それはたった一言で時雨の運命ががらりと変わった。
「龍狩りだぞ! 皆逃げろ!」
高台から、見張りがそう言うと、馬に乗った龍狩りがすぐに現れた。
人々の叫び、地鳴りのようにとどろく、馬の蹄と龍狩りが放った燃え盛る炎。
時雨(しぐれ)の両親は、時雨をひっぱって走っていた。すると、父が
「時雨、今すぐ自分の龍を呼んで逃げるんだ」
時雨は戸惑った。
「早く! 私たちのことはいいから」
時雨は、一瞬、戸惑った。自分だけで逃げてもいいのかと。でも、崩れゆく、家々を見ると、頭が真っ白だった。
「いたぞ!」
はっとすると、龍狩りの青年たちが目の前にいた。時雨は、両親を見た。両親は、必死に、抵抗をし、時雨を守っていた。時雨は、自分が何を考えたのか、何のためらいもなく、指笛を吹いてしまった。すると、蜻蛉が、やってきた。時雨は、蜻蛉に乗ろうかどうしようかと思ったら、蜻蛉がいきなり、時雨をつかみ、飛んだ。
龍狩りの矢が飛んできたが、蜻蛉は時雨をつかみながらも、必死に守ってくれた。
どのくらいまで飛んだのだろう。蜻蛉は、時雨をとある丘に降ろしてくれた。
時雨は、その丘から焼け野原となった自分の故郷を見つめた。蜻蛉は、哀歌のような歌を歌っているかのように吠えていた。
時雨は、両親を見捨てたことが悔しくてたまらなかった。龍狩りが憎らしかった。でも、憎んでも仕方がない。
「行こう、蜻蛉。身を隠してどこか遠くへ行こう」
蜻蛉は、哀歌のような歌を歌うのを止め、こちらを振り返ると、時雨が乗りやすいように、背を下ろした。
時雨は、蜻蛉に乗って村が見えなくなるまで、飛び続けた。
そして時が経ち、時雨は立派な少年へと成長をした。
村はずれの一角で、時雨は、蜻蛉と共に過ごしていた。
収入はわずかだが、時雨と蜻蛉は一生懸命に共に助け合いながら、働き続けてきた。あいかわらず、村ののけ者だったが、時雨は、常に、村の人々を助けてきた。
村の人も、助かっているのか、だんだんと、時雨と打ち解けていたが、あまり、打ち解けてくれない人もまばらにいた。
ある、桜の季節のことだった。畑仕事をし始めようとしたら、地鳴りのような馬の蹄の音が遠くから聞こえてきた。
ゼブライカとギャロップという、馬に乗った青年たちが時雨の前へと現れた。
「おい、おめぇ、龍山のふもとの村の者か?」
時雨はどきりとした。その村は、かつて時雨が住んでいた村だったからだ。時雨は、ここで嘘をつこうかどうしようか、迷った。
だが、嘘をつかなければ、自分の命が危ないと感じた時雨は、首を横に振った。
「そうか。だったら、そのフライゴンはどうしたんだ? ここでは珍しいではないか」
「あの、この時雨、龍山のふもとの村の者です」
はっとすると、ラクライが相棒の一人の子どもがいきなり行って来た。
「こら、嘘つくでねぇ」
今度は、子どものお母さんなのか、子どもを叩いて現れた。傍らには、ミミロップがいた。
「だって……」
「だっても何もない! すみませんね。うちの子、嘘をつくのが好きでね。
それにしても、あんたら、見かけない顔ね。この何もない村に何の用かね?」
子どものお母さんが問い詰めると、青年たちは、何だか、絡まれると、めんどうくさそうに思ったのか、それぞれの馬を逆方向に操って去って行ってしまった。
「あの、ありがとうございます」
時雨は、そう言うと、子どもを見ると、子どもはむすっとしていた。
「いいのよ。あなたには助けられてばかりだからね」
子どものお母さんがそう言うと、ミミロップがキューと鳴いた。
「さ、帰るわよ」
子どもの母さんが言うと、子どもは僕をちらと見ると、そっぽを向いて去ってしまった。
「クー?」
フライゴンが心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫だよ」
時雨は、フライゴンの頭をなでると、フライゴンは嬉しそうに鳴きながら、すり寄って来た。
とある酒屋、『海鼬(うみいたち)亭』。そこに、一人の青年が酒を少しずつ飲みながら、ドンチャン騒ぎをしている、あほな連中を見ていた。
