たとえば、
とても大切な人が大怪我をして、
苦しんでいたとして
どうしてその痛みを分かち合うことが出来るのだろうか。
「……酷くやられたね」
レディはモルテの腕に包帯を巻いていた。切り傷、打撲痕、噛み跡。回収の際に姿を見て怯えたハーデリアから付けられた物だ。『かみつく』『かみくだく』
こうかは、ばつぐん。
『油断した。次は大丈夫だ』
「次が無かったら、どうするつもりだったの」
長い髪が春の風に揺れる。毛先が大分傷んできたようだ。そろそろ切りたいな、と思う。
『伸びたな』
「そうだね」
『最後に切ったのは……』
「半年前かな」
他愛も無い会話。包帯を巻き終え、鋏で切る。もう動いていいよ、と言うとモルテはそっと浮き上がった。
レディは鋏をジッと見つめている。
『どうした』
「あのさ、」
「『いたみわけ』ってあるだろ?」
カシャン、と音がして手から鋏が飛んだ。そのまま近くのゴミ箱に突き刺さる。続いてモルテの左手からぽたりと赤い血が流れた。
「……何を考えてこうしたかは知らないけど、手当てするのはこっちなんだからね。
そこらへん考えてね」
『いたみわけ。相手の体力と自分の体力を同じにする技…… あだっ』
「よかった。そんなに深くなくて」
お互いの傷を舐めあうのか。下らない。どんなに相手に同情したって、その痛みが分かるのは本人だけだ。かわいそうなんて言葉、軽々しく口にするもんじゃない。
「モルテ」
『なんだ』
「たとえ私が死に掛けたとしても、変に助けようとしないでよ」
返事が遅れた。だが確かに彼は、
『ああ』
と言った。