1:大人
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「お母さん」
六つの声がこだまする。大きな椰子の周りを跳ねるそれらは、口々に質問を投げかける。
「僕達はさ」
「僕達ってさ」
「僕らはさ」
「僕達ってね」
「僕らはね」
「大きくなったらどうなっちゃうの?」
ぴたりと止まってじいっと見上げる。六対の視線にさらされた大木は、質問の意味を正確に読み取った。
「大丈夫、表に出てる顔は三つだけだけど、残りの三つもちゃあんといるよ。体は一つ、でも心は六つで一つ。それは大きくなっても変わらないよ」
それを聞いて安心したのか、六つの玉はきゃあきゃあと転がり跳ねる。
「そっかぁ」
「そうなんだあ」
「そうなんだね」
「それはいいねぇ」
「それでいいねえ」
「ああ良かった。僕達は皆揃って“僕”のままなんだね」
満足そうに揺れる六つの玉達。ゆさゆさ歩く椰子の後ろで、今日も仲良く飛び跳ねている。
2:ひび割れ
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「お母さん」
六つの声が呼びかける。大きな椰子を囲む彼らは、慌てたように転がり回る。
「僕達の体のね」
「僕らの体にね」
「僕達の顔もね」
「僕らの顔もだよ」
「僕らの顔と体にね」
「少しずつひびが入ってるんだ。どうしよう、僕達割れちゃうの?」
心配そうにじいっと見上げる。不安な眼差しを受けた大椰子は、からから笑ってこう言った。
「気にしなさんな、坊や達。それは成長の証さ、ひびが増えるほど進化の時が近づいてるんだよ。『割れる』のはおめでたい事さね」
それを聞いて嬉しくなったか、六つの玉は喜び勇んで跳ね回る。
「良かったー」
「良かったよー」
「良かったよねぇ」
「良かったねえ」
「良かったなー」
「ああ、ほっとした。僕達、ひびが入るのが楽しみになってきたよ」
幸せそうに揺れる六つの玉達。のしのし歩く椰子の後ろで、今日も元気に飛び跳ねている。
3:金の……
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「ねえ」
「お母さん」
六つの声が母を呼ぶ。大きな椰子はそれに答えて、頭を揺らして屈みこむ。三つの顔が一斉に、どうしたんだい、と問いかける。
「あのね、さっきね」
「うん、ついさっき」
「今よりちょっとだけ前にね」
「そう、ちょっと前ね」
「あのね、えっとね」
「出会ったニンゲンに『君達が色違いだったら、おじさんの“きんのたま”にしてあげるんだけどねぇ』って言われたんだけど、どういう意味なの?」
無垢な瞳でじいっと見つめる。答えに窮した大木は、しどろもどろでこう言った。
「まあ、あれだよ、ほら……大人になったら分かるよ、きっと。お前達にはあんまり関係ない話なんだけどねえ……」
それを聞いてがっかりしたのか、六つの玉は不満そうに転がり跳ねる。
「つまんないの」
「つまらないね」
「つまらないよねぇ」
「つまらないよぅ」
「つまんないよね」
「なんだ、僕達には関係ないのかぁ。でも大人になったら分かるんだね。楽しみだなあ」
期待に揺れる六つの玉達。もそもそ歩く椰子の後ろで、今日も無邪気に飛び跳ねている。
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犯行の動機;「書いてみた」が上手く進まずに苛立ち、ついカッとなって書いた。後悔はしている。……ほんのちょっぴりだけ(
初代赤時代で遭遇したとき、グラフィックに震え上がったのがタマタマとナッシーでした。ゲンガーといい彼らといい、どうも体にいきなり顔が付いているタイプが苦手だった模様。
1:ドードーやディグダみたいに増えるならともかく、進化後に減るってどういうこと? と思って書いた小話でした。きっと中の人ならぬ中の玉になるにちがいない、と。
2:ひび割れの件は図鑑説明より。しかし一個、中身が見えるほど割れちゃってるのはホントに大丈夫なのか……。
3:例のおじさんの手持ちには、きっと色違いタマタマがいるに違いないという妙な確信がありまして(以下略)
これは一体誰得? もちろん俺得。と妙な満足をしたところで作業に戻ることにします。読了いただきありがとうございました!
【何をしてもいいのよ】