見ず知らずの――よい子限定ですが――人に黄金をプレゼントする。
そんな行為を半世紀近く続けてきたぐらいなグッドでアルティメットでウルトラなおじいさんがおりました。
ただ、この行為はアルティメットにグッドすぎたのでしょう。残念なことに完璧なまでの球体に加工した黄金を配るおじいさんの元にはあまり人が近づいてきてくれないので、なかなか黄金を配ることはできませんでした。
それでも、おじいさんはめげませんでした。
いつだっていいことは受け入れにくいものなのです。
いいことをするのも受け入れて協力するのも恥ずかしい、面倒くさい。そんな世の中だということを知っているからです。
街を綺麗にしようという清掃活動の呼びかけも暴力のない世界を作ろうと呼びかけることも人はいつだって見ないふりをするものなのです。それがたとえいいことだと無視している人も知っているのにも関わらず、に。
それと同じです。
だから、おじいさんはめげません。近くを通る人に声をかけ、きんのたまを配ります。
悪い人だった昔の自分を悔いるようにいい人になろうとおじいさんは頑張り続けました。
そんな行為を続けて、早数十年。
おじいさんはあるとき、ふっと疑問を覚えました。
自分はこのままでいいのだろうか、と。
その問いはもう幾度も通り過ぎた道でした。
見ず知らずの人に配っても、幸せになるのはきんのたまを受け取った人だけ。おじいさんの目的は世界中の人が幸せになることなのに、それではいささか範囲が小さすぎるのではないか、と。
そんな疑問が浮かぶたびにおじいさんは、千里の道も一歩からと言う言葉を胸に刻み続けて、その問題を解決してきましたが、今日はそうはいきませんでした。
配り続けてきたきんのたまの数は膨大だというのに、いまだに世界は幸せになりません。
世界は広いのだと思おうとしました。広いから分からないのだと思おうとしました。
でも無理でした。
今度は、どれくらいの年月をかければ、どれほどのきんのたまを配れば世界が幸せになるのかということを考えてしまったからです。
ふう、と溜息を吐いて、視線を落とせば、視界の端には深いしわの刻まれた節くれだった手。その手には杖を握っております。
もうおじいさんは若くない。いつ倒れるかわかったものではありません。
しかし、このアルティメットグッドマンの道を継いでくれる者はだれ一人としておりません。
この黄金に目を眩ませず、ただ奉仕の思想をもって、人に配り続ける。そんな人をおじいさんは長い月日を過ごしてなお、見つけることはできなかったのです。
いつ志半ばで倒れるか分からない。そんな不安を抱えてしまったのです。
おじいさんは思いました。
このままでは願いがかなう前におじいさんが死んでしまいます。
そうなったとき、残った黄金はどうなるのでしょう。
誰かが世のため人のためと使ってくれることを信じたいですが、世の中はそんなご都合主義はなかなか存在しません。
ただ、放っておかれるだけならいいですが、悪人の懐に入ってしまうことも十分に考えられます。そうなれば、おじいさんの願ったことと真逆のことが起きるのは明白です。
そして、あーでもない、こーでもないと思案した結果、おじいさんはひとつの結論を導きました。
やりかたを変えようと。
そうです。おじいさんは今まで、偏見を持たずに自分に近づいてくることをできる人をいい人だという選別基準を設けていました。しかし、それではおじいさんに近づいてくれる人が少なかったという弊害がありました。
おじいさんはこのことを今までそれだけいい人が少ないのだと思っていましたが、その話しかけられなかったという人に、内気でシャイな子がいる可能性に思い至ったのです。今朝のテレビでも、コミュニケーションが取れない人が急増しているとやっていました。
おじいさんの若い頃はそんなことはありませんでしたが、きんのたまを配り始めて数十年。時代が流れれば、人も変わるものです。
おじいさんもやりかたを変えるべき時が来たということでしょう。
おじいさんは今度は自分から声をかけ、配ろうと決めました。
幸せが歩いてこないように、目的の成就も歩いてきてはくれない。そんな当たり前のことにいまさらながらに気付いたのです。
まず、おじいさんはイッシュ地方に行くことを決めました。
さまざまな町で人を見定める。出会う人数は多い方がいい。
ならば、ビッグでフリーダムな地方を、ということをツイッタ―で検索したら、引っかかった地方だからです。
まずは注文すると次の日には届くと噂の密林でイッシュの地図をクリック。そして、イッシュへ向かう船旅のチケットを入手。きんのたまの形を崩さないようにブリーフケースに入れることも忘れません。
密林から地図が届いたと同日、おじいさんは船のタラップを踏みしめていました。
長い人生、イッシュという地を踏んだことは未だにないということに忘れかけていた冒険心がちりちりと胸を焦がすおじいさん。
自然と笑みが零れます。
◆ ◆ ◆
首が痛くなるほどの高いビル。そのビルに努める多くの人々。
同じ「街だというのに、おじいさんのいた街とは雲泥の差です。やはりイッシュはでかかった。
しかし、と名物のヒウンアイスを舐めながら、おじいさんは苦々しく思っていました。
大きい街だからでしょうか、人々に余裕はなく、皆自分のことで精いっぱいでとてもではないですが、人のために行動できる人が少なそうです。
今までは自分に近づいてくる人に見境なくあげていたおじいさんはこまってしまいました。だれがいい人なのか判断する基準を持ち合わせていなかったのです。
人の良さと言うものが見た目で分からないのが残念です。
しかし、まだイッシュにきたばかり。これから探せばいいのです。
溜息を吐きながら、おじいさんはヒウンシティを後にしました。
【書いていいのよ】
【好きにしていいのよ】
【レイニーさん、アルティメットグッドマンお借りしました】