イッシュ地方のどこかの草むら。今日も彼女たちはポケモントレーナーたちに狩られまくっていました。
「いたた……。今日一日だけでもう六回目だよ……」
「もうしんどいったらありゃしない」
「あたしたちがいったい何したって言うのさ!」
「経験値多いからってあんまり痛めつけないで欲しいわ。全く」
こうして今日もタブンネちゃんたちは、傷だらけの体で自分たちの不幸な境遇を嘆いていました。タブンネ。
とその時、一匹のタブンネちゃんが、四角くて薄いケースを持って、やってきました。ケースの中には制服姿の可愛い女の子たちの写真が印刷されている紙、そしてきらきら光る円盤が入っています。
「みんな!いいこと思いついちゃった!!」
「タブ子、どうしたのよ一体。それにそれ一体何?」
「どうせまた人間のものでしょ? でも、何? それにいいことって?」
見慣れぬものを持ってきたタブ子にどよめくタブンネちゃんたち。タブ子は、タブンネちゃんたちの中で唯一、自分たちを痛めつける相手にも関わらず、人間たちの生活に興味を持っていました。そんなタブ子以外は、みんなこの透明なケースに入ったものが何だかわからないようです。タブンネ。
「それは……CDね」
……いや、タブ子以外にわかるタブンネちゃんが一匹いました。この草むらのタブンネちゃんたちの中での最年長。タブンネ様です。
……ちなみに、タブンネ様は他のタブンネちゃんと比べて年齢が上なだけであって、決してBBAじゃないからね!
「CD……? 何ですかそれ?」
「コンパクトディスクって言って、人間が音楽を聴くために使うものよ。機械で特殊な光を当てると音が出るの」
「へー」
タブンネ様の話に、CDを知らなかったみんなは頷きます。
「で、タブ子。このCDがどうしたの?」
「これ、すぐそこで拾ってきたんだけど、この人間たち、今人気爆発中の国民的アイドルなんだって!」
「アイドル……?」
しかし、みんなはアイドルの意味がわからないようです。タブンネ。
「アイドル……。なんと素敵な響き……」
そんな中、こっそりそう漏らしたのは、ちょっとヘタレなタブンネちゃん、タッブーです。人間のことは詳しくなくても、アイドルというものがどんなものなのかは知っているようです。タブンネ。
しかし、とりあえずタッブーの言葉はスルーしておきましょう。ヘタレですしね。
「可愛い容姿、それに歌や踊りで、たくさんの人間たちを惹きつけてやまない人たちのことね」
解説するのはやはりタブンネ様です。
「それで私たち、アイドルになるの! そうしたら人間たちから愛されて、ボコられることなんてなくなるはずよ!」
「おおおおお! 何という名案!」
「人間に殴られるタブンネから、愛されるアイドルになるのね! なんて素敵!!」
「いいじゃない!! やりましょ!!」
タブ子の名案にタブンネちゃん一同はどよめきます。
「そうと決まれば、早速練習ね! 人間たちを魅了できるよう頑張らなきゃ!!」
こうしてタブンネちゃんたちのアイドルユニット、TBN48が誕生したのでした。タブンネ。
*
「お! 一狩り行けるぜ!」
たった今、一人のポケモントレーナーが揺れている草むらを発見したようです。タブンネ。
「おら! 経験値よこせ!」
タブンネちゃんを狩るために、勢いよく草むらに飛び込んだトレーナー。しかし、彼はタブンネちゃんを見て、言葉を失いました。
タブンネちゃんがさながら女子学生のような制服を着ていたからです。
「野生のタブンネが、コスプレ……?」
ポケモントレーナーは一瞬戸惑いました。が、次の瞬間には彼は気を取り直して、タブンネちゃんをボコっていました。タブンネ。
こうして、タブンネちゃんは今日もやられました。しかし、そんなタブンネちゃん、やられ間際に何かを落としていきました。
それを拾ったポケモントレーナー。
「……何だ、これ? ……『TBN48第一回公演決定』?」
