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  [No.2526] 2012夏・納涼短編集 投稿者:久方小風夜   投稿日:2012/07/26(Thu) 00:05:34   66clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

【2012夏・納涼短編集】


毎日毎日洒落にならない暑さなので、背筋がぞわわっとする話が読みたい。


そういうコンセプト、と見せかけて普段のノリで書いた短い話ばかりです。

怖い話とも限らない(はず)

要するにただの短い話の集まり。

夏の間に短い話を思いついたら増えるかもしれません。



というか自分で怖い話書いてもちっとも涼しくならないので、背筋がぞわわっとする話誰か書こうぜ! 書いてくださいお願いします。




【何してもいいのよ】
【背筋がぞわわっとする話、全力で募集中】


  [No.2527] おままごと 投稿者:久方小風夜   投稿日:2012/07/26(Thu) 00:06:37   144clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「ただいま」
「おかえりなさ……きゃあっ!」

 どたどた、と床に物が落ちる音がした。
 ジュペッタが玄関を閉めて部屋を見ると、横転した車いすの車輪がきりきりと金属音を立てて空回りしていた。すぐそばには、部屋の主である少女が転がっている。
 やれやれ、とジュペッタは呆れたように息をついた。

「もう、無理して動こうとしなくてもいいってば」
「あうう……ごめん」

 しょうがないなあ、と言いながらジュペッタは車いすを立て直し、少女を抱え上げて座らせた。
 ごめんね、と何度も言う少女に、ジュペッタはご飯作るから待っててね、と言って笑った。



 小さなテーブルに1人分の食事が並べられる。
 ジュペッタは車いすをテーブルにつけ、その向かいのいすに座った。

「いただきます」
「いただきます」

 手を合わせて言うと、ジュペッタは箸を手にテーブルへ乗り、おかずをつまんで少女の口へ運んだ。
 もぐもぐと咀嚼して飲みこみ、少女はジュペッタに聞いた。

「この辺りには、もう私以外の人間はいないのかしら?」

 ジュペッタは皿の上のおかずを箸で適当な大きさに切った。

「……きっと、みんなもっと楽しいところでも見つけたんじゃないかしら」
「楽しいところかあ……どんなところだろう?」
「さあ……どっちにしても、あたしたちは見に行けないわね」
「何で? あなたは外に出られるのに」
「あたしが行っちゃうと、あなたのお世話をする人がいなくなっちゃうでしょ?」

 ジュペッタがそう言うと、少女は顔を曇らせ、ため息をついた。

「ごめんね、手も足も動かなくて……。事故になんてあわなかったら、あなたにこうやって迷惑かけないのに……」
「もう、それはいいって。……事故はあたしのせいでもあるんだし。あたしがあなたを追いかけまわしたから、あなたが車に轢かれて……」
「でも、元はと言えばあなたを捨てた私が悪いの……。小さい頃は毎日遊んでた人形だったのに……」
「いいじゃない、もう、それは。あなたとおままごとをしてたから、あたしが今こうやってあなたの面倒を見てあげられるんだし」

 そうか、そうだね、と言って少女は笑った。
 ジュペッタが箸を差し出した。しかし、少女はまた顔を曇らせて首を横に振った。

「もう食べないの?」
「うん……」
「……口に合わなかった?」
「……ごめん」

 いいよいいよ、と言って、ジュペッタは皿をさげた。
 ごめんね、とうなだれる少女に、ジュペッタはもう寝ましょう、と笑って言い、車いすを押した。



 規則正しい寝息が聞こえる。ジュペッタはベッドの隅に座り、少女の寝顔をじっと見つめていた。

『この辺りには、もう私以外の人間はいないのかしら?』

 ジュペッタは少女の言葉を思い出した。
 いずれは全てを打ち明けねばならないのだろう。自分たちがどうしてここにいるのか。少女に何があったのか。
 それでも、とジュペッタは小さくため息をついた。
 この「おままごと」を終わらせたくはない。折角またこうやって、一緒に遊ぶことが出来るのだから。

