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ピピピピ……ピピピピ……カチッ!
私は目覚まし時計を止めると、ガバッと起き上がった。
「ついに、この日が来た……!」
ーーポケモンと、旅に出られる日が!
一週間前、私は幼なじみのレオンと共に町外れのシンジ湖へと行き、そこで初めてのポケモンバトルを体験した。
私の助言を聞かずに草むらへと入ったレオンを追いかけ、鳥ポケモンと遭遇したっていう……。
慌てて逃げようとして、そこにあった誰かのカバンに躓いて転ぶとか、恥ずかしすぎる。
でもその拍子にカバンから出てきた2つのモンスターボールの中のポケモンで、私達はなんとか鳥ポケモンを倒せた。 私は青いポケモンを、レオンは緑のポケモンを使って。
それからフタバに帰る途中に、私達の使ったポケモンの持ち主……ナナカマド博士に、そのポケモンを託された。
嬉しかった。 ポケモンと旅に出られることになったから。
その事をジョウトに住んでるいとこに話したら、ポケモンをプレゼントしてくれるって言われた。 私はいいと言ったんだけどいとこの……ヒバナさんはどうしてもプレゼントすると言いはった。 まったく頑固なんだから。
それで一週間後にシンオウに行くと言ってたから、旅立ちはその日……つまり、今日に決まった。
私は服を着替えて、一階へと降りる。 この家ともしばらくお別れか……少し寂しい。
「あらシュカ。 おはよう」
「おはよーお母さん。 ヒバナさん、今日いつ来るって?」
「9時には来るって言ってたわよ」
私は時計を見た。 今は7時……ってことはあと2時間か。
「さあ、朝ご飯にしましょう! 今日からしばらく会えないから、シュカの好きな物、たくさん作ったわよ!」
「わあ、ありがとう! いただきまーす」
朝食を食べ終えた私は、荷物を確認した。 財布に、きずぐすりをいくつか。 それから相棒が入ったモンスターボールを腰のベルトに付けた。 ポッチャマというらしいこのポケモンを、私はうみなと名付けた。
ピンポーン……
あ、チャイム。 ヒバナさんが来たのかな。 私は急いで一階に降りて、ドアを開ける。
「やっほーシュカ久しぶり! 元気だった?」
「……」
あれ、ヒバナさんの隣に知らないトレーナーさんが。 誰だろう……?
「あ、この子はエンジュ! 私のトレーナー仲間なの♪」
「ヒバナ、なんで私までシンオウに来なきゃなんないのよ。 あなたがシュカ? 私はエンジュ。 よろしく」
「よ……よろしくお願いします」
私はエンジュさんに向かって軽く頭を下げた。 なんか気難しそうな人だな……
それから私達はテーブルに座って、軽く話をした。 なんでもエンジュさんはホウエン地方のトレーナーらしく、ヒバナさんに頼まれて私にプレゼントしてくれるポケモンを捕まえてくれたらしい。 って、ことは……?
