形は、子供の頃に誰しも手にしたことのある遊び道具だろう。日々着せ替えやごっこ遊びばかりしていたという記憶のある人もいれば、はたまた自分の気に入りの人形を他の子供と取り合った記憶のある人もいるだろう。もしかしたら乱暴に扱って、人形を壊してしまった覚えのある人もいるかもしれない。また、ぬいぐるみやキーチェーンマスコット、携帯ストラップなどを含めれば、人形は子供だけでなく大人にとっても馴染みあるものだといえる。
 そんな人形のうち、我が国で古くから知られているものといえばこけしである。おかっぱ頭の少女を模したものが一般的だが、こけし独特の形に見合うポケモンをモデルとしたものも存在し、ホウエン地方ではラルトス、ジョウト地方ではネイティオなど、地方ごとにいくつかのバリエーションがあることも相まって、現在ではその地方の土産物として、また鑑賞に十分堪えうる美術品としても親しまれている。
 だがそのうちいくつかの種類について、秘された云われがあることをご存知だろうか。今回取り上げるのは、こけしの中でもラルトスの形を模したホウエン地方のものである。
 ラルトス系統に限らずフェアリータイプのポケモンにまつわる伝承として「取り替え子(チェンジリング)」というものが存在する。これは、フェアリータイプのポケモンが自分の子供と人間の赤ん坊を取り替え、赤ん坊を森の中に連れ去ってしまうというものだ。
 ホウエン地方では特にサーナイトによる取り替え子が知られている。そうした昔話の代表例は、眠り込んだ合間など母親の知らぬ間にサーナイトにより子どもが取り替えられ、子どもが眠っていた布団にはラルトスが横たわっているというものだ。しかしこれ以降の展開にはいくつかのパターンが存在し、母親の元で育てられたラルトスが成長した後に森へ遊びに行きサーナイトの元で育てられた子供に出会い、それをきっかけとしてそれぞれの生みの親の元へ帰るもの、託されたラルトスへ我が子と変わらぬ愛情を注ぎ彼を美しいサーナイトに育て上げた母親の元に、親であるサーナイトが子供を返しに来るものなどがある。
 そして特にヨシノシティ付近に伝わるものの中には、母親は種族の異なるラルトスをうまく育てることができず彼を死なせてしまい、その魂を慰めるため、また子供を連れ去ったサーナイトにラルトスが生きていると誤認させ、交換に子を返してもらえることを祈りながら、ラルトスの木彫り像を作るというものが存在する。一説によれば、これこそが「子化身」と呼ばれる像であり、現在のラルトス型のこけしの原型なのだという。
 その一種の不気味さからか一般にはさほど流布していない言説ではあるものの、カナズミなどの大都市から離れたヨシノの、落ち着いた、ともすれば寂れた物悲しい雰囲気には妙に合致するところがあり、一概に無視できないものも感じる。これからラルトス型のこけしを見るあなたの目が少しばかり変わることを祈って、この筆を置こう。