 せめて少女が自分で気付くまでは。
 その体に再び手がつき、足がつく頃までは。

 手足など動くはずがない。そもそも存在しないのだから。
 食事が口にあうわけがない。必要なものが違うのだから。
 人間なんているわけがない。ここはそういう場所なのだから。

 少女がころんと寝がえりを打った。
 ジュペッタは少女の頭を撫で、そっと囁いた。



「根の国に、人間なんていないのよ」



 白いシーツの上で、カゲボウズが1匹、すやすやと寝息を立てていた。







(2012.7.26)


  [No.2528] たからもの 投稿者:久方小風夜   投稿日:2012/07/26(Thu) 00:07:26   171clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 小さな頃、宝物を失くしたことがあったの。


 子供の時って、大人から見れば全然大したものじゃないものを、ものすごく大切にしたりするでしょう?
 河原で拾ったきれいな石とか、他より少しだけ大きなタネとか、贈り物を包んでいたリボンとか、使えなくなった機械のネジとか。
 そういうちょっとしたものを集めては、小さな箱に入れていく。そうやって、大事に大事にとってたの。


 ある日私は野原に行ったの。
 そうしたらそこには、きれいな花が一面に咲いてたわ。
 私は嬉しくなって、その中の1輪を摘んで帰って、いつもの箱に入れておいたの。

 でも、次の日箱を開けると、きれいだったお花はすっかり枯れていたわ。

 私はまた野原に行ったの。だけどどのお花も、昨日持って帰ったお花とは違った。同じ花だけど、やっぱり違う。
 枯れてしまったお花は、もう二度と戻らない。
 私はすごく悲しくって、いっぱいいっぱい泣いたわ。


 私も大きくなったから、あのお花がもう一度ほしい、なんて事はもうないわ。
 幼いころの「宝箱」を開けて、何でこんなのが大事だったんだろう、って苦笑いすることもある。

 でも、大好きなものが、とっても大事なものが変わってしまうのは、とても悲しいこと。
 それは今でも同じ。ずっと変わらない。


 だけど、咲いた花はいつか散るし、生きているものは老いて死ぬ。


 一目見て好きになったの。つやつやした赤いハサミも、琥珀のような金色の目も、とっても素敵。
 あなたに綺麗だよって言われて、私はとても嬉しかったわ。


 だけど、永遠には続かない。
 いずれは死がふたりを別つことになるでしょう。
 今少しだけ近づいた心も、あっという間に離れていくかもしれない。


 時が止められればいいのに、と誰でも思うでしょう?
 この幸せな時間が永遠なら、と思うのは当然のことでしょう?


 私は伝説のポケモンじゃないから、時間を止めるのはとても無理。


 でももし、その瞬間を留めておける力があるとしたら?


 体も、心も、全部私のもの。
 この先ずっと一緒。私とあなたは、永遠に一緒。


 あなたはずっと変わらず、私のそばにいてくれればそれでいいじゃない。



 ほら、見て。

 氷に包まれたあなた、とても綺麗よ。






+++
きとらさんに無茶ぶりされたメノコ×ハッサム(多分ポケダン)
(2012.7.26)


  [No.2531] ふたりごと 投稿者:久方小風夜   投稿日:2012/07/27(Fri) 17:03:43   205clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「お腹空いたな」
「もう昼飯時だもんなあ」
「ハンバーガーでも食べようかな」
「えー、もうちょっといいもん食おうぜー」
「……確かクーポンがあったはずだし」
「あーそっかー、それじゃあしょうがないなー」

