ふぅっと一息ついて、ゾロアークは空を見上げた。
突き抜けるような青い空と、そこだけミルクをこぼしたような雲のコントラストが目に眩しい。
長いこと旅に出ていた。そんなときに浮かぶのは家に残した美しい妻と可愛い子供。そろそろ帰ろう。お土産は何がいいだろう。長いこと開けてしまったから、怒ってるだろうか。子供はどのくらい大きくなったのか楽しみで仕方ない。
ふとゾロアークの鼻に綿雲がはらりと落ちる。払いのけようと鼻先の雲を掴んだ。
「羽?」
誘導されるように空を再び見上げると、青い空に目立つ白い風。数羽の鳥が飛んでる。しかも円を描いたり、宙返りしたり。その都度、羽毛が美しく鳥を飾っていた。
ゾロアークはその鳥を追いかけて走り出していた。もっと見ていたい。その思いだけで走る。鳥たちが着地するあたりに。
「誰!?」
ゾロアークの姿を見つけた鳥たちは一斉に睨んだ。ピジョンが数羽、そしてトゲキッスが一羽。
「えっと、空のダンスを見て、もっと見たいなって思って……」
ピジョンたちは顔を見合わせる。知らないゾロアークがいきなりやってきての申し出に、困惑しないはずがない。けれどトゲキッスがにこりと言った。
「ありがとう、よろこんでくれて」
その言葉はゾロアークに向けられていた。
「ピジョンたちは知り合いの結婚式だと、お祝いに集まってフェザーダンスを踊るんだ」
「つまり、誰かの結婚式……?」
ゾロアークが聞き返すと、トゲキッスが恥ずかしそうに言う。
「ボクたちだよ」
隣にいるのが新婦のピジョンのようだった。
「本当はピジョットになるまで結婚しないつもりなんだけどトゲキッスがいいって言うし」
これにはゾロアークも祝福しなければならない。荷物の中から結婚のお祝いに相応しいものを取り出す。それらを受け取ると、新郎新婦は深く頭を下げた。
「見知らぬゾロアークに祝ってもらえたし、私もちょっくら踊る!」
新婦はその翼を羽ばたかせようとしたが、仲間のピジョンたちに止められる。
「新婦が踊ったら意味ないじゃん!」
「お祝いの踊りじゃないか!」
主役二人に見せる為らしい。しかし新婦のピジョンは止められてつまらなそうだ。よほど好きなのだろう、フェザーダンス。
「一番上手いからってお祝い見せる相手が踊ってたら意味ないから!」
「トゲキッスに見せるからいいのだ!」
それだけ言うと、新婦のピジョンは空へと飛び立つ。仕方ないなという顔をして、ピジョンたちは空を飛んだ。
そして始まる、白い羽と青い空の共演。ふわりふわりと散った羽がゾロアークの頭にそっと乗った。
「ピジョンはね」
空を見上げながらトゲキッスは言った。
「ここに迷い込んだ僕を仲間として扱ってくれてね。何から何まで教えてくれたよ。僕が歌うととても嬉しそうに聞いてくれた」
ぽつりぽつりと昔のことを断片的に思い出すように語る。
「だからね、僕はピジョンがポッポだろうがピジョットだろうが関係ないんだ。型破りのお祝いフェザーダンスだろうが、僕はピジョンが一番だよ」
トゲキッスの言葉に、ゾロアークも妻と出会った頃のことを思い出す。何かが解らないけど、何か特別で一緒にいたいと思った。きっとこのトゲキッスもピジョンに対してそう思うのだろう。
「実は、故郷に妻と子供がいるんだ」
ゾロアークは舞い降りる白い羽を荷物の中に入れた。
「トゲキッスやピジョンを見てると、帰るところっていいなって思う」
年頃の女の子のようにはしゃぎながらフェザーダンスを踊るピジョン。きっと明日からずっとトゲキッスと一緒。ずっとずっと。だから最後にみんなで踊りたいのだ。妻の友達が最後にダンスをやたらと誘って来たように。
「だから、もう帰ろうと思うんだ」
ピジョンのフェザーダンスはまだまだ続く。羽ばたきがリズムを生み、周りのピジョンが風に乗ってさらに高く舞う。白い羽に包まれたピジョンが上昇気流に乗って楽しそうに鳴く。息など切れない。そのまま歌い出しそうな動きで、トゲキッスの目を楽しませる。
「ゾロアークの家はどこなの?」
「んーと、ずっと遠くだよ」
「途中まで送っていくよ。大丈夫、僕はピジョンと違って踊らないから」
「わあ、凄い嬉しい!」
羽音一つさせず、ピジョンがトゲキッスのもとへと戻る。渾身のダンスの後の顔は、とても輝いていた。
「でも、遠慮しておくよ。新妻がいるのに、邪魔するわけにもいかないから」
トゲキッスの羽に黙って嘴をうずめるピジョン。ほめて、と言わんばかりの行為に、トゲキッスはアンコールを送る。
「じゃ、元気で、縁があればまたー」
結婚式の祝福にフェザーダンスを踊るピジョンたち。こんなことも話してやろうと、ゾロアークは家路を急いだ。
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ごめん池月君のつもりで書いたのに池月って名前出すの忘れたごめん
踊るポケモンたちをテーマに短編かいていきたいなと思って、先発はフェザーダンス。
どこかで見た設定?いやいや気のせいです旦那。
【好きにしてください】