夕日が輝く午後5時。 ホウエン地方、110番道路。 カイナとキンセツを結ぶサイクリングロードがあるこの場所に、ひとりのトレーナーが、マイナンをつれてやってきた。
「まったく、なんで私がこんなことを……」
トレーナーはそう呟き、傍らのマイナンと共に草むらに入っていった。
このトレーナーの名はエンジュ。 ホウエンでも5本の指に入る凄腕のトレーナーである。 そんな彼女がこの場所にいる理由。 それは……
時は2日前に遡る。 ミシロタウンにあるエンジュの家に、あるトレーナーから電話がかかってきた。
プルルル…プルルル…
「はい、どちらさまですか?」
「あ、エンジュ! ヒバナだよ〜」
相手はジョウト地方に住むトレーナー、ヒバナ。 エンジュのトレーナー仲間であり、現在はウツギ博士の助手でもある。
「ヒバナ? なにか用?」
「あのね、シンオウにいる私のいとこが来週旅に出るんだって」
「シュカだっけ? ふーん、それで?」
「でね、シュカにポケモンをプレゼントしようと思って。 それでエンジュにも手伝ってほしいの!」
「……はい?なんで私が……」
「今度の土曜日にホウエンに行くから、ポケモン捕まえておいて! じゃあね〜」
プツ、ツー、ツー……
「ええ!? ちょっと、ヒバナ!?」
エンジュは受話器に叫んだが、時すでに遅し。
「……はぁ」
エンジュは呆れたようにため息をついた。
……そんなこんなで、現在。 エンジュの前には数種類のポケモンがいた。
「どんなポケモンがいいのかしら……」
ポチエナ、ラクライ、ゴクリン。そのどれも、女の子(と聞いている)であるシュカには不釣り合いだ。
「うーん、どうしよっか、らいむ……ん?」
傍らにいたマイナンの側にもう1匹、マイナンがいた。
「マイナンか……らいむ、その子に捕獲していいか聞いてくれる?」
らいむは頷くと、側のマイナンと話し初めた。
「マイマァーイ、マイ?」
「マイマイ♪マーイー♪マーイ!」
突然そのマイナンが飛び上がった。そしてらいむに向かって無数の星型の光をとばしてきた。
「スピードスターか…らいむ、まもる」
らいむは体をまるめ、守りの体制にはいった。
ーーやがて光がやんだ。
「でんこうせっか」
らいむは目にもとまらぬ速さで、マイナンにタックルをした。
「……ッ! マイー……」
マイナンは地面に着地したが、その足取りはふらふらと重い。
「よし、ハイパーボール」
パシュン!と音をたて、マイナンはボールに入った。 ボールはしばらくゆらゆらと揺れ、カチッという音が響いた。
「……よし、捕まえた。 あとは明日、ヒバナに渡すだけか」
そういうとエンジュはらいむをモンスターボールに戻し、代わりにトロピウスを出した。
「…ひでんトロ、ミシロまでお願い」
凛とした顔で手の中のボールを見つめる少女が、輝く夕日を背に飛び立った。
[何してもいいのよ]
[たぶん続く]