「はい、これ♪」
ヒバナさんが差し出したのは、2つのハイパーボール。
「え、2体も……ですか?」
「うん、そう!」
「いや、そんなに貰う訳には……」
「せっかく捕まえたんだから! はい♪」
そう言ってヒバナさんは私の手にボールを押し付けた。
「右のボールがロコンのひばな! 左のボールがマイナンのらいむだよ!」
そう言われたので見てみると、可愛い顔をして眠っている小さな狐と、ニコニコと笑ってる青い耳の兎がいた。
「わあ……可愛い! ありがとうございます!」
「どーいたしまして! じゃあ私はそろそろ行かなきゃ! エンジュ、あとよろしく!」
そう言ってヒバナさんは家を飛び出していった。
「え、もう行くんですかっ!?」
「ヒバナ、ウツギ博士から電話が来て、すぐ帰らないといけなくなったんだって。 私ももう帰るわね……」
エンジュさんがため息をつきながら立ち上がった。
「あ、あの!」
私はヒバナさんに深くお辞儀した。
「ありがとうございました!」
「……楽しんでね」
エンジュさんはそう呟き、帰っていった。
私はお母さんに見送られて、フタバタウンを出発した。 腰には3つのボールが揺れている。
これからどんなことが起こるんだろう……私の胸は喜びと期待に満ち溢れていた。
[好きにしてください]
すれ違う度、それには気付いていた。
垣根を軽く乗り越えて、いつものように元気よく。窓から見る彼女は外で見るよりもずっと暗く見えた。
「ハルカ!」
顔をあげるけれど、やはりいつもの彼女ではない。そんなことは解っていた。
「ユウキ!」
庭先にも関わらず、ユウキは話しだす。
「今は暇? 今度バトルフロンティアっていう施設が出来るんだけど、その先行公開でバトルタワーのチャレンジチケットがもらえたんだ。行こうよ」
「悪いけど……」
「んじゃ、ミナモシティなー! 先いって待ってっから!」
言うが速い。ユウキはすでにオオスバメの翼を大空へと広げ、その身軽な動きで飛んで行ってしまう。残されたハルカはオオスバメが消えていく方向を見て、ためいきをついた。
「そんな気分じゃないのに」
庭にモンスターボールを投げる。緑色のしっぽを振り、フライゴンはハルカに寄ってくる。その無邪気な行動も、今のハルカにとってどうでもいいこと。二枚の羽が作り出す微風が肩にかかる。いつもフライゴンはそうやって甘えてくる。
「ミナモシティに行くよ」
フライゴンの風を手で払いのける。戸惑いながらもフライゴンは主人の言う通りに空を飛ぶ。
近づくに連れて、潮風が強くなる。そしてミナモデパートのアドバルーンも見えてきた。あの時とは違う宣伝が上がってる。
ーきみのこと、いいと思うよー
活気のある街。夜になれば灯台の光が海を照らし、道しるべとなる。キャモメの群れが港を飛んで行き、旋回して海へと突っ込む。そうして海面に出たキャモメは、嘴に魚をくわえていた。
ー修行を続ければ、いつかはポケモンリーグのチャンピオンにだってなれる。僕はそう思うなー
「うるさい!」
ミナモシティに降りると同時に、ハルカは誰に向かってでもなく怒鳴った。フライゴンはおそるおそるハルカの顔色を伺う。そして機嫌を取るように、二枚の羽を動かした。しかしフライゴンの微風よりも潮風の方が強く、かき消されてしまう。
フライゴンの気遣いはハルカに届かない。前は些細なことでもほめてくれたし、かまってくれたのに。何が起きたか解らないフライゴンは、そのままボールに戻される。
「でさー、この前は釣りしてたらイワシとホエルコの追いかけっこ見たんだよ。野生のホエルコの狩りって映像でしか見た事無いからさあ」
ユウキは船着き場の前からずっとこんな調子でハルカに喋りかけていた。当のハルカは生返事でひたすら聞き流している。さっきからユウキにしては話題がくるくると変わっている。聞いてる方も今、彼が何を話したいのかもよくわからない。
