どっかの県の、とある施設が大爆発して、ある物質が空気に乗って世界中に拡散してからはや数ヶ月。
あの名作ゲーム、『ポケットモンスター』シリーズに出てくるポケモンが世界各地に出現していた。
どこかのエライ学者(研究者?よく分からん)が『ばらまかれた物質が既存の生物に進化を促して云々』と声高に主張し、クラスでは「俺ボーマンダ欲しい!」だの「いやジュカインだろ!」だの「私ピカチュウ!」だの「ホエルオーほしー」だのと言っていた。ところでホエルオーほしーとか言ってたやつに問うがどこで飼うつもりなんだ。どうでもいいけど。
そんな感じで世界中で空前のポケモンブームが巻きおこっていた。
そりゃあ俺だってポケモンは好きだが、野生のポケモンが人間に簡単に懐くとは想像し難い。そもそもモンスターボールも開発されてないからどうやっても捕まえられない気がするし。
よって俺の人生目標である『平和に過ごす』は、ポケモンに阻害されることもなく無事達成し続けられた……のだが。
福岡県在住の高校生の俺は朝七時半から午後一時まであった前期夏課外(うちの県では夏休みが始まってから約十日程課外授業があるのさコンチクショウ!)を何とか終え、自宅で昼はまったりと過ごし夕方はゲームで暇を潰していた。
夜。
コンビニでテキトーに選んだ弁当をマイクロ波を照射し、極性をもつ水分子を繋ぐ振動子がマイクロ波を吸収して振動・回転し、温度を上げて食品などを加熱調理する装置、すなわち電子レンジであっためていた俺は欠伸しつつボケーっとそれを眺め
バウンッ
!
!? 窓からなんか謎でミステリーで奇妙で摩訶不思議サウンドが聞こえてきた。…別にビックリしたりなんかしてませんけど。
バウンッ
?再び変な音。今度はパニクらずにどんな音かを思案できた。
えーと…布が強めにぶち当たるような音?
バウンッ
一体誰がこんなイタズラをしているのかを調べるため、そーっと窓に近づきカーテンをゆっくりと開けてみた。
「…………」
…えーっと…何だろうこれは。
音を出していたそいつは、黒いてるてる坊主に小さな角が一本生えたような体をした、ポケモンだった。
「…………」
…確か……
カゲボウズ…だっけ?いや、最後にポケモンしたの五年くらい前だからあってんのか分からんが。
そいつは俺を数秒間みつめたと思うと、目を閉じてその体のヒラヒラをはためかせながらゆっくりと落ちていく。
「うおっ!?」
おれ の てだすけ !
カゲボウズ(仮) は おちずにすんだ !
俺は咄嗟に窓を開けて手で助けた。フッ、まさに『てだすけ』。……バッカジャネーノ。
「…どうしよ」
手の平で倒れてるカゲボウズ(仮)は目をつぶっている。つーか寝てんのかこいつ。
この俺様の手の平で寝るつもりならば一時間につき五千円を徴収するぞ!
「冗談だけど」
うーん、ひとまずこいつは寝かしておこう。
電子レンジからも、バウンッ とかゆー爆発音聞こえてきたしな。
どこか乾いている弁当を霧吹きで湿らせてから電子レンジで温め(これで結構もとに戻る)、飯を食っている間に調べたのだがやはりこいつはカゲボウズのようだ。良かったな、お前。これで(仮)なんて付けられずに済むぞ。そう呼んでいたのは主に俺だが。
件のカゲボウズはいま俺がタオルで作ったミニ布団で寝ている。
…そもそもこいつ、何で俺の家に来たんだろう。不思議で仕方が無い。
俺が負の感情を出してたとか?まあ確かに腹減ったなーとか思ってたけど。
……あ、起きた。
カゲボウズは状況が分かっていないのか、辺りをキョロキョロしている。
そして最後に俺を数秒みつめて唐突に目を細め、
「危ねええぇぇえぇっ!!」
コイツいきなりシャドーボール撃ってきやがった!!超危ないんですケド!
「ま、待て、落ち着け…な?な?」
俺、かつてない程ビビってます。腰を抜かして小便ちびりそうなレベルで。
…おい、誰だ今笑ったやつ。シャドーボールのかすった脇腹んとこ服が消滅してるからね?ちなみに俺の脇腹を掠めていったシャドーボールは昼過ぎに食った後そのままだった食器にぶち当たり食器を粉々にした。今度替えの食器買わなきゃ。
そして食器を粉々にした張本人もとい張本ポケのカゲボウズは、しばし俺を睨んだと思うと力を使い果たしたかのように落下を
「おぉっと」
…する寸前に俺が支えた。てゆーかなんだコイツ、大丈夫か?
そう思った俺は、試しに手の平でクタッとなっているカゲボウズを弁当に近づけてみた。
するとカゲボウズは手の平でコロリと転がり、『いいのか?』的な視線を投げかけてきた。
「いいぞ」
そう俺が言うや否や、カゲボウズはすぐさま弁当へと飛びついた。
「腹減ってたのかよ」
という俺の呟き等耳に入らないかのようにすごい勢いで食っている。耳の有無はさておき。
「………」
でも、まあ。
これが平和かどうかはともかく。
空腹のポケモンを助けるのも悪くないかな、なんて思う俺であった。
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