おどれ おどれ 二匹のドラゴン
朝も夜も混ざり すべてが許される
ぐるぐるわかれて ぐるぐるまざって
まわるまわる まわってねじれて
踊れ 踊れ 二匹のドラゴン
〜雪花の町のわらべ歌より〜
*
旅人ひとり訪れる、そこはカゴメタウン。
街角の公園、子供たちは遊び、歌う。
二人の童女が手を打ち合い、身振り手振りを持って、歌う。
旅のアナタや どこ行く人ぞ
今に日暮れじゃ こちらにおいで
暗闇夜闇は人には怖い
怖けりゃ休め 隠れて休め
お日様眠れば まっくろくろの
寒いが出てきてなお怖い、なお怖い
この町の童歌か。ここもまた、歌われる民話があるのだろう。
「旅の人かいね?」
不意に老人の声。傍ら、椅子に腰掛けた老婆が。
「こん町は初めてかい?」
えぇ、まぁ。と答えれば、「そうかいね」と言う。
「こん町は夜になっと、怖いのが来て出歩いとるもんを取って食うっつうんよ。早いとこ出てくっつんならともかく、泊まってくんなら、日ぃ落ちる前に宿とるこったな」
なるほど。それは、あの子たちが歌うのと、関係が?
「おぉ。全部じゃないがな、昔っから夜中に外出たもんがおらんようになることが、ちょくちょくあってなぁ。後で見つかったもんは寒いーさむいーってガタガタ震えるんよ」
それは怖い。それで、子供たちが真似をしないようにと、あんな風に歌われているんですか。
「あぁ。やめろっつうとやりたがる聞かん坊もおったが、そいつもおらんようなってな……。こん町で、ただの迷信って馬鹿にするもんはもうおらんよ」
…………。
まっくら寒いのどこからくるか
だぁれも知らんと言うとこじゃ
おうたら食われるさらわれる、と
だぁれも知らんと言うものじゃ
暗いの怖い おうたら食うぞ
寒いの怖い さろうてやるぞ
怖けりゃ帰ろ おうちへ帰ろ
あったか明るいおうちにおらば
暗いも寒いもようおらん、ようおらん
恐ろしい伝説は、事実をもとに語られる。知りたがりの犠牲の上に歌われる。
なるほど。だから、この町の人間は夜には外を出歩かないのか。
ところでおばあさん、と訪ねる。
「なんかね?」
さらわれたけど見つかったって人、どこで見つかったんですか?
「おぉ? 北の山ん中さぁ。あの辺は、そんな高いとこでもないんに雪のひどいとこでぇな。きっと悪いもんがおるんじゃーって、とっちめに行くもんがようおったよ」
……そりゃそうでしょうね。それで?
「なーんも。見つからなんだ、ならまだしも、遭難して世話焼かせるもんまでおったさぁ」
そうですか。近づいたら、それだけで危ないのか……。
「あんたもそうならんようにな」
おっと。
こちらの意図を見抜いていたか。まぁ、あんな質問をする旅人は、よっぽどの知りたがりぐらいなものと思ったんだろう。まさにその通りだ。
……ありがとう、おばあさん。お礼といってはなんですが、私も余所の土地の“伝承”ってヤツをお教えしましょう。
*
白の竜と黒の竜 二匹は螺旋にそって踊り狂う
竜は何時から踊っているのか それはもう分からない ぐるぐるまわって混ざりあい ぐるぐるまわって離れて行く
螺旋がいつかねじりに変わり 二つの竜は一つのまどろみに戻ろうとする
ねじりはまざりを拒絶する 螺旋は昼と夜とを分離して 白と黒はまた黒と白に戻る
いつか螺旋の軌跡は塔になる
白の黒とは踊り続ける
いつだか踊りの疲れはて 白と黒とは休息を望む
次に混ざり合った時 黒と白は白と黒に分離して ぱたりと踊るのをやめた
後に残るは白の珠 後に残るは黒の珠
踊れ 踊れ 踊りつかれた二匹のドラゴン
朝と夜はすっかり別れ 混ざりも捻りもなくなって
螺旋の軌跡ばかりが残る
*
旅人ひとり、町を離れる。
求めるは三匹目の存在。いるかさえ知られぬ存在。
しかし歌われる。怖い、寒いそれが。
ならば、知りたい。そして伝えたい。
求めよう。故に。
北へ。
* * * * *
お久しゅうございます、MAXです。
今回は、音色さんからネタの提供を受けての作品でございます。
ある時「即興でなんか作ってみましょうよ。だからテーマ出して」と三題噺のお客側みたいなこと言われまして、「じゃぁ、わらべうた、でなんか考えてみましょうよ」と。そして音色さんから黒と白のドラゴンのお話を、自分はカゴメタウンの伝承でネタを出したのでした。
以上のネタをまとめて今回の作品にしたのですが、その話があったのは1月26日のこと。おおよそ1ヶ月前です。
……ここまで形にするのが遅うなりました。申し訳ない!
以上、MAXでした。
【批評、感想、再利用 何でもよろしくてよ】