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  [No.2398] 禁断の 投稿者:フミん   投稿日:2012/04/19(Thu) 23:22:46   102clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「エビワラーよ。お前のことが好きだ」

「俺もアブソルの事は好きだよ」

「――――少し曲がって伝わったようだな。私は、お前を一人の雄として好きだ」

「そ、そうか」

一昔前。とある地方の、夜の帳が下りた人間がいない深い森の中で、二匹のポケモンが会話をしていた。仏頂面で生傷だらけのエビワラーと、にこにこと満面の笑みを浮かべるアブソル。夜が開けるまでは危険だからと互いに身を寄せ合っている時、ふとなんの余兆もなく雌のアブソルが雄のエビワラーに愛の告白をした。当然、心構えも何にもしていなかったエビワラーは、ただ戸惑うことしかできなかった。

「私とお前の出会いは偶然だったな。お前が森で体を鍛えているとき、殴っていて倒れた木に下敷きにされたのが始まりだった。よく覚えているよ。数日看病を受けている間に、私はすっかりお前に惚れてしまったんだ」

「あの時はびっくりしたけど、細い木で本当によかったよ。大木だったら大怪我だからな」

「いや、私も間抜けだったよ。お前が特訓をしてあんなに騒いでいるのにも関わらず、寝ていて気づかなかったのだからな」

アブソルはエビワラーの膝に顔を置いた。そのまま仰向けになり、下からエビワラーの顔を見つめる。

「だが、あの時に怪我をして良かったと思っている。ああいう劇的な出会いがあってこそ、私とお前は親密になれたのだよ」

「それは正しいな。あの頃の俺はろくに仲間も作らず、独りきりで修行に励んでいたからな。それに比べてアブソルは、誰とでも親しく関わるから、外から来たポケモンなのにすっかりここに馴染んでしまったな」

「お前は初対面の奴には人見知りするからな。やたらむやみにとは言わないが、信頼できる相手がいて損はないぞ。せいぜい、友人と呼べるポケモンは数人だろう?」

「数人いれば充分だ。交友関係は狭く深く、だ。それに、お前がいつも側にいるだろう。だから寂しくないよ」

「―――そうか。それは告白の返事だな。嬉しいぞ」

「いや、これは返事ではないんだけどな」

エビワラーの冷たい態度に、アブソルは落ち込んでしまう。

「なんだ、まだ私を雌として見てくれないのか。先は長いな」

小さなため息を吐く。アブソルは頭を回転させ、そっぽを向いてしまった。


「寝る。おやすみ」

「拗ねるなよ。ちょっと待て」

「女心をここまで表に出しているのに、結果がどうであれ答えを出さないポケモンは嫌いだ。雄らしくないぞ」

「あのな、俺の気持ちも考えてくれ。告白って、する方も凄く勇気が要るんだぞ?」

段々と、蝋燭の火が消えるように声が小さくなっていく。ふてくされていたアブソルは、もう一度エビワラーを見ようと振り返る。

「俺は、アブソルのこと好きだよ」

エビワラーは、震える口で声を絞りだし言った。告白を受けた本人は、最初は呆気にとられていたが、直ぐに笑顔になり体を起こす。

「本当か?」

「嘘ついてどうする」

「夢じゃないよな?」

「頬叩こうか?」

「止めてくれ。格闘技は、私には少々効き過ぎる」


そう言うとアブソルは、前足で自分の片方の頬を叩く。ぱちんと気持ちいい音がなるが、笑みは崩れない。

「ああ、ようやくこの日が来たのか。確かに私は毛むくじゃらで四足歩行、エビワラーは二足歩行で、まるで人間のような容姿。同じポケモンとはいえ大きな壁があるのは分かっていた。それでも、私は自分の心を殺すことはできなかった。望みが叶って嬉しいよ」

「俺だって、最初はアブソルのこと、正直鬱陶しいと思っていたよ。でも、一緒に生活していくうちに、気持ちが変わっていったんだ。確かに、俺とアブソルは種族が違いすぎるけど、それでもいい。今まで受け流していて悪かったよ。もう素直になる」

「そうか。これで両想いか。なら、これから遠慮しなくていいな」

エビワラーは、彼女が何を言いたいのか理解し、緊張で体が硬直する。それを理解しながらも、アブソルはエビワラーをゆっくりと押し倒した。白い体毛でエビワラーを包み込む。