 相棒は、鞄から畳んだ地図を取り出した。

「次の町はシオンタウンか」
「イワヤマ抜けなきゃいけないんだな」
「ちょっと遠いなあ」
「大丈夫だって。お前のポケモン強いんだからさ。ま、あんまり無理させるのはよくないけどな」
「薬を多めに買っていくか」
「それがいいな。一応、あなぬけのヒモも買っておいたほうがいいんじゃないか?」
「わざマシンあるから……」
「ああ、そういえばこの間もらってたな」
「資金も十分だ」
「準備万端だな」
「とりあえず、ショップで売ったり買ったりしてくるか」
「おう」



 相棒と俺の出会いは数年前。
 場所は俺たちが生まれた町の小さな公園。ベンチと砂場とブランコしかない。
 俺はいつもそこにいたんだけど、その日こいつがひとりでやってきた。半べそかいたような情けない顔ぶら下げて。

 辺りを見回して、そいつはつぶやくように言った。

「誰もいないのかな?」
「ここにいるぞ」

 俺はそいつを呼んだ。そいつは俺の近くにあったベンチに座った。俺も隣に座った。

「お前、いつも他の奴と一緒だよな? 髪の毛立ててる奴。今日はひとりか?」
「…………」

 そうしたら、そいつが涙をぼろぼろこぼし始めた。

「ああぁぁごめん、悪かったって。泣くなよ。……ケンカでもしたのか?」

 こいつとその友人の仲の良さは、何回か見かけたことがあるからよく知ってる。
 まあ、言っても子供同士だ。ケンカくらいするだろう。

「やっぱり、僕は意気地無しなのかな?」
「そんなこと言われたのか?」
「でも、町の外に出るなんてやっぱり怖いよ」
「オイオイ、そりゃ危ないだろ」
「この辺りにはポッポとかコラッタとか弱いのしかいないから大丈夫って言ってたけど」
「あのなあ、ポケモンってのはどんなに小さくて弱そうに見えても、危ないもんなんだよ。お前、コラッタの集団にあの前歯で一斉に襲いかかられるの、想像してみ?」
「……やっぱり危ないよ」
「そうだよ。な? だからさ、どうしても出たいんならあの博士だか何だかに頼んでみろ」
「もう少し大きくなったら、博士にポケモンをもらえるんだ」
「おぉ! 最高じゃないか!」
「だからそれまで待とう、って言おう」
「そうそう。お前はいい子だな」

 少し明るい表情になったそいつを見て、俺はため息をついた。

「あぁ、俺もやっぱり、ポケモン持つべきだったんだよなぁ……」
「あいつ、やっぱり旅に出るかな?」
「そりゃ出るだろ絶対」
「僕が行かなくても、やっぱり行くんだろうなあ……」
「俺も、友達みんな旅に出ちまったよ。ポケモン持って」
「それじゃあ、独りぼっちだ」
「ああ。あれからずっとな」
「……寂しい」
「わかってくれるか」
「独りぼっちは嫌だな」
「本当にな。でも、俺の方こそ意気地無しだったんだ。『ポケモンをください』っていう、たったそれだけが言えなかった」

 深いため息をつく。そいつもため息をつく。
 しばらく何か考えている様子を見せて、そいつはつぶやいた。

「……やっぱり、僕も町を出る」
「……そうか。お前も行っちゃうのか」

 そうしたら、そいつが言った。

「一緒に旅に出よう」
「……えっ?」
「いいよ、って言ってくれるかな?」
「当たり前だろ!」

 ずっと独りぼっちだった俺は、そいつの言葉が本当に嬉しかった。
 その日から、俺と相棒はずっと一緒だ。




「それにしても高いタワーだなあ」
「これが全部お墓なんだよな」
「町の人は幽霊が出るって言ってたけど……」
「やっぱりあのカラカラのお母さんだろうな」
「ねえねえ、あなた」

