私が物心ついたときから、そいつはいた。ピンク色のタブンネというポケモンだった。
私の情操教育に、と大人しいポケモンを知り合いからもらってきたという。そのタブンネは両親の願いにそぐわず、私に触覚のような耳を押し当ててはどっかへ行くようなやつで、私も特にタブンネを好きじゃなかった。気に入らない時には叩いたりした。その度に両親はタブンネをいじめるんじゃないと怒っていた。私はますますそれが面白くないので、タブンネの耳を引っ張って遊んでいた。小さなタブンネは私のおもちゃだったと思う。
そのタブンネが最も懐いているのが父親だった。毎日触覚を背中に押し当てては父親のまわりで何かやっている。父親を取られた感覚もあって、私は本当にタブンネが好きじゃなかった。父親と遊んでる時に、ちらっとこっちを見てくるのも不快だった。
私の誕生日、こたつでケーキを食べていると、いつも一番に父親のところへ行くのに、触覚を押し当てただけで私の隣に来た。お祝いしてるよと両親は言ったが、私はタブンネにケーキを取られると思った。だから耳の触覚を引っ張った。タブンネはいつものような高い声で鳴いた。母親が私を叩く。タブンネがかわいそうだと。私はかわいそうじゃないのか。タブンネは母親のところに行った。何度も父親を振り返った。
次の日もタブンネは父親に近づこうとしなかった。肩が凝り過ぎて痛いと言えばタブンネはいつもならさする。けれどお気に入りのソファーに座ってても、父親が来るとこたつの下に潜る。ついに嫌われたんじゃないと母親は笑っていたが、正直タブンネがいなくてすっきりした。
数日後、父親は死んだ。心筋梗塞。心臓の血管が詰まる病気だといった。
原因なんて解り切っている。タブンネがやったんだ。ポケモンだから、人を病気にすることなんてできる。あんなに懐いていたタブンネがぱたっと懐かなくなった。そのあたりから具合が悪くなったんだ。
母親に訴えてもタブンネはそんなポケモンじゃないとしか言わない。絶対に嘘だ。タブンネはそんなことをするポケモンだ。誰も信じない。
タブンネは父親がいなくなると、私によってきて耳の触覚で触って来た。あれに触られたら殺される。いつも以上にタブンネを叩いた。しばらくタブンネは遠巻きに私を見て、それからまた近寄ってくる。叩かれることが解っててそれでもタブンネは近づいて来た。気持ちが悪かった。
私に近づかなくなったタブンネは、母に近づいた。けど私の姿を見るとそこで止まる。私が怖いらしい。
そうして母と私とタブンネは一緒に暮らしていた。タブンネの姿を見るだけでもむかついてくるが、母親はかわいがっている。私の背が大きくなり、タブンネを見下ろす形になって、ますますタブンネは私に近づいて来なくなった。
私は遠くの大学に進学することになり、実家に母と悪魔のタブンネを一緒にしておくわけにはいかないといった。けど母親は相変わらずタブンネはそんなポケモンではないとしか言わない。タブンネはじっとこちらを見ている。その青い目が小さな頃の思い出と重なってむかついた。あいつさえいなければ父親は死なずに済んだのに。
タブンネのことで母親とモメたのもあって、その日は早く寝た。
朝早く起きると、タブンネは耳の触覚で母親の背中を触っている。またあいつやっている。またあの時と同じことをやっている。今度は両手を添えて、背中をさするように触ってる。けがらわしい。
タブンネの耳を引っ張ると、いつもと違って散々抵抗する。短い手を振り回して私をつかみにかかる。突然の反抗に戸惑った。母親もタブンネを怒らすんじゃないとしか言わない。タブンネは母親の方しか見てない。
数日後、母親が倒れた。父親と同じ心筋梗塞だった。
もう間違いない。タブンネは二人も殺した。葬儀の間、ずっと私の隣から離れなかった演技も全てお見通しだ。お前のせいだ。お前がうちにいるから二人とも死んだ。私の両親を返せ。
私の後にくっついて、何のつもりだタブンネ。もうお前を庇う人間はいない。私は台所から包丁を取り出した。タブンネの目がおびえる。
一歩前に出た。タブンネが一歩下がる。命乞いのつもりか、涙を浮かべてる。ポケモンって泣けるんだ。人の親を殺しておいて、自分は命乞いするんだ。
包丁を振りかざした。タブンネは一目散に逃げ出した。閉まっていた玄関を開けて、後ろを振り返らずに去っていった。
悪魔はいなくなった。しかしあのタブンネを逃がしたのは私の気がおさまらない。
「タブンネってポケモン知ってる? 倒すとたくさん経験値をくれる、優しいポケモンよね!」
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他力本願スレより、ラクダさんの「ポケモン嫌い」から頂きました。
ブラックの図鑑を初めて見て、タブンネって脈で体調を知るんだーって思って、そういえば漢方も脈から診断するはず、そして癒しの波動ってかなりレベル高くないと覚えないんだなー。
そんなタブンネの妄想から始まり、「無知は虐待へつながる」という言葉をもらい、げしげしにいたりました。
ずっと前にDV的なものを書きたいと言ってたのがついに投稿できるよ!
私はゲーム中に出てくるNPCをいじるのが好きみたいです。
【好きにしていいのよ】【げしげししていいのよ】【げしりかえすから】