「ハジツゲタウンにまた隕石が降ったっていうから、調査で……」
「ユウキ、さっきから何?」
「え、何って何?」
「うるさいよ」
それ以降、ユウキは黙ってしまった。ハルカはというと、そんなユウキの方を見向きもせずに、海の方を見ていた。
まだ建設中のバトルフロンティアだけど、建物の形はそれなりに見えた。そしてその中で一番早く出来たバトルタワーは、青い空を突き抜けるほどの高さだ。船を降りた二人はしばらく上を見上げ、そして人の波に促されるように入って行く。
「がんばれよハルカ!」
人ごみに消えていくハルカの後ろ姿に声をかける。振り返ることもなく、ハルカは彼らの中にまぎれていった。
「なにがあったんだよ、ポケモンリーグで」
笑わなくなったのはその時から。ポケモンに構わなくなったのはその時から。誰ともまともに話してくれなくなったのも。何か聞き出そうとしても、ハルカは誰にも話さない。
その前は、朝会おうが夜中に電話しようがずっと嬉しそうだったのに。ポケモンの話ならすぐに返ってくるし、戦ったトレーナーの話も飽きずに。
オオスバメがはばたく。戦ったあとの昼食は格別だと言うように。隣には主人のユウキが向かい合ってテーブルについてる。ただならぬ雰囲気を察したのか、オオスバメはそれ以降ユウキの方を見ることもなく大人しく食事していた。
ーなるほど、君の戦い方面白いねー
「七連勝おめでとう」
目の前のハンバーガーにかぶりつきながら、ハルカに言う。何も言わず彼女はストローをくわえていた。その行動に、意味があるわけがない。視線がチーズがたくさんのハンバーガーでも、ユウキでもない。どこか宙を漂っている。
「いやー、ハルカはすげえよ。やっぱチャンピオンを倒しただけあるよ。俺なんて五勝目がつらくて、そのあとずっとギリギリで……」
ユウキは黙る。ハルカがさらに黙りこんでしまったように見えた。
ー大丈夫!君と君のポケモンなら、何が起きても上手くやれる。僕はそう信じているー
「残念だよな、チャンピオンになれなくて。ホウエンで誰よりも強いのに、年齢制限なんてさ」
「実力主義とかいいながら、結局は年齢とか、意外だったよなあ」
「今頃チャンピオンだった人はどうなってるんだろうなあ。地位が守れてよかったとか、そんなこと思ってんのかなあ」
「ダイゴさんはそんなこと思う人じゃない!」
テーブルがひっくり返る勢いで、ハルカが拳を叩き付けた。ジュースの紙カップが握りつぶされている。まわりの客が何が起きたと言わんばかりにこちらを一斉に見た。
「ユウキに何が解るの? ユウキに何が解ってそんなこと言えるの? 何も解らないのに勝手なことばかり!」
「そんなこと思ってたらとっくにダイゴさんは帰ってきてる。何も言わないでいなくなったりしない!」
テーブルにこぼれたジュースが広がっている。ユウキもハルカもそんなものに気がついてない。時間が凍り付いていた。いきなりハルカから溢れ出す悲しい感情に、ユウキも言葉が出ない。なぐさめようにも、何も言えない。
「チャンピオンなんて欲しくない! 私がならないことで帰ってくるならそんなものいらない!」
「いらない。だから、帰って来て欲しい」
ハルカの声がだんだんと小さくなる。その願いがかなわないことは、何も解らないユウキでも容易に想像がついた。
「ハルカ……」
少しの間を開けた。一呼吸おくと、うつむいてる彼女に話しかける。
「その人のこと、好きなの? ハルカらしくない」
「どんな環境だってそのまま入っていけるのに、なんで出来ないの?」
「同じポケモンの道を通ってる人なのに、永遠に会えないわけないだろ!? ここで俺に言うよりも、やる事あるんじゃないのかよ」
ハルカがユウキを見た。今日会ってから初めて目が合う。