 青白い顔をした女の子が、声をかけてきた。

「あなた、幽霊はいると思う?」
「そりゃーいるに決まってるだろ! な?」

 俺は相棒の右肩に手を置いた。
 すると、相棒は笑って言った。

「いないよ」
「えっ」
「いるわけないじゃんそんなの」

 青白い顔の女の子は、苦笑いを浮かべた。


「あはは、そうよね! あなたの右肩に白い手が置かれてるなんて……あたしの見間違いよね」


 当たり前だろ、と相棒は笑った。
 俺はそっと、相棒の右肩から手をどけた。





 少年がタワーの中へ入ると、幼馴染がとある墓石の前に座っていた。

「おう、久しぶりだな」
「やあ。……それって、もしかして」
「……ああ。旅に出て最初に捕まえた相棒」
「そっか……じゃあ僕からも」

 少年はリュックの中からミックスオレの缶を取り出し、墓前に置き、手を合わせた。

「呆気ないもんなんだな。命が終わるのなんて。もう少し早くポケセンについてりゃ……」
「ポケモンはずっと、僕らの代わりに戦ってるんだもん。気をつけないといけないね……本当に」
「気を抜きすぎてたな。強くなったから、多少は平気だろうって……」
「ポケモンは本当に見かけによらないからね」

 幼馴染は深いため息をついた。

「……悪かったな。小さい頃、嫌がるお前を無理やり町の外に連れていこうとしたことがあっただろ」
「ああ、懐かしいなあ。そんなこともあったね」
「ポケモンの強さとか、危なさとか、理解してりゃあんなことしなかったのによ。しかも断ったお前に散々悪口言ってさ……」
「いいよもう。昔のことだ」
「あのあとじいちゃんに、昔ポケモンを持たずに町を出て、死んだ奴がいたって聞いてさ……俺、本当に……」
「いいってばもう。おかげさまで僕は元気だよ。一番の親友のおかげで、楽しい旅に出る決心もついたし」
「……そうかい」

 幼馴染と少年は、顔を見合わせて笑った。





   「……やっぱり、僕も町を出る」
                                         (……そうか。お前も行っちゃうのか)
   「一緒に旅に出よう」
                                         (……えっ?)
   「いいよ、って言ってくれるかな?」
                                         (当たり前だろ!)





「でもさ、お前、昔っから言ってるけどさ、ひとりごとを延々とぶつぶつ言う癖は直した方がいいと思うぞ。気持ち悪いし」

「いやー僕も直そうとは思ってるんだけどねぇ。なかなか直らないんだよなぁこれが」





   「きっと大丈夫だよ。あいつは僕の、一番の親友なんだから」


                                         (これからはずっと一緒だな、相棒!)







(2012.7.27)


  [No.2539] ひとりごと(読み解き方、というか。) 投稿者:久方小風夜   投稿日:2012/07/31(Tue) 03:04:17   189clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

「お腹空いたな」

 くぅ、と小さな音を鳴らすお腹を押さえた。
 財布の中身を思い出す。それなりにお小遣いはあったはずだけど、食費は出来るだけ抑えるべきか。

「ハンバーガーでも食べようかな。……確かクーポンがあったはずだし」

 財布の中身をちらりと見る。半額になるクーポンが1枚だけ残っていた。昼飯は決定だ。
 鞄の中からタウンマップを取り出す。

「次の町はシオンタウンか。ちょっと遠いなあ。薬を多めに買っていくか」

 地図によると、トンネルを抜けなければならないらしい。いろんなところにポケモンが潜んでいる分、普通の道より厄介だ。

「わざマシンがあるから……資金も十分だ」

 鞄の中を漁る。いらないわざマシンがいくつかある。売ってしまえばそれなりのお金にはなるはずだ。

「とりあえず、ショップで売ったり買ったりしてくるか」

 昼飯はそれからだな。僕はタウンマップを畳んで鞄に入れた。


+++


「それにしても高いタワーだなあ」

 シオンタウンの人たちに、色々な話を聞いた。
 おつきみ山でも出会ったロケット団とかいう連中のこと。殺されたカラカラのお母さんのこと。そして、タワーに出る幽霊の話。

