とある森に1匹のキュウコンがいました。彼の行く所はいつも晴れ渡っていました。彼自身、快晴である事はとても好きなのですが、こうも変わらないといくら何でも飽きてきてしまいます。しかし、彼にはどうする事も出来ず、半ば諦めていました。
そんなある日の事です。彼が昼寝をしていると、毛皮に何かが当たるのを感じました。雨です。空を見上げると、ぽつんと小さな雨雲が見えました。彼は自らが雨に打たれる感覚を、唯々噛み締めていました。唯、只管――。
水溜まりも出来ぬ内に雨雲は東へ移り、再び太陽は彼を照らします。そして彼自身気付かぬ内に、雨雲を追って歩き始めていました。
彼が雨雲に追いついても、雨雲は消えませんでした。今までは、たとえどんなに大きい雨雲を追いかけようと、彼の周囲だけはぽっかりと穴が空き、燦々と輝く太陽が彼を照らし上げていたものですから、彼にはそれが不思議で堪りませんでした。
暫く追い続けていると、不意に声を掛けられました。
「何か用かい? さっきから僕に付いて来てるみたいだけど……」
はっと前を向くと、そこには1匹のニョロトノがいました。空ばかり見上げていたので、気付かなかったのです。
「いえ、そういう訳では……雨雲を追っていただけですので……え〜、その……雨を殆ど見た事がないものでして……」
「雨雲をかい? そんなに雨が珍しいのかい? この森、そんなに渇いてる様には見えないけどなぁ……」
「いえ、その、私の周りだけ晴れてると言いますか、何と言いますか、その……」
「あぁ、なるほど。それなら僕と同じだ。僕も行く所行く所何処も雨でね。いつも雨雲が付いて来るのさ。僕は雨好きだから良いけど、周りからしたらいい迷惑だよね、ははっ。まぁ、僕も雨ばかりじゃさすがに飽きてくるんだけどね」
「そうだったのですか……。あの……私は雨に打たれるのは今日が初めてなもので、暫く付いて行っても宜しいでしょうか?」
「付いて来るより一緒に歩こうよ、そっちの方が楽しいじゃない?」
「宜しいんですか?」
「良いって良いって。晴れてるのがどんな感じか聞かせてよ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えてご一緒させて頂きます」
「も〜、固いって。もっと楽に話して良いからさ」
「ありがとうございます。ではそうしますね」
「まだ固いって〜。ま、良いけどさ」
そうしてキュウコンはニョロトノと歩く事になりました。それから暫く歩き続け、森を抜けようかという頃――
「そろそろ森抜けちゃうけどどうする?」
「えー、ではあなたが良ければもう少しご一緒させて下さい。そうですね……森から1・2km程でしたら日が暮れる前に帰れそうですし……」
「うん、分かった。じゃあこのまま進むよ。帰りに虹が見られると良いねぇ。っと、あれ? 雨が止……痛っ!? 何だろう……? 急に視界も……。これは……砂?」
そうです。何故か突然雨が止み、砂嵐が吹き始めたのです。砂が当たる事に因る痛みと、すぐ先も見えない様な視界の悪さで、とても心地良くは感じられませんでした。しかし、2匹にとって砂嵐は初めての体験だったので、とても新鮮に感じられました。
「どうします? このまま進みますか?」
「ん〜、僕は行くよ。雨が止むなんて初めてだもの! 君はどうするの? 無理してまで来なくても良いけど……」
「行きますよ? 戻ってもいつもと何ら変わらぬ快晴でしょうし、少しばかり辛くともこちらの方が楽しいですから」
「じゃ、行こうか。それにしても、これじゃあ虹は見られそうになくなったねぇ、はは」
そうして2匹はまた歩き始めました。それから程無くして、2匹は何かにぶつかってしまいました。
「ん? 何だお前等?」
そう声がしたので見上げたところ、ぶつかったのはバンギラスであることが分かりました。
「あ……申し訳ございません……。この砂嵐でよく見えなかったもので……」
「あぁ、そいつは悪かったな。この砂嵐は多分俺の所為だ。俺がいるとどうも砂嵐になるみたいでな、砂の無いとこに行っても起こるもんだからどうしようも無くてよ。全く何でなんだか……。まぁそういう訳でよ、迷惑掛けて悪かったな」