「会いたいなら、同じ道を通り続けろよ。その人が残した足跡を辿り続けろよ。それでたどり着けなかったら、もう一度俺に言えばいいだろ。本当に、ハルカらしくない」
「どうやって? どうしたらいいのかなんて解らないよ!」
「俺なんてもっと知るか。その人のこと知らねえのに、言うことなんで出来るか」
「言うは簡単に決まってる。出来るか出来ないかが問題なんじゃないの!」
「だからハルカらしくないっていってるんだろ!」
ポケモンを使わない実力行使の取っ組み合いに、道行く人は思わず足を止める。オオスバメはどうやって止めようか外からずっと見守っていた。ポケモンが尻込みしてしまうくらい、二人の殺気が凄かった。
やがて警備員の人が来て二人を引きはがす。なぜこうなったのか解らないほど、二人の主張は変わり過ぎていた。
帰りの船で、おたがいの頬には赤い跡や青い跡。そして近くにいるのに二人は絶対に顔を見ようとしなかった。同じことを思っていたのだ。先に謝るなら許してやると。手を出したのはお互い様で、悪いことだと認識しているのに、どうしても先に謝ろうとは思えない。
「あのな」「だから」
視線を感じて振り向いたのに。二人は同じタイミングで話しかけていた。それがおかしくて、思わず笑い出す。その笑いが落ち着いた頃、ハルカが話しかける。
「ユウキの言う通りだよ」
「何が?」
「ダイゴさんがいなくなって動揺してた。そうだよ、ダイゴさんだってトレーナーだもん。いつかこの道を辿っていけば、また絶対会える」
「だろ? どう考えてもそんな強い人なんてそうそういないんだからさ」
「うん、だから明日からちょっとまた出かけてくる! 次会う時はまた私が勝たせてもらおうっと」
着岸のアナウンスを流す。ハルカが跳ぶように出口へと駆ける。
「だから今日はミナモデパートで買い物するから先に帰ってて! じゃあね!」
「お、おう……立ち直り早いなぁ……」
いつものハルカに戻った。ユウキはため息をつく。
「なあ、こんなことってないよなあ、オオスバメ」
引っ越してきた当日に、ポケモンを貰って、大喜びで見せて来た。目指すものが違うとしても、同じトレーナーとして何度か戦って来た。
ポケモンに指示する時の凛々しい声、プレゼントしたときの嬉しそうな声。
勝った時の嬉しそうな表情。進化したと報告してきた時の電話。
ずっと前から気付いてたんだ。それなのにハルカは気付かない。気付かないどころか……。
「初恋が実らないのは、本当だったんだな」
ユウキはミシロタウンへと帰る。オオスバメの翼に乗って。
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ウィズハートメモ(プロット?)
テーマ「ダンバルと手紙」
読む対象:マサポケの人たち中心(恋愛描写は極力避ける)
3−1−3もしくは3−3−3
カプ厨を避ける。ギリギリまでうすくする
ダイゴとハルカのキャラを濃く描写せず、読む人の想像に任せる
「初恋は実らない」ダイゴハルカ以外の誰かに言わせる
ウィズハートについて。
原曲:With Heart and Voice(デイヴィットギリングハム作曲)参考音源http://www.youtube.com/watch?v=05n35_VUEG4
フルートソロに当たるハルカの描写を重視。二回目のフルートソロまで。2回目のフルートソロに入ってくるアルトサックスはユウキにあてる。
メインテーマを好きだと自覚するあたりにする。
クラリネットとフルートのは戦闘シーンに持ってくる→はじけるところは手紙をみたあたりに。
その他テーマ候補。
ハピナスの送り人(ポケスコ没としていつか投稿した)
送り火やま
オーレからホウエンへ、ダークポケモン
こんなメモをしたらこんなのできたよ!
