カントー地方……間違えた、関東地方、西寄り。マサラタウンほどではないけどタマムシシティ、ヤマブキシティには程遠い土地に、その学校はある。
来年度の受験生向けのパンフを見せてもらったが、そこには『おいこの学校何処だよ』と通う私が突っ込んでしまうくらい嘘で覆われた内容と写真が載せられていた。堂々と野球部載せんなよ。知ってるんだぞ、一学期期末試験の結果発表の日、お前達が甲子園予選を戦いに行ってコールド負けして帰ってきたこと。なんだこの爽やかな笑顔は。この予算泥棒。
これ以上書くとカゲボウズ塗れになりそうなのでやめておく。ことの始まりは、甲子園おろか夏休みも終わって二学期が始まって二週間近く経った日のことだった――
これはどういうことなのだろう。パンデミックなのか。今まで何の予兆も無かった。私はまだいい。元々好きでこうしてサイトに小説を投稿しているくらいだから。だが、彼らは。彼らはどうなってしまったのか。
女子トイレ。教師陣が使えないのをいいことに休み時間は携帯電話による通話、メール、その他諸々校則違反のオンパレードの地となる。
そこの一角で、友人がDSをいじっていた。覗かせてもらえば、そこはイッシュ地方だった。
「お前ポケモン持ってたの」
「最近ハマった」
よくもまあぬけぬけと言えるものだ。中一の時私の趣味を聞いて『この歳でポケモン?ワロスwww』などと言っていたお前が!
「ブラックか……」
「紀成は持ってんの?」
「あたぼうよ」
何か意味が違う気がしたが、彼女は気にしない。図鑑を見てため息をつく。
「あー、サファイア今更やるのもな」
「図鑑完成か」
「紀成ってどのくらいポケモン持ってんの?」
ここでちょいと自慢したくなる。小学校の時はテレビゲームなんて持っていなかった。コロシアムをプレイしている男子が当時は珍しいジョウト地方の御三家を持っていて、羨ましかった覚えがある。
今度は私がその男子になる番だ!
「ほとんど持ってるよ」
友人が喰らいついてきた。
「最初の三匹は!?」
「え……うん。最終進化系なら」
「タマゴ頂戴!」
とまあ、ここまでで『中間終わったらね』と言って戻る。いやー驚いた。メアド交換して、中間終わった後で『欲しい奴あったらメールして。タマゴ生ませるから』とソフトを渡す。
で、その夜のこと。原稿をしていたら、メール着信の合図の曲が流れてきた。差出人は友人。
『おいなんでこんな伝説持ってんだよ』
そりゃあ、サファイア→パール→プラチナ→ソウルシルバー→ブラックと経由してきたんだもの。プラチナは数回やり直してギラティナが二体くらいいたはずだ。確かディアルガも二体、ルギアも……
『どれか一匹くれない?』
さてどうしようか。被ってるやつを教えてもらう。一番弱いディアルガをあげることにした。イベントで入手したものだ。
『ありがとう!』
それから早二ヶ月――
11月21日、月曜日、一時限目。左斜め前の友人が下を向いたまま動かない。ゲームだ。しかも機種はかなり古い。十年くらい前に発売されたGBA。まだ充電できないSPより前のモデルだ。今の小学生に見せたら、きっとカチンとくる答えが返ってくることだろう。何せ白黒画面のゲームの存在を、『戦後?』というくらいだから。
だがしかし。いやしかし。入っているソフトがいやに大きい。アドバンスのソフトはきっちり挿入できるサイズのはずだ。だが今入っている物は半分以上はみ出ている。
……まさか。
休み時間、見せてもらった。サファイアより色が少なく、グラフィックも粗い。ヒノアラシが戦っている。
そのまさかだった。
彼女は、ポケモン『銀』をプレイしていたのだった。
「ちょっと、電気ランプ点滅してるんだけど」
「ああ、何かメモリ切れちゃって、セーブできないんだよね」
「え、じゃあこのまま?」
「そうなるね」
二次元目の日本史。隣の男子がしきりにその古いアドバンスと格闘している。どうやらジム戦らしい。セーブできないのは辛い。一度負けて、鍛えなおしたら勝てたという。ちなみに所要時間、四十分くらい。
一時限の時間は五十分。何やってんだ、お前ら。
そして三時限目前の十分休み。さっきの友人がブラックをプレイしている。ディアルガが戦っている。
「おい紀成、このディアルガ、お前がくれたやつだよ」
「……」
すっかり忘れていた。ゴメン、ディアルガ。
――――
オチなし。でも本当のこと。いいよね、ポケモン(遠い目)