「よぉ、あんちゃん。あんたもつきあわねぇか?」
酒臭いおじさんがそう言うと、青年は、黙って『海鼬亭』を出た。
「何だよ、つれねぇな」
遠くでおじさんの声が聞こえたが、青年はそれでも、かまわなかった。
青年は、遊楽街を出て、龍山を見た。
この国は、龍狩りという、龍山のふもとの村に住んでいた者を片端から見、殺すというのがあった。
だから、一匹のドラゴンタイプのポケモンがいれば、疑われ、殺される。嫌な世の中になったものだ。何を考えてそんなことをやるのだろう。
(……)
青年は、誰もいないところで一匹のチルタリスを呼ぶと、そのチルタリスに乗り、どこかへと飛び去って行った。
青年は、ある時雨を探していた。フライゴンの少年を。
まだ朝靄が立ち込める中、時雨は、お気に入りの林へと向かって行った。
すると、一匹のチリタリスがいた。そして、その傍らには、見知らぬ青年がいた。蓑傘をかぶり、浅葱色の着物を着ていた。旅人なのか、青年のかっこうはぼろぼろだった。
「お前は、時雨か?」
時雨は自分の名前を知っている、この青年に驚くしかなかった。
「お前は覚えていないだろうが、僕は、お前の従兄弟、秋雨(あきさめ)だ。
今は、放浪の旅をしているが、この国の昔話を聞かせてなんとか稼いでいる。
それより、時雨、なぜ龍狩りが始まったのか、知りたくはないか?」
確かに、それは知りたい。でも、なぜ、秋雨は知っているのだろうか。
「なぜ知っているような顔をしているな。僕は酒屋を回って情報を得ているんだ。だから、少しだが、知っている。
さて本題だ。なぜ、龍狩りが始まったのか。それは、二年ほど前だ」
この国の領主、狭霧には、とてもかわいがっていた息子がいた。その名は川霧(かわぎり)だった。
川霧は戦いが強く、何よりも大切にしていたのが、龍山のふもとの村から賜ったオノノクスを大切に育て続けていた。
だが、ある日のことだった。
突然、オノノクスが苦しみだし、逆鱗を発動してしまった。海霧は、逆鱗に巻き込まれ、死んでしまった。
疲れ切ったオノノクスの隙を見計らって、捕えた。オノノクスの体を見ると、一本の毒針があった。
おそらく、刺客がオノノクスに毒針を刺したのだろう。オノノクスは、そのまま放置され、毒に侵されて死んでしまった。
狭霧は、刺客を捕らえる以前に、こんな危険なポケモンを送った龍山のふもとの村の住民を恨むようになり、龍狩りを執行した。
そう、龍山のふもとの村の住民を皆殺しにせよと。
時雨はそれを聞いただけで恐ろしかった。
「時雨よ、お願いがある。耳を貸してくれ」
時雨は秋雨に耳を近づけた。そして、驚いた。密かに反乱を起こしている、秋雨の仲間たちと組んでくれという内容だったからだった。
一方、狭霧がいる、城では、一人の時雨と同じ年頃の少年が、何か反論をしていた。
「父上、龍狩りを止めてください。みすみす、自滅したいのでしょうか?」
「雨霧(あまぎり)。何度行っても、むだだ。私は決して龍狩りを止めない」
「ですが、父上」
「帰れ」
雨霧は、その場から去るしか無く、渋々去って行った。
時雨は、蜻蛉に乗り、秋雨のチルタリスについて行った。ついて行った所は、遊楽街の外れの一角だった。暗い場所で、いかにも怪しく感じた。
すると、秋雨が隠し扉を開いた。
「秋雨さん、ここは?」
「秋雨で良い。ここは、『海鼬亭』という、酒屋の裏手だ」
扉の向こうには、たくさんの人々がいた。
「帰ったぞ」
「秋雨、そいつは?」
「僕の従兄弟の時雨だ。相棒はフライゴン」
「じゃあ、目的の奴を探してくれたのか」
秋雨はうなずいた。時雨は何の事すら良く分からなかった。
「悪いな、時雨。僕は嘘をついたんだ。僕は実は龍狩りの一員で本当の名は瀬戸。お前の従兄弟は当にいないのに、まんまと罠にはまったの」
時雨はびくっとした。そうだ。なぜ、自分は、従兄弟がもういないのに、なぜ、罠にはったのだろう。
(じゃあ、ここは龍狩りの本拠地なのか?)
