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  [No.2577] 投稿者:   《URL》   投稿日:2012/08/20(Mon) 22:26:27   104clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


 たまに、自分の今の日々に意味があるのか疑問に思うことがある。
 過去を振り返るのも飽きてしまった。
 最早退屈など感じてはいないが。

 自分がここに存在する事は周りから快くは思われていないようだ。
 しかし、いくら迫害されようが自分自身ではろくに動けない。
 最早、夢も希望もない。

 私の身体は常に膜で覆われている。
 外からどう見えているかなど私の知った事ではないが、中から見てみると意外と半透明で不確かな物だ。
 既に慣れてしまっただけかも知れないが。

 ある日、自分の目に小さな光が入ってきた。
 暗闇に慣れていた私にとって、その小さな光は視界が霞んでしまう程眩しかった。
 「光」から拒絶され、何時の間にか暗闇を負の走行性を身に付けていた自分だが、今回はなんとなくその「光」に近づきたくなった。

 自分の運命はなんとなく理解していた。
 この半透明で不確かな膜が無くなり周りから煙たがられる「蛾」になるのだ。
 その「運命」とやらを、「理解」はしたが、「受け入れた」憶えなど何処にもない。
 ―――自分は、「蛾」ではなく「蝶」になりたい。周りから煙たがられる、汚らしい「蛾」では無く、周りから求められる、美しい「蝶」になりたい。
 強くそう思ったことが何度かある。
 まあ、そう思うと同時に「理性」とやらにへし折られてしまうのだが。その「夢」や「希望」は。

 例の「光」は日に日に強くなった。
 「光」が強くなる度に、「痛み」も強くなった。
 この身体になり、ろくに動けなくなってから受けた「痛み」だ。
 私に「痛み」を与えた者の姿は克明に覚えているが、別に復讐しようだとかは全く考えなかった。
 ―――どうせ消えかけていた「痛み」だ。別にどうって事はない。
 ただ、憶えていたいと思った。絶対に、永遠に憶えていようと誓った。

 久しぶりに過去を振り返ってみた。
 この半透明で不確かな膜が、私を包み込んだ直後の事を思い出した。
 今ではすっかり荒んでしまったが、あの頃はまだまともな心を持っていた。
 あの頃はまだ「夢」や「希望」を持っていた。
 忘れないでいて欲しかった。
 何かと繋がっていたかった。
 恐らく、この願望は過去形で正しいと思う。

 ある日の真夜中、光が強くなるのを止めた。
 その代わりに、私自身が強く発光しているのがわかった。
 それと同時に、私は自分に進化の時が訪れた事を悟った。
 ―――やはり私は蛾になるのだろうか。
 ―――やはり私に蝶になる権利はないのだろうか。
 そんな事を思って、ようやく自分が解った。
 自分は自分で思っている程諦めの良い生物ではなかったのだ。
 そう悟りきった時、私の発光は止まった。
 もしかしたら、私は蝶になっているのかも知れない。
 そんな淡い希望を抱き、辺りを見回すが、生憎水溜りの様なものは見当たらない。
 水溜りを探してうろついていると、遠くの方に光が見えた。
 私は何かに導かれるようにその光へと飛んで行った。

      −end−