いつものように、サイコソーダの栓を開ける、春の日の午後。
彼が瓶に口をつけようとしたまさにその刹那、それは起こった。
パキ ン。
一瞬の音と同時に、シェノンはアシガタナを顔の前で構えていた。
足元に、サイコソーダの瓶が転がる。彼がそれを見、小さく舌を打ったのが聞こえた。
並みの者が見ていたら、ただこうにしか見えなかっただろう。
しかし彼の赤い目は、目の前を一瞬にして通り過ぎた気配を見逃さなかったのだ。
足元の瓶は、割れていた――否、“切り裂かれていた”。すっぱりと斜めに、真っ二つに切られていた。
「うおりゃああぁぁぁっ!!」
レッセが放出した気合いで、無数の灰色い群れに多少の穴が開く。
が、液体であるかのように蠢き、鳴き声を上げ続けるそれらを退けるにはあまりにも小さな攻撃だった。
「囲まれちゃったわね」
隣のもう一匹のコジョンド――ティラが変身した姿である――が、灰色の群れから目を離さず言う。
「下手すると死ぬよ? 私達」
「皆も、もう死んでたりして。この数じゃね…」
お互いに背中を合わせた彼女らは、言葉と反して楽しむかのような不敵な笑みを浮かべた。
「片っ端から蹴散らすわよ」
二人を中心にして、激しい閃光と爆風が巨大な轟音を伴って発生した。
「……逃げて……」
抱きかかえているサワンの発した、小さな力の無い声をナイトは聞き取った。
草タイプであるにもかかわらず、勇ましく戦った彼女の身体には所々に痛々しい傷が付いている。翼で打たれたり、嘴でつつかれたりした傷だ。ぐったりしていて、とても一人で立てる状態ではない。
「馬鹿だな、お前を置いてくわけないだろ」
ナイトの発した声さえも、灰色の羽音に掻き消されてしまいそうだ。
その羽音の中で、虫の騎士は静寂を求めた。左腕にサワンを抱えた今、右腕にだけ精神を集中させ、そして深く息を吸い込む。
今はとりあえず、安全な場所へ避難する事だけを考えなければならない。そもそも安全な場所というのが存在するのかさえも分からないが。灰色の軍団――“マメパト”にこの空間が支配されてから一体どれ位の時間が経っただろう。
片腕のランスで迫ってくる灰色の生物を振り払いながら、できた道を突進していく。
アポロン、と太陽神の名前を持つ幼いメラルバは、恐怖に怯え震えていた。
彼の母親ナスカが周囲に熱を発生させている為、焼き鳥になるのを恐れてマメパトは近寄れなかったが、辺りを飛び交う灰色の渦は見ているだけで十分恐ろしい物だった。さらに、彼の父親のペンドラー、ファルの居場所も分からない。いつも遊んでくれるアギルダー、カゲマル兄ちゃんの安否も分からなかった。
「おかあ…さん」
「大丈夫よ、心配しないで。みんなきっと無事で居るはずよ」
彼女も本音を言えば、夫のファルと仲間がとても心配だった。ナスカのように、炎で敵を遠ざけられるならまだいい。飛行タイプに対して弱点を持つ彼らは、大丈夫なのだろうか。サワンはあの腕のいい騎士と一緒に居れば、おそらくは大丈夫だろうが……。
どこまでも灰色をした空間は、彼女がずっと居たあの遺跡の古い広間を思い起こさせた。
せっかく本を読みに来たのに、これは一体どういうことなのだろう?
中に入ると、マメパトが図書館を占拠しているではないか。辺り一面灰色で何がなにやら分からない。料理をしているような匂いも漂ってくる。しきりに『マメポケ万歳!!』などと叫んでいるのが聞こえるが……。
「おじさぁん…これ……」
隣のコリンクが、不安げな表情で聞いてくる。大分物分りの良くなってきた彼に、今日も物語を読んでやろうと思ったのだが。
すぐそこに、初めて見るポケモンがいるのに気が付いた。青色の魚のような尾がある。首と顔に白い髭が生えていて、手には薄黄色く長い刀のような物を持っていた。灰色の渦を見つめていた彼は私達に気が付くと急に振り向き、赤い目でこちらを見た。
「おまえ、ちょっと手伝ってくれないか?」
開口一番、そんなことを口にする。
「何をだ」
「この図書館の開放。俺はダイケンキのシェノンっていうんだが、図書館に仲間が閉じ込められちまってな……。おまけにさっき俺が飲もうとしてたサイコソーダの瓶を切り裂いて、“マメパト参上!”とか書かれた紙落としていきやがって」
なんというか、明らかに後者の方にこもった恨みが強かった気がするのは置いておく。
目的が同じなら、一緒に行動して損はないだろう。多分。
「よし、マメパト鳴かしに行くぞ」
「シェノンさぁん、鳴いてるのは元からだと思うー」
「四月馬鹿だぜ、エイプリルフール」
「…………」
彼らの冒険は、今、始まった!!
物語の枠を超えた出会い、ダークライ&ルキにシェノンが繰り広げるマメパトだらけの図書館ファンタジー、連載予定☆
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お久しぶりです銀波オルカです
一応こんくらいの駄作が書ける程度には生きてます
もうなんかシリアスにしようとしたのかギャグっぽくしようとしたのか自分でも分からなくなってしまった
あと私はドラゴンクエストを人生一度もプレイしたことはございません
【好きにしてね】
【半日クオリティ】