時雨は逃げ場がない場所でどうすればいいのか分からなかった。
周りは、にやにやと笑いながら、こちらを見ていた。
一か八か。時雨は意味が無いと思っていたが、指笛を吹いた。すると、蜻蛉が天井を突き破って現れた。
蜻蛉は、尾を思いっきり振り、龍狩りと秋雨と秋雨のチルタリスもろとも吹っ飛ばせ、時雨を必死に守ってくれた。時雨は、その間に、蜻蛉に乗った。蜻蛉は、床を蹴り、力強く、はばたいた。
突き破られた天井、ほこりが立ち込める中、龍狩りたちは咳払いをしていた。
「ちっ、逃げられたか。どうしてくれるんだ、秋雨」
「……」
秋雨は、黙って『海鼬亭』の裏手を出た。
日が暮れかける頃、蜻蛉は、どこかへ飛んでいた。
「蜻蛉、降ろして。寒い」
蜻蛉は分かってくれたのか、とある、森に降ろしてくれた。
「誰かいるの?」
びくっとして後ろを振り返ると、若武者がいた。時雨は、とっさに、蜻蛉をどこかへと追いやった。
「今のフライゴン?」
「はい……あの、ここはどこなのでしょうか?」
「僕の父、狭霧領主の城の森の一角だよ」
時雨は頭の中が真っ白になった。この若武者の言った言葉が嘘であって欲しかったが、目の前にあるのは、立派な城があった。
龍狩りたちに自分の顔を見られては、もうここに来たら、命は無いと思った。
「おい、雨霧。誰かいるのか?」
野太い声が聞こえた。狭霧だと思うと、心臓が破裂しそうだった。
「大丈夫、私がなんとか言うから」
若武者はそうささやくと、森から出た。
「何をしていたんだ?」
「私の友が、この僕に仕えたいと言ったけれど、城の表門では入れなかったから、森から入ったと言いました。私の友は今この森にいます」
若武者はそう、嘘をまくしたてて言うと、
「……連れて来い」
と言う、狭霧の答えが帰って来た。
若武者は、時雨に手を招いてきた。時雨は、頭を下げたまま、森を出た。
「……面を上げろ」
ゆっくりと頭を上げると、そこには、狭霧が仁王立ちのまま、こちらを睨みつけていた。傍らには、強そうなリザードンがこちらを見ていた。
「そなたの名は?」
時雨は名前に困った。時雨と名乗れば、自分の身分がばれてしまう。
「父上、ここにいる、私の友の名は久遠です」
時雨は、突然、若武者が嘘を言ってきたので時雨は驚くしかなかった。
「そうか。む、そなた、時雨と言う人物に似ておるの」
狭霧はそう言うと、時雨はどきっとした。
「そうでしょうか? 人間誰しも似ているからね」
若武者はそう否定をすると、狭霧は、眉を上げたが、黙って去って行った。
「君、本当の名は何? 時雨でしょう?」
「……はい、そうでございます。でも、なぜ僕を助けるのでしょうか?」
「私は殺生が嫌いでの。だから、そなたを助けた。時雨、私の名を教える。私の名は雨霧。よろしく頼むぞ」
空は月明かりが照らしていた。そして、その影に、時雨の相棒の蜻蛉がいた。
次の日。時雨は朝早く起き、仕事にとりかかった。城の廊下の掃除、馬の手入れ。なんでもこなし続けた。
一通り、仕事を終えると、雨霧がいきなり、見たことの無いものを渡してきた。
