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  [No.2313] 嘘吐きウソッキー 投稿者:音色   投稿日:2012/03/20(Tue) 17:54:12   120clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

あるところにウソをつくのが好きなウソッキーがいました。
ウソッキーは誰もが笑顔になるウソが好きでした。
ウソッキーは小さなポケモン達も好きでした。
子供たちはウソッキーのウソが大好きだったからです。
ウソッキーは色々なところを旅することも好きでした。
あちらこちらの風景に溶け込むことが好きだったからです。
ウソッキーは他のポケモンを驚かすことも好きでした。
みんなのびっくりした顔が好きだったからです。
怒りだすポケモンもいました。泣きだすポケモンもいました。
ウソッキーはその時、お詫び代わりにウソをつきます。
それは聞いていてとても楽しいウソです。
怒りだしたポケモンも、泣きだしたポケモンも、みんな笑いだしてしまいます。
ウソッキーはそんな笑顔が好きでした。

ウソッキーは気に入った場所にしばらくとどまります。
すると子供達はいつもウソッキーと遊びたがります。
みんなウソッキーのウソを聞きたくて仕方がないのです。
ウソッキーはねだられるままにウソをつきます。
小さなポケモン達は一つのウソが終ると、次のウソを、次のウソをとねだります。
笑顔が見たくて、ウソッキーも丁寧に一つ一つウソをついていきます。
あっというまにウソッキーはみんなの人気者になりました。

ある朝、ウソッキーは自分が空っぽになっているような気がしました。
どうも気持ちが良くありません。
いつものように小さなポケモン達がウソをねだりにやってきました。
ウソッキーは何かウソをつこうとするのですが、開いた口からは何にも出てきません。
まだかまだかとポケモン達は急かします。
ウソッキーは正直に、何も出て来ないと言おうとしましたが、その言葉すらも上手く出てきません。
みんなはだんだん機嫌が悪くなってきました。期待の眼差しが途端に鋭いものに変わります。
ごめんね、今日はウソはないんだよ。どうにか絞り出した言葉を聞いて、小さなポケモン達は文句をいっぱいぶつけました。
ひとつひとつがウソッキーの空っぽの心に刺さります。
お話のできないウソッキーなんていらない。ウソの付けないウソッキーはいらない。そういって小さなポケモン達は飽きたおもちゃを捨てて、ばらばらに帰って行きました。
ウソッキーはしょんぼりしながらその場所から去りました。
確かに小さなポケモン達の言う通りなのです。ウソッキーのウソを聞きたいから集まってくるのだから、ウソが付けなくなればウソッキーはただのウソッキーなのです。
ウソッキーはまた小さなポケモン達の笑顔が見たいなあと思いました。

ウソッキーは砂漠にやってきました。ここはいつも砂嵐が吹き荒れています。
普通のポケモンならとても居心地は悪い場所ですが、ウソッキーにとっては何ともありません。
しばらくここにいようかな、と空っぽのままウソッキーは思いました。
ところが、一つ問題がありました。
砂漠は何にもありません。これではウソッキーは風景に溶け込むことができません。
これは困ったなぁ、と思いながら、ウソッキーはとぼとぼ歩いていました。
ぽつんと砂漠のまんなかに何かが立っていました。
ウソッキーが近づいていくと、それが何か分かりました。砂嵐のなかで背の高いサボテンが立っているのです。
ノクタスがぼんやりとしていました。
砂漠にサボテンがいることは何にも不思議ではありません。
しかし、そのノクタスは好んで風景に溶け込もうとはしていないようでした。
ウソッキーがそばにやってきても、ノクタスは特に反応しません。
ずっと黙っています。
砂嵐の音だけが響きます。
何時しかウソッキーも隣に立ってずっと黙っていました。

夜になると砂嵐が止みました。
あたりがぐっと寒くなりました。
ふとノクタスが上を見上げました。
つられてウソッキーも空を見上げます。
そこには満天の星空がありました。
ウソッキーはその光景にただただ息をのみました。自分の持っている言葉をすべて使っても表せないであろうそれに、どうすればいいのか分かりませんでした。
ノクタスは黙っていました。
何も言いませんでした。
その沈黙に全てが表されているように思えて、ウソッキーもずっと黙っていました。

次の日、ウソッキーは自分が空っぽではないことに気がつきました。
とても清々しい気持ちです。
ノクタスを見ると昨日と同じ様にぼんやりとしていました。
ウソッキーはノクタスにお礼を言いたくてはじめて声をかけてみましたが、こちらを向くだけで特に何も言いません。
元来無口なのかもしれません。
お礼を言われる理由が分からないかもしれません。
それでも、よかったのです。
言葉を紡がない時間をくれたことにお礼が言いたかったのです。
心が満たされたウソッキーは、砂漠を後にしました。

ウソをつくのが好きなウソッキーがいました。
あちらこちらをまわるのが好きなウソッキーがいました。
景色に溶け込むのが好きなウソッキーがいました。
自分のウソでみんなの笑顔を見るのが好きなウソッキーがいました。
そして自分が空っぽになった時、砂漠で何も言わないノクタスと一緒に空を見上げるウソッキーがいました。


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余談 ドーブルが絵描きならウソッキーは語り部だと思う
あらゆるものを吐き出しつくして空になったなら、言葉を紡ぐのをやめてしまえば良い。
疲れたら休みましょう。

・・・的な何か。
【好きにしてもいいのよ】