2は、2回目フルートソロからラストまで。
チャンピオン戦後にユウキが出せない理由その1
人間関係ってどうしてこうすんなりいかないのか、不思議なもんです。
吹雪の中、物凄いエネルギッシュに駆け抜けるものがかきたくて、気付いたら書き始めてから2時間で出来たクオリティ。
しかも書いたのが携帯だったので、途中で色々すっこぬけてます。
ちなみに9995字、携帯の送信ボックスの容量ギリギリでした。
ツグミとゾロアークがついたのは、誕生祭の前夜。だからどこも家族と過ごすから泊めてくれなかった。
翌日に教会に集まったのは、誕生祭当日のため。
クリスマスは意識した。
ジングルベルという一瞬ほんわかしたものを想像させておきながらの孵化廃人クオリティ。
ヨーロッパの昔ながらのクリスマスも書きたかったが、それはまたの機会にしよう。
実は、パソコンがしばらく不通だったため、代わりに投稿していただきました。その節は本当にお世話になりました。重ねてお礼申し上げます。
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つまりパソコン使えるようになったよやたー
第一印象は最悪でしたわ。
ポケモンのことなんてこれっぽっちも知らない、つい最近やっとおしめがとれたような小娘――そんな感じ。あなたはその身体には大きすぎるダッフルコートに赤い手袋を着けて、寒さで頬を真っ赤にしながら、パパに手を引かれてワタクシの住んでいた雪山のふもとにやってきましたわね。どうしてこのワタクシがあんな「へなちょこボール」で捕まってしまったのか、今思うと不思議でなりません。そのまま町まで連れられて、"晴れて"あなたの家族となったワタクシは、ずっと心の中で思い描いていた自由な未来が音を立てて崩れ落ちてしまった気がして、それはもう茫然としていましたわ。
この辺りの冬は人間には堪えるのでしょうけど、ワタクシ暑いのは苦手ですの。これ以上暖房の設定温度を上げるのは止めてくださる? 全くあなたは案の定、ポケモンについては何ひとつ知らない素人でしたわね。いくらワタクシでもかき氷だけで生活できるわけなくてよ。だからってこんな熱いコンソメスープ、飲めるわけないじゃない! チゲ鍋?! 冗談もいい加減にして。あなたのお父様がすぐに図鑑を買ってきてくれたから、ワタクシも一命を取り留めましたわ。いかにあなたの育て方が間違っていたか、お分かりになって?
それからというもの、あなたは真冬だというのに自分の部屋の暖房を切って、窓を開け放って生活してくれましたわね。ご飯もちゃんと冷ましてから持ってきてくれましたし、だんだんとワタクシの好みの味も分かってくれましたわ。
あなたは部屋の中だというのにいつものダッフルコートを着て、赤い手袋を着けて、ガタガタ震えながらワタクシの頭を撫でて「つめたい!」とはしゃいでましたわね。唇――青くなってますわ。お母様がお叱りになるのも当り前です。なにもそこまでしてなんて言ってませんわ。あなたの方が身体を壊してしまいますのに、なんて馬鹿な子。
お母様に叱られて、渋々窓を閉めるあなたを見ていたワタクシは目を疑いましたわ。お母様が部屋から出たのを見計らって、すぐにまた窓を開けてしまったのですもの。外は雪が降っていて、部屋の中にも吹き込んでいましたわ。そしてあなたはというと、叱られたせいで潤んでいる目を擦りながらワタクシの方を振り返って「あつくない?」なんて。
どうして泣いているのに、そんなにも満面の笑顔を見せますの。
あなたはいくつか冬を越えて、みるみるうちに背が伸びて、いつの間にかワタクシの方があなたを見上げるまでになりましたわ。