「大福、食べるか? おいしいよ。大丈夫、誰も見ていないから」
大福と言う、見たことの無い、丸い餅のようなものを見た。雨霧は自分の大福を食べていた。
時雨は、大福を手にとり、食べ始めた。時雨は大福のおいしさに驚くしかなかった。
「おいしい」
「だろ」
雨霧はにこにこと笑いながら、時雨を見た。
「ねぇ、友達にならない? 私、友達がこれといっていないから」
「……身分が違うけれど、良いのでしょうか?」
雨霧はうなずいた。
ある、夏の暑い盛り。龍狩りが城に訪れてしまった。
すると、龍狩りが、時雨に気づいてしまった。
「おい、こんな所に時雨がいるぞ」
時雨は自分の名を狭霧の目の前で言われ、冷や汗が止まらなかった。
「……久遠よ。そなたは本当に久遠と言う名か?」
時雨はどうしようか迷った。だが、もう嘘はばれてしまった。
「はい……そうでございます」
正直に話すと、狭霧は拳をわなわなとふるわせ握りしめた。
「こやつを今すぐ殺せ!」
「お止めください、父上!」
雨霧は、時雨の前に立ちふさがると同時に、龍狩りの刀に斬られてしまった。
「雨霧!」
時雨はそう叫びながら、雨霧の元へと行った。
「父上……兄上を……殺したのは……この男です」
雨霧はとぎれとぎれにそう言いながら、狭霧の近くにいた側近を指差した。
「父上……龍狩りを……した……自分の過ちを……お考えください」
雨霧はそう言い残すと、気を失った。
狭霧は、時雨を見つめていた。龍狩りは刀を落とし、その場から逃げてしまった。そして、狭霧の側近はがくがくと足を震わせ、その場から動かなかった。
「はよ、医者を呼べ! そなたの罪は追々、分かるだろう」
側近ははっとして、尻もちをしてから、床を這うように逃げ去って行った。
狭霧は、時雨を見、
「……時雨、私が悪うことをした。許しておくれ」
狭霧は、突然、時雨の目の前で頭を深々と下げた。
「そ、そんな領主様。嘘をついた私が悪かったのです」
時雨も頭を深々と下げた。
あれから一カ月後。山が紅葉に色づく頃。時雨は、城の表門を出た。
「本当に旅をするんだな」
狭霧はそう言うと、時雨はうなずいた。すると、ぞうりをすりながら、雨霧が走って来た。
「時雨、短かったけれど、そなたと友となれて嬉しかったよ。またここに来てくれないか?」
雨霧はそう言うと、時雨はうなずくと、雨霧が手を出した。
「約束の握手だ」
時雨はまたうなずくと、雨霧の手を握った。
そして、蜻蛉に乗ると、空高く飛んで行った。
蜻蛉をいったん止め、紅葉に囲まれた城を見上げた。
(また、会える日まで)
時雨はそう思いながら、蜻蛉をまた進めた。
また同じ過ちが起きないよう、旅をしながら、自分の物語を語り継ぎたい。時雨はそう誓った。
お題【ドラゴンタイプ】
ここの掲示板では初めましての方が多いかと思います。初めまして。佐野由宇と言います。
そして、ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます。
今回は、お題に挑戦をしてみようかと、龍狩りと言うのを投稿をしました。
【描いてもいいのよ】