「いえいえ、迷惑だなんて……。私達は砂嵐が初めてなもので、楽しませて頂いてますよ?」
「そうそう。僕等だって今まではずっと同じ天気だったからね、凄い新鮮なんだ。あ、彼はずっと晴れだったみたいで、僕はずっと雨だったんだ」
「おぅ、そうだったのか。まぁでも、晴れとか雨とかは周りから喜ばれる時もあるだろうけど、砂嵐で喜ぶ奴はいねぇだろ?」
「僕等がいるじゃない」
「あ……おおぅ、ありがとな。でも痛いだろ? 無理しなくても良いんだが……」
「別に無理はしてないよ? 痛いと言えば痛いけど、それを上回る新鮮さがあるからね」
「私も同じです」
「そ、そうか。ありがとな。喜ぶ奴なんて初めてでよ。ホントありがとな」
「何でお礼言うのさ。楽しませてもらってるのはこっちなんだから、お礼を言うのはこっちだよ」
「いや、言わせてくれ。ありがとう」
「うん……こちらこそありがとう。ん、あれ? 砂嵐が収まった……のかな?」
「その様ですね……視界も先程よりは良くなりましたし……。ですが代わりに……これは何でしょう? 氷……ですかね?」
「みたいだな……少し寒くなってきたし。にしても痛ぇな、これ」
「まぁね。でも、きっと君も初めてでしょ? 新鮮で良いじゃない」
「まぁな。砂嵐の方が過ごしやすいが、何かこう……胸が躍るものがあるな」
「ね? 僕も砂嵐の時そんな感じだったんだ。まぁ今もそうだけどね」
「でも何ででしょう? 急に砂嵐が収まり、氷が降るなんて……」
そんな話をしていたところ、1匹のポケモンがやって来ました。ユキノオーです。
「のぅ、御主等はこの辺りの者かの?」
「あ、私でしたらそこの森に住んでますけれど……」
「おぉ、そうか。なら1つ聞きたい事があるんじゃが、この辺りにチルタリスは居るかの?」
「チルタリス……ですか……。えーっと、見掛けた覚えは無いですね」
「そうか……すまんかったな。儂は他を当たるが、御主等も早めにここを離れた方がいいぞ。儂の所為で霰が降っとるからの」
「霰? これ霰って言うのか?」
「何じゃ御主等、霰を知らんのか? まぁ説明しようにもこれが霰、としか言い様がないがの」
「へ〜、そうなんだ。僕等はみんなずっと同じ天気だったみたいだからね、他の天気をあんまり知らないんだ。あ、こっちの彼が晴れで、こっちの彼が砂嵐、で僕が雨ね」
「まぁ砂嵐は天気と言えるか分からねぇけどな、はは」
「でさ、さっき儂の所為、って言ってたけど、もしかして君も?」
「おぉ、そうじゃ。何じゃ、御主等もそうじゃったのか。儂も行く先々で霰が降っての。好きと言えば好きなんじゃが、やはり何事にも飽きは来る物でのぅ。そこでどんな天気も平凡な天気にするというチルタリスを探しておるんじゃよ」
「そんなチルタリスいるのか? 平凡な天気って良く分からねぇが」
「噂で聞いただけじゃからの、本当かどうかは分からんわい。まぁ、儂も暇じゃからのぅ。損をする訳でもないし、探すだけ探しておるんじゃよ」
「そうなのか。まぁ本当だったらいつかは会えると思うぜ? っと、ん? 霰止んでねぇか?」
「ですね……。陽も若干射し込んできた様ですし……」
「でも晴れ……とは言い難いかなぁ……。雲も結構多いしね。まぁ曇りとも言い難いんだけど」
「これは……近くにチルタリスが居るのか!? 何処じゃ!?」
「そうなのか? だったら俺も探すぜ? 興味有るしな」
「僕も!」
「私も協力させて頂きます」
そうして4匹はチルタリスを探し始めました。しかし中々見つかりません。
「見つかりませんね……」
「むぅ……まぁ、チルタリスを見つける事より霰を止ませる事が目的だったからのぅ、これはこれで良しとするかの」
「そうか……俺は見てみたいんだがなぁ……」
「まぁいいじゃない。いつかは会えるって君も言ってたじゃない」
「まぁな。でもなぁ……」
そうして見つける事を諦めかけていた頃、1匹のポケモンがやって来ました。
「なぁなぁ」
「ん? 何だ御主」
「何言われても……わいは見た通りゴルダックやで?」
「……で、何の用だ?」