中学生のあなたは、時々学校の帰り道に少ないお小遣いでアイスクリームを二本買って、いつもワタクシに一本くださいましたわ。特にあの、中にあずきの入った白いアイスクリームは他のものより少し値が張るけれど、ワタクシたちの一番のお気に入りでしたから、月に一回だけと決めて楽しみにしていましたわね。今でもあの絶妙な甘さを、ワタクシの舌が覚えています。
高校生になったあなたは少しお父様やお母様に対する言葉づかいが悪くなって、化粧も覚えて、中学生の頃とはがらりと印象が変わりましたわ。勉強に恋愛、他にも色んなことに日々悩んでいるあなたの背中を見て、ワタクシはどうしていいものやら気を揉んでいた記憶があります。アイスクリームを卒業したかわりに、あなたは携帯電話の画面に毎日噛り付いていました。ワタクシとしても、あの頃はそれなりに寂しかったような気がしますわ――い、いえ、別にそんなこともなかった気がします。ええ。
高校を出てからのあなたは、自分のことでずっと迷っていました――少なくともワタクシにはそう見えましたわ。アルバイトをしながら、色々なものに手を出して、また手放して、また別のものに興味を持って、また捨てて、飽きっぽくて続かない自分の性格を嘆いていましたわね。ワタクシは何かして差し上げようにも、結局できることはそばにいることだけでした。
あれから数年が経ちました。あなたはひとつの決断をしましたわ。全くあなたらしい、今一つぱっとしない顔で。
まだ、あなたは迷っているのですか? もしそうでしたら、あまり考えすぎないのも一つの手かもしれませんわ。
なぜかって? それはもちろん、あなたが白いドレスにこうして身を包んでいるのは、あの日ワタクシがあの「へなちょこボール」で捕まってしまったのと、全く同じことだからです。
全く、ワタクシはユキメノコとして実に不自由な生き方をしてきましたわ。これも全部あなたのせいです。
この責任は、これからもずっとあなたが負っていることを決してお忘れなく。
「ねえゾーイ、あたしホントにこのままあの人と幸せになれるのかなぁ?」
そんなこと知りませんわ。全くこんな年になってもまだうだうだ言って。見てて腹が立ちますわ。
うまくいくかどうかなんて、そんなものあなたたち次第です。
どちらにせよ、ワタクシはずっとあなたのそばにいますから。
――ほら! 結婚式なんだから、もっとしゃんとなさい!
【めのこーめのこーめのこー】
無理。
無理な気がする。
俺の前――というか、ロトムの前に置かれたものを見て、俺は無謀なチャレンジャーの気分だった。
「ばあちゃん。……これ、なに?」
「冷蔵庫よ」
ばあちゃんは至極まっとうな答えを返してくれた。
そう、ロトムの前に置かれているのは冷蔵庫だ。ばあちゃん曰く、一昔前の。
「上に氷を載せて冷やすのよ」
うん。知ってる。これ、懐かしの生活展で展示されてた。
ロトムは冷蔵庫でフォルムチェンジするけど、こいつでできるのか? 無理だろ、どう考えても。というか、これは家“電”なのか。電気はどこで使うんだ。
「ばあちゃん。俺、これは無理だと思う……」
「あらぁ、でもロトムちゃんは冷蔵庫で形が変わるんでしょう? これも立派な冷蔵庫よ、だから大丈夫」
期待に充ち満ちた目で、ばあちゃんはロトムを見る。見られたロトムは助けてくれとばかりに俺を見るが、どうしてやることもできない。言い出したら聞かないひとなのだ、ばあちゃんは。
「さあロトムちゃん。頑張ってちょうだいね!」
行け、ロトム。お前も男だ。性別不明だけど。やればできる! てか、見てみたい。木製の冷蔵庫に収まったロトムの姿を。
俺も期待を込めてロトムを見つめる。ばあちゃんも期待を込めてロトムを見つめる。
逃げ道はないと悟ったのか、はたまた腹をくくったのか、ロトムがごきゅっと妙な音を立てて動いた。
ロトムの手(っぽい部分)が木製の冷蔵庫に触れた――!