「町の人は幽霊が出るって言ってたけど……」

 幽霊、ねえ。
 僕は町の人の言葉を思い出して、少し苦笑いした。

「ねえねえ、あなた」

 何となく青白い顔をした女の子が、僕に話しかけてきた。

「あなた、幽霊はいると思う?」

 ああ、この子もか。
 僕は笑って言った。

「いないよ。いるわけないじゃんそんなの」

 そもそも、お化けとか幽霊とか、そういうオカルティックなものは信じてないんだ、僕は。
 そうしたら、その子は苦笑いを浮かべて言った。

「あはは、そうよね! あなたの右肩に白い手が置かれてるなんて……あたしの見間違いよね」

 当たり前だろ、と僕は笑った。
 もしいるとしたら、一体いつから僕のそばにいるっていうんだ。


+++


 タワーに入ると、幼馴染がいた。とある墓石の前に座っていた。

「おう、久しぶりだな」
「やあ。……それって、もしかして」
「……ああ。旅に出て最初に捕まえた相棒」
「そっか……じゃあ僕からも」

 僕はリュックの中からミックスオレを取り出して、墓前に供え、手を合わせた。

「呆気ないもんなんだな。命が終わるのなんて。もう少し早くポケセンについてりゃ……」
「ポケモンはずっと、僕らの代わりに戦ってるんだもん。気をつけないといけないね……本当に」
「気を抜きすぎてたな。強くなったから、多少は平気だろうって……」
「ポケモンは本当に見かけによらないからね」

 幼馴染がため息をついた。いつも元気でお調子者なこいつも、今はすっかりふさぎこんでいる。

「……悪かったな。小さい頃、嫌がるお前を無理やり町の外に連れて行こうとしたことがあっただろ」
「ああ、懐かしいなあ。そんなこともあったね」
「ポケモンの強さとか、危なさとか、理解してりゃあんなことしなかったのによ。しかも断ったお前に散々悪口言ってさ……」
「いいよもう。昔のことだ」
「あのあとじいちゃんに、昔ポケモンを持たずに町を出て、死んだ奴がいたって聞いてさ……俺、本当に……」
「いいってばもう。おかげさまで僕は元気だよ。一番の親友のおかげで、楽しい旅に出る決心もついたし」
「……そうかい」

 幼馴染のこいつとは、些細な言い争いすらほとんどしたことがなかった。でも、たった1回だけ、こいつとけんかをしたことがある。


+++


 僕たちの生まれた町から外に出るためには、どう頑張っても、草むらを通る必要がある。草むらに入れば野生のポケモンが出てくるのは当然で、町の大人たちはいつも、町の外に勝手に出てはいけないと僕たちに言ってきた。
 だけど、こいつは小さい頃から好奇心旺盛な上に無鉄砲で、大人たちの言いつけも守らないことがよくあった。
 そしてある日こいつは僕に、一緒に町の外に出てみようと言ってきた。なるべく草むらに近づかないようにこっそり行けば大丈夫だろ、と。
 だけど、僕はそれを拒んだ。町の大人たちから何度も、ポケモンも連れずに外に出るのがどれだけ危ないことか聞かされていた。だから、外に出るなんて怖くてとても出来なかった。
 そうしたら、そいつは僕に言った。

「何だよ、この意気地なし!」

 僕もそいつも、半べそをかいて、その場から駆けていった。
 けんかをするのが始めてて、僕もそいつも、どうしていいかわからなかったんだと思う。


 僕たちの生まれ故郷、小さな田舎町の小さな公園。ベンチと砂場とブランコしかないちょっとした広場。
 ふらふらと僕はそこへ行った。西の空が気味悪いほど真っ赤に染まっていた。

「誰もいないのかな?」

 いないでほしい。今は人に会いたくない。
 あたりを見回した。誰もいない。よかった。僕はベンチに座った。

 じっと座っていると、あいつのことを思い出した。
 悲しいとか、悔しいとか、何かもう分からない。ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。