「いや〜、さっきから君等よく見掛けるなー思てな。キョロキョロ見回しとったみたいやけど、何か探してるん?」
「えぇ、チルタリスを探しております」
「チルタリスを? 何で?」
「この天気じゃよ。儂がいると霰が降るはずなんじゃが、今はこの通り、降ってないじゃろ? じゃから噂で聞いた様なチルタリスが近くに居るかと思っての」
「ふ〜ん。霰が何かも、噂がどんなんかも知らんけどな、わいんとこはいつもこんな天気やで?」
「そうなの? ん〜じゃあ目的は達成できたのかな? チルタリスじゃないけど」
「ふむ……まぁそういう事になるんじゃろうな……多分」
「……なぁ、暫く付いて行っても良いか?」
「へっ? わいにか?」
「あぁ」
「別にえぇけど、何で?」
「あー、俺がいるといつも砂嵐になるんだよ。でも、お前がいればこんな天気なんだろ? だから暫く付いて行こうかと思ってな」
「そうなんか。でも何で砂嵐が嫌なん? 君なら砂嵐の中でも無事ちゃうん?」
「ん、まぁ確かに砂嵐の中は快適だけどよ、俺からしてもやっぱり視界は悪いんだ。星も見えやしねぇ。まぁ、何より周りに迷惑掛けたくないしな」
「あー、分かった。わいは別に何処行くかとか決めてへんから、行きたいとこあったら言ってな」
「俺も別にねぇけどな」
「儂も暫く付いて行って良いかの? 理由は大体同じじゃ」
「えぇでえぇで〜。多い方が楽しいしな。君等はどうするん?」
「私は森へ戻ります。愛着があるもので……。気が向いたらまた来て下さると嬉しいです」
「ん〜、僕はまぁ、適当にぶらつくよ。また会えた時はよろしくね」
「あいよ〜、ほな、わいは行くで」
「じゃあな、ありがとよ」
「じゃあの、礼を言う」
そうしてゴルダック、バンギラス、ユキノオーの3匹は去って行き、再び雨が降り始めます。
「じゃあ僕もそろそろ行くね」
「えぇ、ありがとうございました。宜しければまた来て下さい」
「うん。いつになるかは分からないけど、また来るよ。じゃあね、ありがとう!」
そうしてニョロトノも去って行きました。再び太陽がキュウコンを照らします。太陽が隠れていたのは高々3時間程ですが、彼にはとても新鮮に感じられました。
そして彼はその空を見上げます。空には鮮やかな虹が架かっていました。
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あ、ありのまま今起こった事を話すぜ……1000文字を目標としていたらいつの間にか4263文字まで伸びていた……何を言ってるか(ry
という訳でですね、1000文字どころか4000文字超えました。ヒャッホーイ!
何はともあれ、皆様明けましておめでとうございます。この作品は特に関係ありませんが。
それにしても台詞が多いですね。ノベルチェッカーによると台詞と地の文の比率が76:23だとか。地の文だけだと1000文字いってません。三人称の文章書くのが苦手なのかな……。
あと台詞の中の間投詞と三点リーダーも多いですね。読み辛くてすみません。
誰が台詞を言っているかは口調で区別したつもりですが、分からない箇所がありましたらすみません。当初はチルタリスを出す予定でしたがこれが理由でゴルダックに変更しました。オイラ口調にしてみてもまだニョロトノと被ってたので、仮完成後に関西弁もどきに変更してたり。結構間違ってると思うので誰か関西弁分かる方添削お願いします。
砂嵐と霰の時間が短いのはHPの問題という事にしておいて下さい。後付けですが。
ちなみに登場順は素早さの種族値で決めました。キュウコン100>ニョロトノ70>バンギラス61>ユキノオー60ですのでこの順に。同時に出した場合は遅い方の天候になるので。
ノーてんきのポケモンも飽きてくるかなーとも思いましたが、胃液ぶっかけたり悩みの種植え付けたりミイラになったりシンプルビームくらったりする描写が私にはまだ出来ないので。
後書きも読み辛いですね。すみません。
追記:2012/5/27 本文微修正
【書いてもいいのよ】
【描いてもいいのよ】
【何してもいいのよ】
【明日の天気は快晴のち雨のち砂嵐のち霰のち晴れでしょう】
【関西弁の添削求む】