☆★☆★☆★
家電じゃない家電を差し出されたらロトムはどうするか。
ふつうにフォルムチェンジできるのか、あの形状のままフォルムチェンジするのか、はたまたフォルムチェンジは無理か。
逃げ出すと見せかけてジャンピング土下座――からの
【バトンタッチ!】
「ユエさん、何か暑くありませんか、ここ」
「暖房が効きすぎているのかしら。まあ紅茶も飲んでいるしねえ…… かと言って暖房止めたらそれはそれでまた寒くなるだろうし」
「何か話でもしてくださいよ、ちょっと冷える話」
「んー…… じゃあ私が中学生の時に聞いた話でもしましょうか。私の担任は国語の先生で、大学は登山部でもあったの。その人の友達が経験した話よ」
えっと、その人はその日自分を入れた五人の仲間と一緒に登山していたんだって。かなり高い山で、上に行くに連れて天候が荒れて吹雪いてきたらしいの。皆は足元に気をつけて万全の体制で登っていたんだって。
だけどね、途中で一人の人が行方が分からなくなってしまったらしいの。この天気でしょ。山で命を落とす人ってやっぱり多いらしいわ。それで下手に探そうとしたら自分達も危ないってことで、涙を呑んで残りの四人は歩き続けたんだって。
それで、中盤あたりで小さな小屋を見つけたんだって。暖房もない、真っ暗な空間。このまま休んだり眠ってしまったらそれこそ全滅しちゃうって思って、あることをしたの。
――それは、四人が小屋のそれぞれの四隅に立って、一晩中相手の手にタッチし続けること。つまり、壁に沿って歩いて、次の隅にいる人にタッチする。そうされた人はまた壁に沿って歩いて、次の人にタッチする。
それを繰り返して、その四人は翌日無事に登山を終えて戻って来れたらしいわ。
「へー…… すごい根性ですね」
「でもそこまでヒヤリとは」
「あら、分からない?」
静かな空間に、カップを置いた音が響いた。
「よく考えて。四隅に一人ずつ。自分が相手の手に触れようとすることで、当然自分の後ろには誰もいなくなる。次の隅の人にタッチすれば、その隅には自分が来る。そう繰り返していくと、何が起きるか」
「えっと……」
Aが始めにBにタッチする。四隅を1、2、3、4と振り分けておく。1にいたAは2に行き、2にいたBは3にいたCにタッチする。Cは4にいるDにタッチして――
……あれ?
「Dは、誰にタッチするんですか」
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わざとここで終わらす。国語科の先生に聞いた話。いやー、登山部OBの話ほど恐い物はないね☆(と、場を明るくしてみる)
ちなみにまだあるけど恐いんでやめておきます
【何をしてもいいのよ】
アングラな臭いがする。
ああ、なんか都市伝説になってそうでいいなぁ。
嗅覚が無いってとこの表現がいいと思った。
それはある種の都市伝説だった。殺し屋、それもアングラ系インターネットの掲示板でだけ接触できるなどというのは、一歩間違わなくても既に厨二病などと馬鹿にされる発想である。
「……今日未明、コガネシティアオギ通りの交差点でマッハ自転車による交通事故が発生し二人が重傷を……」
殺し屋になど頼まなくても死の可能性などそこら中に転がっている。誰も気がつかないだけで。
その日その日の自分の選択が自分の運命を決めていて、生きている限り自分の手で死に繋がる糸を辿り続けているようなものだというのに。
そんなに他人を死に急がせたいのか。そんなにも他人に死を願うのか。
自分の事など一切合切棚に上げて。
「……一人に命の別状はないということですが、もう一人は現在も意識不明で……」
人間が生きているのなんてただ単に電気信号のルートがあるだけだ。思考すること、身体を動かすこと、生きていることそのものを認識すること。そのすべてに電気信号が関わっていて、例えば心臓に向かう微細電流を少し止めれば人間なんて軽く死んでしまう。
脆い。実に脆いタンパク質の塊だ。一般的生物に似通ったものという条件をつければポケモンも似たようなものだが、それにしたって脆弱に過ぎる。
「……続いてのニュースです。ヒワマキシティ在住の11歳のポケモントレーナーが、手持ちのグラエナに噛みつかれ死亡するという事件が……」
ポケモンの牙の一噛みにも、刹那の電流にも耐えられない。そのくせ、どこまでもその技の力を、殺傷力を上げるように要求して、それが通らなければ容赦無く罵倒を浴びせたり、捨ててしまったりする。人間の中でも、ポケモントレーナーというのは実に奇妙な存在だ。
