研究施設の一角で行われるこじんまりとした送別会
私がリーダを勤めていた研究チームが今月末を持って解散することになったのだ。
前々からその気配はあったが、それに気づいたころにはどうすることも出来なかった。
解散が確定した時点で私は研究者から身を引くつもりでいた、部下からは惜しむ声もあったが
肩の荷が下りたような気持ちになり、その流れで辞表を出し受理された。
そして、今日が研究者として最後の日だ、そう、チーム解散と私の送別会である。
夕方からソフトドリンクを飲みながら談笑、時間は夜20時を回ったところだろうか
「さて、そろそろお開きにしようか」と、私は皆に声をかけ閉めの言葉を述べ始めた、
「今まで世話になった、我々の研究は最終的に評価されることは無かったが、
極めて価値のある研究であったと自身を持っている、これからもそのつもりだ。
それぞれ違う部署と研究につく事になるだろう、特に健康には気をつけて生活してほしい…
短いが以上だ、諸君らの健闘を祈る。」
うっすらと目に涙を浮かべる研究員もいるなか、片付けが始まる。
そう、価値のある研究だった、しかし何も残らなかった、成果も記憶も。
唯一残っていた研究チームも今月末を持って解散となる。
資料は電子化され保管されるが、引継ぎは無い、数少ない残った機材も破棄される、
もう誰の目にも触れることはないだろう。
研究員の一人が声をかけてくる「あの・・・博士、これも破棄ですか・・・」
それは冷蔵庫のようなものといえば判り易いだろうか、中身は研究の成果物である。
私は少し考え、この研究のケジメとして自分の手で弔うことにした。
博士「これは私が処理しよう、研究者として最後の仕事にするよ。」
成果物を冷蔵庫から輸送用ケースに移し変え、私は施設を後にした。
本来持ち出しなどできないものだったが、セキュリティの人間とも長い付き合いだ、
中身と理由を説明をしたら目を瞑ってもらえることになった。
後ろのトランクにケースを入れ、車は走り出す、静まり返る夜の道へと吸い込まれるように。