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  [No.2385] ピグマリオン 投稿者:紀成   投稿日:2012/04/14(Sat) 17:24:48   66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]



※題名と内容が合ってない
※趣味全開
※苦手な方はバックプリーズ
















昔々、とある国に彫刻家の男がいた。
その男はいい年になっても恋人も作らずただひたすらに彫刻を作り続けていた。
その男の名は――

ゼクロムの苦い味が、今はひたすらに恋しかった。吐き気を催すような感覚に囚われ、必死で口を拭う。
何が起きた?何がどうなった?その二つの言葉を頭の中でループさせることで平静を保っていた。
既に着ているブレザーの右袖は唾で濡れている。ハンカチを取り出す暇も無かった。吐きたいと思ったが、そんなことは許されないようだ。
目の前の男を睨みつけ、ミドリは一つ一つ噛み締めるように言葉を紡ぐ。

「……何するんですか」

相手の男はミドリより頭一つ分高かった。その頬は紅葉が張り付き、一日二日では剥がれることはないだろう。それくらい真っ赤だった。付けられた時に口でも切ったのか、ひっきりなしに唇を舐めている。
その姿が恐くて恐くてたまらなかった。

「先輩がわざわざ会いに来てやったのにその態度か」

ショウシの声はイラついている。一歩一歩距離を縮めれば、面白いように肩を震わせる彼女が面白くて、それでいて愛しくてならない。
あの邂逅から数年経った今も、ミドリは年に合わない仕事と勉学を掛け持ちしていた。探偵。警察の救世主と世間は騒ぎ立てる。並大抵のトリックなら、簡単に見破られてしまう。
だがそんな彼女も苦手な相手の前では、普通の少女となる。

「来ないで……ください。なんならこの場でバトルしましょうか?」

左手が腰のホルダーに付けたモンスターボールを外した。数メートル離れているこちらからでも見える。鋭い目。剥き出しの悪意。そして怒り。

(そんなにこのご主人が大事か)

ショウシの気持ちは冷めていた。様々な感情が胸の内でせめぎ合っている。怒り、嫉妬、嘲り、焦り。
全ての名を持つ感情を並べていっても足りないかもしれない。
ミドリが動きの無いショウシに訝しげな視線を向ける。まだ力は抜いていないようだ。その焦り具合についついからかいを入れたくなる。

「お前まだあいつ探してんのか」

先輩、という単語を出した途端ミドリの様子が変わった。先ほどの怯えから一転、目に冷静な光が宿る。
唇から零れる声には微塵の震えもない。

「探してはいけませんか」
「……」
「あの人は生きてます。絶対に」

今度は向こうがこちらを嘲る番だった。部外者。無関係。そして野次馬。三文字の三つの単語がショウシの頭の中に響いた。

「証拠は」
「ありませんよ」

あの人のことは私が一番よく知っていますから、というミドリの言葉に何かが切れた気がした。一気に距離を縮めて首を掴む。かはっ、と咳き込む音がしたが気にしない。そのままキスする直前まで顔を近づける。ボールがカタカタと揺れていた。

「苦しいか?」
「……そう見えますか」

細い喉は少しでも力を加えれば簡単にねじ切れてしまいそうだ。えづいているが涙を流す様子はない。目を閉じ、次に開けた時にそこに光はなかった。ショウシの姿を映すことはなく、見てすらいない。

「余計なことに首を突っ込む人は好きじゃないです」

言う前に噛み付いた。自分にしては荒々しい。その気になればドロドロに溶かすことは出来たはずだし、そのまま持っていくことも出来たはずだ。
酸素が抜けていく感覚を久々に感じながら、ゆっくりと離す。銀色の糸が細くなり、そして消えた。

「同じ先輩でもこうも違うんですね……」

ボールはいつの間にか静かになっていた。目の光はもう戻っている。だが決してミドリはその光がある時に彼を映すことはなかった。

「――俺が嫌いか」

咄嗟に出た言葉がそれだった。幾度無くこの手に抱いては手放し、唇で巧みに操ってきた。好きだとか嫌いだとか極端な愛憎の言葉なんてここ数年出していない。
相手が人間であってもポケモンであってもそれは変わらなかった。ただし―― ポケモンの場合はまた別の理由があるからだが。

「好きと言えば離れ、嫌いと言えば近付く。私の人生における人間関係はそうなっているようです。
だから好きになって欲しい人はこちらから嫌いになればいいんだと思います」

「でも、」

「私はあの人を嫌いになんてなれない」

光の無くなった目がショウシを映した。目尻から光が一筋伝い落ちる。目の前にいるのに、奇跡でも起きない限り本物は手に入れることができない。今までの代償がこれだというのか。

「……ハンデが少しデカすぎないか」

そう言ってショウシは再び噛み付いた。――悲しいくらい、優しく。


  [No.2386] 解説的な 投稿者:紀成   投稿日:2012/04/14(Sat) 17:30:31   64clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

今まで読んできた漫画や小説の知識と、自分の中にある文才的な何かを組み合わせて書きました。
書く上で決めたことは、

『露骨な描写は入れない』
『それとなく何か入れる』

巷に出回っている描写が書けない(出せない)ので雰囲気だけでそれっぽくしてみようと思いました。
ポケモンテラ空気。

イメージ的にはbassoさんのイタリア政治家シリーズに近いです。