「すみません。バトルタワーにエントリーしたいんですが……」
「ああ、新規の方ですね。本日はまことにご利用いただきありがとうございます。ご不明な点がございましたら、お気軽にお尋ねください」
「はい……実は僕のポケモン、50レベルを過ぎてしまっているんですが……」
どうにも落ち着かないのか、まだ若いトレーナーは腰につけてあるモンスターボールを左手でいじっていた。
「大丈夫ですよ。バトルタワーではポケモンのレベルを調整できるように整備されていますので」
トレーナーの緊張を和らげるためなのか、営業スマイルなのかは分からないが、社員が作る笑顔を見て、彼は安心したように息をついた。
「そうなんですか。レベルを調整できるだなんて、驚きです」
「正確にはレベルを調整するわけではなく、能力値を調整するんですよ」
彼のふとした疑問にも、社員は笑顔を崩すことなく答える。
「それはどのように?」
「例えば、タウリンやインドメタシンなど、ポケモンの能力値を上げる薬品がありますよね? そのベクトルを逆に応用し変化させ、体内のたんぱく質を分解し筋肉量や技のキレ具合を下げるんです」
「それはすごいですね。どうしてそのような薬品が、一般店で販売されていないんでしょう?」
初めから変わらぬ笑顔で、社員はにこやかに答えた。
「ポケモンのホルモンや新陳代謝を乱す有害な薬品が多量に含まれているので、一般販売はされておりません」
トレーナーはバトルタワーを後にした。