「ライモンシティ行き、間もなく発車します。駆け込み乗車はおやめください」
帰りのバトルサブウェイが動き出す。ここから帰る人たちはいろんな事情を抱え込んでいた。途中で負けたもの、区切りをつけて帰るだけのもの。ただこの時間は人が少ないのか、広い車両に一人だ。
途中の駅で買い込んだキャンディを一口。そして真っ暗な窓の外を見る。
夜のように真っ暗だ。ここは地下鉄、景色なんて見えない。時々、反対方面に向かうサブウェイが見えた。それ以外は何の変わりもない、ただの暗闇である。
「パスを拝見します」
車掌の言葉に顔をあげる。首からぶら下げていたスーパーシングルトレインの許可証を見せた。
「あれ、さっきのサブウェイマスターの……サガリさん!」
「僕はクダリ!」
名前を間違えられて一気にフォーマルな表情から、プライベートな子供っぽい表情へと変わる。
「クダリさんですか、すいません」
シングルトレインにいたノボリと良く似た人だ。親戚なのかもしれないが、性格がだいぶ違う。
「クダリさんもバトルサブウェイ好きでこの仕事してるんですか?」
「ノボリと一緒にしないでよ!僕はバトルが好きなの!」
同じじゃないか。そう思っても言葉には出せなかった。苦笑いでやり過ごし、荷物から残ったキャンディをクダリに渡す。
「お疲れ様です。青リンゴ味ですよ。よければどうぞ」
サブウェイの窓は相変わらずの暗闇だ。ダイヤが違うのか、他のサブウェイともすれ違わない。
「お仕事は?」
「君で終わり。……さっきから外ばかり見て、何が面白いの?」
クダリがつまらなそうに言う。確かにそうかもしれない。彼にとって見慣れた暗闇。
「クダリさん。誰かが私に言ったんですよ。電車って人生に似てるって」
「なにそのいきなり哲学。僕に解るよう説明してよ」
「受け売りなんで上手く解釈できないんですが、電車は乗り遅れたら二度と乗れない。人生も、チャンスの電車に乗り遅れたら二度と乗れない」
クダリはとてもつまらなそうだった。相づちの声からしてもう話を聞いてる態度ではない。
「クダリさん、私、過去に一人、すれ違ったままの人がいます」
「その人は、ポケモンを人間から解放するといった信念で突き進みました。私は違うといって対決したままいなくなりました。その他にも私には友達がいます。二人とも、途中迷ったりしてましたが今では自分の道をいってます」
「その時、私は何をしていたんでしょうか。みんなより人生の特急に乗った気分で、二人に勝った気でいたんです。二人とも、普通列車に乗って、乗り換えで迷っても自分の行き先を見つけたのに私は乗り換え駅でどの電車にのっていいか解らないんです」
「で?」
今まで黙ってたクダリが口を開く。
「で、って、私が今思ってることですよ」
「何を迷ってるか知らないけど、乗り換え駅なら来た電車に乗ればいいじゃん」
クダリが飴を嚼んだ。
「これだから子供は嫌いだ。迷ってる自分がかっこいいとか思ってるんだもん。乗り換え駅にいて迷ってるっていう自覚あるなら最初に来た電車に乗ればいいだけじゃん。君つかれる」
クダリが立ち上がる。座ってる時とは違って、その背丈は大きい。クダリを目で追うと、窓の外に灯りが見える。
「もうライモンシティに着くよ。それじゃ」
「あ、クダリさん!」
「何?」
「また勝負してくださいね」
「君が勝ち抜ければね。……直接申し込むんだから腕には自身あるんだろ」
クダリは車両のドアに手をかけた。そしてもう一度振り返る。
「君、名前は?」
「私ですか?私はトウコです」
「ふーん、そう。じゃ」
そのままクダリは白いコートと共に消えて行く。トウコはその方向に頭を下げた。
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バトルサブウェイの帰り。今まで辿ってきた道は何だったのか。見えない窓を見て主人公は何を思うのか。
幼なじみはそれぞれ目標をみつけたのに、主人公だけぽーんと放り投げられたようで、エンディング後はもしかしたら
クダリにはまだ会ったことないけど下りだからクダリさんにした。
【好きにしていいのよ】【最近サブマスが気になるのよ】