「やっぱり、僕は意気地無しなのかな?」

 あいつの言葉が頭をよぎる。あいつは怖いもの知らずだ。きっと、僕なんか比べ物にならないほどの勇気がある。

「でも、町の外に出るなんてやっぱり怖いよ。この辺りにはポッポとかコラッタとか弱いのしかいないから大丈夫って言ってたけど……やっぱり危ないよ」

 ポケモンに襲われた人たちの話。時々テレビで見る。
 弱いポケモンなんて言っても、丸腰の僕たちに抵抗なんてできないだろう。
 小さい頃から何度も、ポケモンは友達になれるけど、怖い存在だと母さんに言われてきた。それはきっと、ただ僕を怖がらせるために言ったわけじゃないんだろうと思う。

 町の外に出てみたいんだ、と言ったことがある。
 幼馴染のおじいさんであるポケモン博士は、お前たちが大きくなったらポケモンをやろう、と言った。
 ポケモンと一緒なら、危ない草むらでも入っていける。
 強くなれば、どんな場所でも自由に行ける。
 けがの心配をしなくて済むなら、危険なことにならずに済むなら、その方がずっといい。

「もう少し大きくなったら、博士にポケモンをもらえるんだ。だからそれまで待とう、って言おう」

 あいつだって、きっとそれが一番いいってわかってくれるはずだ。僕は少し気が楽になった。

 だけど、ポケモンをもらって、町の外に出られるようになって。その後はどうするんだろう?

「あいつ、やっぱり旅に出るかな?」

 僕としては、今とほとんど変わらなくっても構わない。この町に留まって、用事がある時は町に出て。
 でも、あいつは僕と違って勇気があるし、好奇心も旺盛だから。

「僕が行かなくても、やっぱり行くんだろうなあ……」

 ポケモンがいなくても町の外へ出ようとする奴だ。どこへでも自由に行けるようになれば、どこへでも自由に行くだろう。それでいいと思う。あいつの好きにすれば、それでいい。
 だけど、そうしたら僕は?
 あいつが旅に出て、僕はこの町に留まる。

「それじゃあ、独りぼっちだ。……寂しい。独りぼっちは嫌だな」

 僕は元々、人見知りが激しくて内向的でインドア派だ。僕に絡んでくる奇特な奴はあいつくらいだ。僕にとって、友達と呼べるのはあいつくらいだ。
 あいつは僕と違って外交的で人付き合いも上手いから、きっとどこに行っても上手くやれるだろう。
 僕はどうだ? この町に残って、他の人とまともに話すこともなく、家に閉じこもってただ時が流れるのを待つだけか。
 違う。旅に出るのが必要なのは、僕の方だ。

「……やっぱり、僕も町を出る。一緒に旅に出よう」

 あいつが旅に出るなら、同じ時に旅に出て、世界を回ってみよう。
 旅先であいつと出会うこともあるかもしれない。勝負を挑まれたりして。きっとあいつのことだから、出会うたびにバトルを仕掛けてくるんだろうな。

「いいよ、って言ってくれるかな?」

 あいつは負けず嫌いだから、僕と一緒の時に旅に出るなんて、って思うかもしれない。例えば博士に何か用事を言いつけられて、僕に対して「お前の出番は全くねーぜ!」なんて言うかも。ああ、目に浮かぶようだ。
 でもまあ、何だかんだ言っても、心配することはないだろう。

「きっと大丈夫だよ。あいつは僕の、一番の親友なんだから」

 そう。あいつのいいところは、僕が一番知ってる。


+++


「でもさ、お前、昔っから言ってるけどさ、ひとりごとを延々とぶつぶつ言う癖は直した方がいいと思うぞ。気持ち悪いし」
「いやー僕も直そうとは思ってるんだけどねぇ。なかなか直らないんだよなぁこれが」
「あんまりぶつぶつ言ってると、戦術がばれるぞ」
「そりゃ困るな。やっぱり直そう」