自分がその鍛え上げた技の対象になったら到底生きては帰れないというのに。
ピピッと無味乾燥な電子音が、私のテレビからの声に割って入る。メールの着信。人の声は時折ヒステリックに、あるいは無意味な明るさで私の耳に障る。これくらいの電子音が丁度耳に合う。そうでないのは、ニュースを読み上げるアナウンサーの平坦な声くらいだ。
「最近は多いな」
「書き込みが多くなってねぇ」
向かいのパソコンから顔を出すポリゴンZは、ポリゴン種であるくせに私よりも生物らしい表情を持っているように思える。
それもプログラムか。予定された通りに電気信号が走り回っているだけか。それを思えば、人間の中に発生する「自然な」感情とやらも似たようなものだろう。あれも所詮、神経細胞の集合体の中を走り回る電流に過ぎない。
「サーバの6660から接続で、大体3時頃までいつも触っているらしい。一人暮らしのようだから、何か無い限りバレやしないだろう」
「了解した」
テレビから抜け出る。電子らしくない感覚は、この合間にどうも苦手になってしまった。向かいのパソコンまでの距離がやたらに遠く感じる。ポリゴンZが、無表情なはずの目にどこか心配そうな表情を浮かべているように見えた。錯覚か。それとも、お前は本当に人間らしい電気信号を持っているのか。
「行ってくる、主人」
その声の相手だけは、ポリゴンZではない。私の主人はずっとこのパソコンの前に座りっぱなしだ。預けられてばかりだった私が、腹いせに軽く電撃を浴びせたその日から、ずっと。
もうそろそろ肉が腐り落ちて骨が見えている。我々には無いが、嗅覚があったのならきっと近づきたくもない状態なのだろう。視覚的なレベルで既にそうなっているような気もするが、ほとんど無法のインターネット上にばらまかれた画像にはこれより酷いものもごまんとある。慣れたものだ。
そうして人間が簡単に死ぬことを覚えたポケモンが、簡単に死ぬ人間を殺している。少しばかりパソコンを通して電流を流してやるだけでいい。
人間の電気信号を邪魔するだけの簡単な仕事は、私の電気信号ひとつでできるのだから。
インターネットにしか居ない殺し屋は、今日も電子の海へと潜航する。
――――
お題【電気タイプ】
ロトムとポリゴンが組んだら電脳的に最強だと思うんですよ。
インターネット接触の殺し屋の話はとあるTRPGから。
【好きにして下さい】
かっこよくて美しいんだってさ!そうなの?
読み返して『そういえば』と思い出した駄目作者です。こんにちは。よかったなバクフーン!燃やすなよ!
バトルの時は外すかもしれません。
> 【紀成様へスライディング土下座】
【顔を上げてくださいな】
ありがとうございました!では!
「遅くなって申し訳ありません」
メラルバを引き取りに来たカクライは何やら包みを抱えて戻ってきた。のすのすとバクフーンがが近づいてくる動作は、進化前となんら変わらない。
視線が高くなったものの、カクライは彼の善意に笑みを浮かべて、寝入ってしまっている炎の幼虫をそっと抱きとった。
「ありがとうございます」
お礼を兼ねてなんですが、そんな風に言葉を濁しながらバクフーンに包みを渡す。
受け取った彼はそれが一体何なのだろうと恐る恐るといった様子で匂いを嗅ぎだす。
「進化のお祝いですよ」
「そんな・・わざわざありがとうございます」
美しい店長は恐縮したのか、看板息子から手を伸ばして包みを受け取ると、丁寧に包装紙をとき始めた。
「あら!」
ユエは意外そうな声を出した。
中からは朱色の鮮やかな紋様が映えるバンダナが入っている。
「丁度、ホウエンの物産展をやっておりまして。彼の邪魔にならないような装飾品はそれくらいしか思いつきませんでした」
苦笑しながらカクライが述べる言葉を、店長はそんなことはないと否定に入る。
「それでは、本日はもう遅いですから」
一礼してカクライはドアをくぐって出て行った。
次の日、彼は例のバンダナが学生たちが好き勝手にバクフーンを飾り付ける様子を見てまた苦笑を浮かべたという。
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余談 バクフーンへのプレゼントに悩み過ぎて長いこと放置してしまっていた。
【紀成様へスライディング土下座】
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