「あの。俺な、そういう深い経験はしたことないんだよ。だから、気をつけるけど、嫌だったちゃんと言ってくれよな」

「私も経験はない。心配するな、嫌なものは嫌と言う。だから、安心して愛をぶつけてくればいい」

アブソルは、のしかかりながら軽くエビワラーに口づけをした。長く唇を重ねない、軽いキスだった。
その日の夜。二匹のポケモンの体が重なった。





数日後。エビワラーが、木の実を抱えて森の中を歩いていた。時刻は正午を過ぎる前で、昼食を食べるには丁度良い時間だった。
森の中をゆっくりと歩いて目指している先は、小さな丘にある横穴だった。意気揚々とエビワラーは中に入っていく。横穴の奥で枯葉の上に寝そべっているのは、毛並みが美しいアブソルだった。入ってきたのがエビワラーだと分かると、穏やかな表情で出迎えた。落ち着いた態度で、大事な番におかえりと言う。彼もまた、ただいまと言い返した。

アブソルは、一つのタマゴを抱えていた。真っ白で、ひび一つ入っていない。

「どうだ、タマゴの様子は?」

 
エビワラーは、アブソルの側に座りながら尋ねた。

「動く頻度が多くなってきているぞ。もう少しで産まれそうだ」

「そうか。ほら、木の実を持ってきたぞ。お前が好きなモモンの実もある」

「ありがとう。有難く頂こう」

アブソルはタマゴを傷つけないようにゆっくりと起き上がる。なるべく体毛に埋もれるように調整して、手渡された木の実を口に含んだ。

「しかし、まさか子どもができるなんて。俺達は余りにも違いすぎるから、半分諦めていていただけに嬉しいよ」

「そうだな。腹部に違和感があったときは驚いたよ。エビワラーに抱かれてから直ぐに、いきなりタマゴが出てくるんだからな。お前が小躍りしているところなんて、初めて見たぞ」

「仕方ないだろう。嬉しかったんだから」

あの告白の後、エビワラーとアブソルは、互いを激しく求め合った。今まで塞き止めていた感情が爆発し、それは全て性欲として発散された。彼らは睡眠も食事も忘れ、体力が続く限り体を弄り合い、深く愛を確かめ合った。
二匹は一日中交尾を続け、そして力尽きた。数時間後、エビワラーが目を覚まして最初に見た物は、腹を抱えて苦しむアブソルだった。彼は慌ててアブソルの腹を擦るが、痛みが引く様子がない。そして大きな悲鳴を上げて出てきたのは、一つの大きなタマゴだった。

正真正銘、二匹の子どもだった。

「焦ったよ。このままアブソルが死んでしまうのかと、泣きそうになった」

「とても痛かったし、恐かったぞ。体が裂けてしまうかと思った。でもその代わりに、大切な宝を授かったな」

「そうだな。それに、もう直ぐ俺達の子どもと会える」

エビワラーは、優しくアブソルの頭に触れる。お返しにと、アブソルはエビワラーの頬にキスをした。
すると、突然タマゴが激しく揺れる。二匹は驚いたが、直ぐにこの現状に気づいた。

「産まれるみたいだな」

「ああ。いよいよだぞ」
 
ついに待ち望んでいた時がやってきた。数日の間大切に守られてきた白い殻に初めて亀裂が入る。徐々に音を立てて広がり、中から出てこようともがいているようにも見える。エビワラーとアブソルは、この瞬間を見逃すまいと食い入るようにタマゴを凝視する。
そして次の瞬間、タマゴは光り二匹の視界を奪う。彼らは反射的に目を瞑った。
数秒間、横穴には沈黙が流れた。二匹は一息おいて、ゆっくり瞳を開ける。

そこにいたのは見たことがないポケモンだった。まん丸とした頭に、大きな丸い目。細い体に、人間が服を着るみたいにズボンを履いているように見える。何より特徴的なのは、全身が黄色いということ。その姿には、両親の特徴が全く受け継がれていない。
産まれたばかりのポケモンは、地面を這いアブソルの元へ近寄る。必死にもがき、自分の母親の乳房に近づいていく。呆然としていたアブソルも我に返り、産まれた我が子を胸に抱き寄せた。
そのポケモンは、乳房から母乳を吸い始める。


「ああ・・・俺の・・・子」

父親になったエビワラーは、夢中で食事をする自分の子どもを撫でようか止めようか、何度も手を出し引っ込めて、ようやく小さな頭を当てた。

「可愛いなあ。天使みたいだ」

「当たり前だ。私達の子なのだからな。容姿は多少違うが、表情はお前そっくりだ。この母乳を吸っているときの顔、私の乳に口付けするときと似ているな」

「――こんな顔していたのか俺は」

「ああ、そっくりだ。顔は父親似だな」

「直ぐそういう意地悪言うんだから、アブソルは」

「でも、まんざらでもないだろう?」

「ああ、お前みたいに、優しくて純粋な子に育つと良いな」

二匹は、親になった喜びを噛み締めていた。



時が経つと、後にこの子どもの種族は、人間達からズルッグと呼ばれるようになる。


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フミんと言います。また短編を置かせて貰います。

【批評していいのよ】
【描いてもいいのよ】

皆さんが楽しんでくれれば幸いです。