 僕と幼馴染は、顔を見合せて笑った。

「そう言えば、このタワーに幽霊が出るって話だけど、お前どう思う?」
「どう思う、って言われてもなぁ。僕、幽霊とか信じてないし」
「俺はいると思うけどな、カラカラのお母さんの幽霊」
「ふうん。ま、どう考えてもお前の自由だけどさ」

 幽霊ってのが本当にいるなら、見てみたいもんだけどね。


 誰かが僕の肩を叩いたような気がしたけど、振り返っても誰もいなかった。





(2012.7.31)


  [No.2557] こせいてき 投稿者:久方小風夜   投稿日:2012/08/06(Mon) 22:51:21   181clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 あなた、好きなポケモンっている?

 私はそうね、やっぱりパートナーでもあるし、プリンかな? まあるくてふんわりして、抱きしめるとふかふかなの。
 もしたくさんのプリンに囲まれたりしたら、ふわふわ柔らかできっとすごく気持ちいい! 想像するだけで幸せ!


 彼が好きなのはゴーストポケモン。その中でも、特にデスマスが好きだった。
 最初はちょっと不気味だな、って思ってたけど、見てみると案外かわいい顔してて、ゴーストタイプも思ったほど怖くないんだな、と思った。


「当時の人たちは、死後の復活の準備としてミイラを作っていたんだ」

 彼はよくそんな話をした。彼は古代文明とかそんな感じのものが好きだった。
 私たちが出会ったのも、たまたま行った博物館でやっていた、古代文明展みたいな会場だった。

「えー、でも、生き返ったとしても、あんなかっさかさの身体じゃ嫌じゃないかな?」
「あはは。こっちの世界で、ってわけじゃないんだよ。ここで言う「復活」っていうのは、「死後の世界の楽園に復活する」っていう意味なんだ」
「死後の世界に復活???」
「その文明に出てくるとある神様は、先代の太陽神から地上の統治を任されたんだけど、その弟が権力を手に入れるために、兄であり新しい王であるその神様を殺してばらばらにしてしまうんだ」
「ふんふん」
「神様の妻はその死体を集めて復活の儀式を行った。神様は生き返ったけれども、集めたパーツが足りなくて、また死んでしまう。そしてその神様は、死後の世界を統治するようになった」
「ほうほう」
「この宗教の基本となる考え方は、死と再生だ。例えば、この宗教は基本的には太陽信仰なんだけど。太陽は日の出とともに産まれて人々の住む地上の世界を船に乗って旅し、日の入りと共に死んで死後の世界である地下を船に乗って旅し、翌朝また産まれる、というサイクルをたどっていると考えていたんだ。死と再生を永遠に繰り返すわけだね」
「はー」
「人間は死んだら審判にかけられる。生前に正しい行いをした人は神様と融合して、死後の世界にある永遠の楽園で、第二の人生を歩めるんだ」

 それはいいんだけど、と私は彼の周りをふよふよと飛び回るデスマスを目で追った。

「それとミイラとどういう関係があるの?」
「死後の楽園に行ったあとも、魂はこちらの世界へ定期的に戻ってこなければならない。そのために、肉体が残っていなければならないんだ。肉体が失われると、魂はあの世から戻ってこられなくなる」
「お盆に迎え火たくようなもの?」
「……う、うーん、どうなんだろ……似たようなものなのかな……? うん、まあ、そういう感覚でいいんじゃないかな? 多分」