そうです。タブンネちゃんたちは、あの日以来、血のにじむような歌とダンスのレッスンをし、ついに人に見せられるくらいのクオリティに達成したので、初の自主公演を行うことにしたのでした。タブンネ。
「……何かよくわかんないけど面白そうだな。ちょっと他の奴にも教えてやろう!!」
このようにタブンネちゃんたちは、人間たちにボコられながらもビラ配りを行い、第一回公演が始まる前にもかかわらず、TBN48の名前はトレーナーたちの間でかなり広まりました。タブンネ。
*
さあ、そしてついにTBN48の第一回公演の日です。
「うわー。かなり人集まってるよ!」
「まさかこんなに集まるなんて……。緊張しておなか痛くなりそう……」
「ネッちゃん落ち着いて! センターが緊張でぶっ倒れてどうすんの!!」
「そ……、そうよね! 私頑張るわ!!」
草むらに作った特設ステージの後ろで、タブンネちゃんたちは集まってきたお客さんの様子を伺いつつ、緊張しているようです。タブンネ。
そして、いよいよTBN48の初公演の始まりです! 読者のみなさんも、ここからは人間目線でTBN48のステージをお楽しみください。曲は「タブンネローテション」です。どうぞ。
♪タ〜ブンネ〜(タ〜ブンネ〜)
タ〜ブンネ〜(タ〜ブンネ〜)
タ〜ブンネ〜(タ〜ブンネ〜)タブタ〜ブ〜ン〜ネ〜
タブンネタブンネタブン〜ネ〜 タブ〜タ〜ブンネ〜
こうして初公演は無事終了。お客さんからは拍手喝采。初演だったにも関わらずダブルアンコールが巻き起こったくらいです。タブンネ。
さて、そんな初公演を終えたタブンネちゃんたちは。
「まさかこんなに大好評だなんて……! 頑張った甲斐あったわね!!」
「あ、あたし感動……。 ううっ」
「ネッちゃん、泣かないで! まだまだ私たちはこれからなのよ!」
「そうよ! これから握手会なんだから! 笑顔笑顔!!」
そうなのです。タブンネちゃんたちはこの後握手会という大きなイベントを抱えているのです。終演後、お客さん一人一人と直に接することで、メンバーそれぞれが固定のファンをつけようという目論見です。タブンネ。
「よし、行きましょ! お客さんに感謝の意を伝えて、これからも足を運んでもらえるよう頑張らなきゃ!」
こうして始まった握手会でしたが。
「ありがとうございます!」
あるタブンネちゃんが笑顔で手を差し出すと、手を差し出したのはお客さんであるトレーナー……ではなく、トレーナーの手持ちポケモンでした。そしてポケモンはタブンネちゃんの手を取って、そのまま。
ちきゅうなげ。
また、あるタブンネちゃんも、手を差し出し、やはりお客さんであるトレーナーのポケモンが手を握ったかと思えば。
かいりき。
さらには、あるタブンネちゃんは、手を取られると。
にぎりつぶす。
こうして、握手会(?)が終わりタブンネちゃんたちはすっかりボロボロ。
「うう……。どうしてこんな目に……」
「公演はあんなに盛り上がってたのに……」
「こんなのってアリ……?」
「殴られるのもちょっと快感になってきたかも……」
約一名、違った感想が出てきていますが、とりあえず無視しておきましょう。
「まだまだ修行が足りないってことかしら……」
「確かに初演であれだけ盛り上がってちょっと天狗になってたのかもね」
「殴られるのは勘弁だけど、アイドル活動するのすごく楽しかったから、あたし続けたい!!」
「もっとみんなに愛されるアイドルになれば、こんなことにはならないはず! 頑張っていこう!!」
「おー!!」
こうして、TBN48は日々努力を重ね、その名を徐々に轟かせていきました。それと同時にタブンネちゃんたちは、「殴りに行けるアイドル」として親しまれるようになったのでした。タブンネ。
おわり
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは全く関係ありません。
【全方面土下座】
【どうしてもいいのよ】