「ああもうハクリューマジ美しすぅぅぅ!!」
カントー地方、マサラタウンの北に広がる草むらで、桃色の帽子を被った少女が突然叫んだ。 周囲に人は見当たらなかったが、近くにいた彼女の手持ちポケモン達は大いに驚いた。
「ぐおお……だからいちいち叫ぶなよモモコ! 耳が痛いわ!」
最初に言葉を発したのは耳を押さえて抗議したライチュウ。 これは彼らにとって日常茶飯事とはいえ、さすがに突然叫ばれたら驚かない方がおかしい。
「だってりゅーがめちゃめちゃ美しいんだもん! らいちもそう思わない!? この美しく青いボディーに輝く綺麗な水晶……」
モモコと呼ばれた少女は瞳をキラキラと輝かせながら、らいちと言うライチュウにハクリューの良さを熱弁し初めた。
「また始まった……別になんとも思わねえよ。 こんなナルシスト野郎のどこがいいんだか……」
その言葉を聞き、モモコの傍らにいたハクリューが、ライチュウの前に進みでた。
「我はナルシストなどではない、単純に美しいだけだ」
「それをナルシストって言うんだよ!」
「なにを言う。 もしやこの美しき我のことが羨ましいのか?」
「はあ!? おまえ、バカなのか? その思考なんとかしろよ!」
「我のどこがバカだというのだ。 理解できん!」
「俺も理解できねーよ!」
ギャーギャー騒いでいる2匹を、モモコはニコニコと見つめている。 その腕の中にはいつのまにかふわふわなワタッコが居た。
「モモコ〜止めないの〜?」
「大丈夫大丈夫! あの2匹はケンカするほど仲がいいってやつだから」
「そなの? じゃ〜あおば寝る〜」
モモコの腕の中で、ワタッコのあおばはいつものようにスヤスヤと寝息を立て始めた。
「おやすみあおば♪ ……うふふ、あおばも可愛いなあ♪」
眠っているあおばを抱きしめながら、モモコはらいちとりゅーの喧嘩に目を戻した。
既にバトルに突入している2匹のポケモンを、少し離れた木陰から見守っているポケモンがいた。
「もう、♂ってどうしてあんなに子供なのかしら……」
呆れたようにため息をつくシャワーズに、隣に居たロコンが無表情で呟く。
「……そーいう生き物なんでしょ。 それより相談ってなに」
彼女……ロコンのあかねは、隣のシャワーズのみずりに「相談がある」と言われ、ここに連れてこられたのだ。
「そ、そうだった……あのね」
「前置きはいいから」
「……実は最近、らいちやりゅーと話すと、緊張してつい思ってることと反対のこと言っちゃうの」
「で?」
「……いや、これはなんでなのかなって」
「ただのツンデレ。 以上」
そう言うとあかねは木に登り、昼寝する体制に入った。
「え……あかね、それだけ?」
「うん」
みずりは呆然としている。
「……ツンデレってなに?」
「自分で調べて」
「調べるって、どう……」
「モモコに聞けば? あたしは寝る。 邪魔したら燃やす」
あかねはキッパリと言い、それっきりみずりが話しかけても返事しなくなった。
残されたみずりは1人呟く。
「……いつものこととはいえ、やっぱあかね怖いなあ」
ーーこれが、彼女達の日常である。
[なにしてもいいのよ]