 どうかな? と彼は傍らのデスマスに尋ねた。さあ? と言うようにデスマスは首をひねった。


 彼の家には、何十匹ものデスマスがいた。
 みんな金色の仮面を持っているんだけど、よくよく見てみると、その子たちはそれぞれ顔が違った。

「個性があって面白いだろ」

 彼は言った。
 大人。子供。男。女。黄金の仮面には、色々な顔が映って見えた。

「最近は没個性な顔の子が多いけど、やっぱりこういう子たちの方が僕は好きだな」

 磨き布で仮面を拭いてあげながら、彼はそう言って笑った。



 彼の家は大きなお屋敷だった。
 地下室は危ないから入ってはいけないよと言われていたけど、そもそも広すぎて地下室の階段がどこにあるのかもわからなかった。

 その日。
 彼の家に行ったけど、彼はいなくて、デスマスもいなかった。

 屋敷をうろついていると、床のタイルが不自然にずれているところがあった。
 外してみると、地下へと続く階段が現れた。

 私は鼻をつまんだ。何とも言えない異臭。
 地下はひんやりとしていて、空気がとても乾燥していた。
 顔がパリパリになりそう、と思いながら奥に進むと、少し広い部屋に出た。


 床に散らばった白い粉と乾燥した草。
 壁に飛び散る赤茶色の染み。
 麻布にくるまれた「何か」の山。

 何、これ。
 胃の辺りからすっぱいものがこみ上げてきて、私は慌てて口を押さえた。


「――その昔、ミイラは薬として使われていたんだ」


 背中の方から声がした。
 私はびっくりしてとびのいた。

 数え切れない金色の仮面と、手にナイフを持った男の人が立っていた。


「埋葬されているミイラの周りには、死後の世界で生活するための副葬品が山ほどあってね。それを狙って、ほとんど全ての墓に墓荒らしが入ったんだ」

「ミイラ本体もほとんどが持ち去られ、粉々にされて、薬としてかなりの数が消費されてしまった」

「それじゃあ、死者の魂はどうなるんだろう」

「この世に戻ってくるためには、身体が残っていなければならない。でも、その身体は失われてしまった」

「戻ってきた魂が、行き場を失ってしまったんだ」


「デスマスというポケモンが発見されたのは、その頃のことなんだ」


「知ってる? デスマスが持ってる仮面はね、生前の自分の顔なんだ」

「だけどデスマスもポケモンだからね。デスマス同士の間で卵が出来て、そこから増えることの方が今は圧倒的に多いんだよ」

「そういう子たちは、何とも言えない無個性な顔をしてるんだ。「生前」がないから当然だね」

「でも、やっぱりさ。個性がある顔の方が楽しいだろ?」

「だけどなかなかいないんだよ。ミイラなんてもう作ってないから、当然かもね」


「だから、考えたんだ」


「いないなら、自分で作ってしまえばいいや、って」


「何、怖いことなんか何もないよ。むしろラッキーだと思えばいい」

「だって君は、これから永遠の楽園に行くんだから」

「こっちに戻ってきたらもう身体はないと思うけど、心配しなくてもいいよ」

「ボールに入れちゃえば、衣食住、何の問題もなくなるんだから」


「大丈夫。僕がずっと、大事に育ててあげるからね」



 白い刃がきらりと光る。
 私は慌てて逃げる。私が立っていた場所に、ナイフが振り下ろされる。

 パニックになりながら、私は腰からボールを取った。

「プリンちゃんっ!」

 ぽん、とボールが割れて、ピンク色の風船が飛び出す。プリンは大きく息を吸い込んだ。
 私は両耳をしっかりと塞いだ。


「『ハイパーボイス』っ!!」


 耳を塞いでいても鼓膜が破れそうになる、高周波の爆音。
 彼も思わず耳を塞いだ。彼の周りを漂うデスマスも一瞬たじろく。
 ゴーストタイプにダメージがないことは百も承知。だけど、ほんの一瞬だけでもひるめばいい。

 私はすぐに踵を返して、全速力で地上へ走った。

 そして二度と、彼の屋敷には近づかなかった。



 彼と出会って、何回目かの夏が過ぎた。
 通りがかった博物館では、古代文明の特別展をやっているようだった。
 でも私は、もう一生入ることはできないと思う。






 この町では、今年に入ってもう5人、行方不明者が出たらしい。








(2012.8.6)
小学校の図書館にあった、たかしよいちの考古学漫画が読みたい今日この頃