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29 さよなら、また逢う日まで 奏多


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『カロス地方で三千年前に起きた戦い。愛するものを失った王は、戦いと破壊の神となった。後世の人々は、畏怖の念を込めもう一つの名を語りだした。カロスの古語で、「激昂するもの」を意味する言葉。オーディンという名を。永遠の時を生きることとなった王は、人々から死さえも操る神であり、死神を従えるものとして語られることとなった。死神。それは、ヴァルキリーと呼ばれ、美しい乙女の姿で人の魂を狩る。残酷なものだ。刈り取る魂は、戦場で死した者の勇敢な魂だ。人々はその死神に、強い恐れを抱いていた』
 そこまで読み私は、紙の束から視線を外し、自分の前にいる彼女に語りかける。
「実に面白い文献だと思わないか?」
 彼女に向けて、今まで読んでいた紙の束を見せる。それにちらりと視線を向けると、受け取った。そして、ページをぱらぱらとめくり、内容を確認している。一通り文献に目に通すと、彼女は私の前の机にそれを置く。
 そして、私をじっと見つめて尋ねる。
「あなたは、いったいどこから、こういったもの見つけてくるの? シンオウで見つけたものじゃないでしょう?」
「企業秘密さ。君だって、私が驚くようなものを見つけてくるじゃないか。崩れかけた古代の遺跡にあった石とか、空間のねじれ曲がった世界の植物とか、ね」
 実際、彼女からそういったものを見せられた時は、腰を抜かしそうになるほど驚いた。まだ若いとはいえ、そういったものを見つけるような場所にどんどんと進んでいく彼女を見ていると、少し不安になる時もあるのだ。
「そ、それはそれよ。あたしだって、いつも危ないことやっているわけじゃないわ」
 頬を膨らませて言う彼女は、少女のように見えた。私も彼女も、青春なんていう文字からは、少し遠いところにいるように思えるが。
「だいたい、あなたは、外に出なさすぎるのよ。研究者なら、もっと外に出ていろいろな体験をするべきだと思うわ」
 いくら雪の多いシンオウだといっても白すぎると、彼女は私を見て言う。
「外に出ないことに関しては、否定はしないが。だからといって、外に出たら出たで、悪の秘密結社と戦う趣味は私にはないな」 
 シンオウを暗躍していた、ギンガ団。私は、それの壊滅に彼女が関わっていたことを持ち出してみた。彼女は私の言葉を聞くと、あからさまに嫌な顔を私に向けた。
「あたしにも無かったわよ! でも、成り行きでなんとなく、そうなっちゃっただけよ」
 勘違いしないでと続ける彼女。その様子が、私の想像していたものよりも必死で、ふっと笑みを漏らしてしまう。
「話を元に戻すが、こういった女性の死神っていうのは、珍しいと思わないかい? 死神というと、禍々しい姿を想像するだろう。死の鎌を持ったものとかをね」
 先ほどの文献を指でつまみ上げながら、私は言った。彼女は私の言葉に、少し考える素振りを見せると、思い出すように話した。
「死の女神っていうものだったら、ミチーナの神話にもあったわよ。死を司る女神のヘカテ―や、冥界の女王のペルセポネとか。ほかにも、カントーの方の死を司る女神は、黄泉醜女というものもあるわ。神産みの際に命を落として、その美しさを失ってしまった、イザナミのことだけれど」
 彼女の言っているのが、この世界に残る様々な神