たまに、自分の今の日々に意味があるのか疑問に思うことがある。
過去を振り返るのも飽きてしまった。
最早退屈など感じてはいないが。
自分がここに存在する事は周りから快くは思われていないようだ。
しかし、いくら迫害されようが自分自身ではろくに動けない。
最早、夢も希望もない。
私の身体は常に膜で覆われている。
外からどう見えているかなど私の知った事ではないが、中から見てみると意外と半透明で不確かな物だ。
既に慣れてしまっただけかも知れないが。
ある日、自分の目に小さな光が入ってきた。
暗闇に慣れていた私にとって、その小さな光は視界が霞んでしまう程眩しかった。
「光」から拒絶され、何時の間にか暗闇を負の走行性を身に付けていた自分だが、今回はなんとなくその「光」に近づきたくなった。
自分の運命はなんとなく理解していた。
この半透明で不確かな膜が無くなり周りから煙たがられる「蛾」になるのだ。
その「運命」とやらを、「理解」はしたが、「受け入れた」憶えなど何処にもない。
―――自分は、「蛾」ではなく「蝶」になりたい。周りから煙たがられる、汚らしい「蛾」では無く、周りから求められる、美しい「蝶」になりたい。
強くそう思ったことが何度かある。
まあ、そう思うと同時に「理性」とやらにへし折られてしまうのだが。その「夢」や「希望」は。
例の「光」は日に日に強くなった。
「光」が強くなる度に、「痛み」も強くなった。
この身体になり、ろくに動けなくなってから受けた「痛み」だ。
私に「痛み」を与えた者の姿は克明に覚えているが、別に復讐しようだとかは全く考えなかった。
―――どうせ消えかけていた「痛み」だ。別にどうって事はない。
ただ、憶えていたいと思った。絶対に、永遠に憶えていようと誓った。
久しぶりに過去を振り返ってみた。
この半透明で不確かな膜が、私を包み込んだ直後の事を思い出した。
今ではすっかり荒んでしまったが、あの頃はまだまともな心を持っていた。
あの頃はまだ「夢」や「希望」を持っていた。
忘れないでいて欲しかった。
何かと繋がっていたかった。
恐らく、この願望は過去形で正しいと思う。
ある日の真夜中、光が強くなるのを止めた。
その代わりに、私自身が強く発光しているのがわかった。
それと同時に、私は自分に進化の時が訪れた事を悟った。
―――やはり私は蛾になるのだろうか。
―――やはり私に蝶になる権利はないのだろうか。
そんな事を思って、ようやく自分が解った。
自分は自分で思っている程諦めの良い生物ではなかったのだ。
そう悟りきった時、私の発光は止まった。
もしかしたら、私は蝶になっているのかも知れない。
そんな淡い希望を抱き、辺りを見回すが、生憎水溜りの様なものは見当たらない。
水溜りを探してうろついていると、遠くの方に光が見えた。
私は何かに導かれるようにその光へと飛んで行った。
−end−