前書き:BLです ミクダイです。
BLには入れないでください。
男性同士の性行為を暗示する描写が含まれます。そういうシーンがあるので、嫌いな人や、嫌な予感したら早く読むのをやめましょう。
振られたとミクリが聞いたのは、変な時間の電話だった。
ダイゴに飲みに来ないかと誘われて、ミクリは休みの合間にトクサネシティに向かう。
チャイムを鳴らしても誘った本人は出て来ない。声だけが「開いてるよ」と返ってきた。
いくら付き合いの長い友達とはいえ、こんなことがあっただろうか。今回の失恋が相当こたえたのか。ミクリは玄関を開ける。
酒臭い。ミクリが感じたのはそれだった。もとより酒は強く、ウイスキーのダブルを平気で飲み干すダイゴだった。だがここまで匂いをさせているのは彼らしくない。
「やぁミクリ、飲もうよ!」
テーブルは散乱している。ダイゴのまわりには口の開いたビンが転がっていた。そして本人はワイシャツの胸元をだらしなくあけ、ジャケットはその辺に脱ぎ散らかしていた。
「飲もうよ、じゃあないでしょ。まず片付けるからね」
「いいじゃない、片付けなんてどーだっていいんだよ、どーだって!」
酔っ払いながらもグラスを引き出す。その間にミクリはビンを端に寄せた。足の踏み場もそろそろなくなりそうだ。
「カルバドスだよ!凱旋門が見えないけどね、失恋にはぴったりだ!」
「そんなに振られたのがこたえたの?」
ダイゴは酔いながらも、いきなり態度が変わる。
「当たり前じゃない!この僕が振られるって有り得ない!僕はあの人しかいないって言ったし結婚しようって約束もした!なのに僕の金しか見てなかった!僕はあの人が欲しいもの何でも買ってあげたのに!」
水を飲むようにグラスの酒を飲み干す。
「お酒に逃げても体を壊すだけだよ」
「ミクリに何が解るのさ!」
「私だって失恋の一つや二つはあるよ」
「君はいいよね!イケメンイケメン騒がれて、トレーナーとしても成功して、ファンもたくさんでさ!毎日毎日君のことが好きな女の子に囲まれてれば楽しいよね!」
「いい加減にしなさい。私に恨み言聞かせるために呼んだなら帰る」
ミクリは立ち上がる。が、ズボンの裾をダイゴがしっかりと掴んでいた。
「なに?」
「ごめん、帰らないで」
仕方なくミクリは再び腰を下ろす。注がれたカルバドスを一口つけた。
「ミクリまでいなくなんないで」
振ったことは数え切れなくても、振られたのは初めてだ。ミクリの知るかぎりは。だからか耐性が全くないのだろう。
「もう女なんてやだ。僕なんか見てないんだ。僕のお金しか見てない」
「正体隠して付き合ってみたら?」
「今回だって結婚の話するまで言わなかったのに」
「玉の輿狙いが自爆してくれて良かったじゃない。それこそ、結婚後だったら悲惨だよ、浮気なんて」
ダイゴは黙った。空のグラスを握って、声を押し殺して泣いている。
「ダイゴほどの男だったらまた次があるから」
「もう次なんていい。僕だって誰かに抱かれたい」
タコのようにダイゴが絡んでくる。酔っ払いだから仕方ない。ミクリは抱きついてくるダイゴのひたいを軽く叩いた。
「いいじゃない。ミクリって自分でも綺麗だって思ってるでしょ。それ女の子だけが独り占めなんてあり得ないんだよね」
「何をおっしゃい。女に振られたからって男に逃げないでよ」
「それに興味あるんだよね。女の子とやるよりいいなら、もう女なんて要らない」
「私がそっちの趣味だとしても、振られて腐ってる男なんて抱きたくないね」
ミクリがはっきり断ってもダイゴはますますミクリにくっついて来る。
「女々しいという言葉は、今のダイゴの為の言葉だね、全く」
酒臭い息がミクリの首筋にかかる。酔っているだけなのか、本気なのか、ダイゴはミクリの開いた胸元に抱きつく。
そこから見たダイゴの体は、クッキリとラインが見えた。男の均整の取れた姿は、同性から見ても憧れるくらいだ。
ミクリから見たダイゴは、最高のステータスを兼ね備えた完璧な存在だ。もしミクリが女だったら、こんな男をわざわざ手放すわけがない。
もしダイゴが女だったら…今の彼と同じように出来ることをやり尽くしても引き留めるだろう。そしてそれが叶わない時、こうして酒に逃げるしかない。
「悪ふざけもそこまでにしよう。ダイゴが興味本位で私とやったことが、未来永劫響くんだよ。家業にも影響するだろうし」
「んー、それってミクリは僕とやるのは、やぶさかではないってことだよね?」
「どうしてそういう言葉のあやを見つけるの。そもそも誘うならその酒臭いのはどうなんだ」
「だからさ」
ダイゴは後ろのテーブルにある酒ビンを掴んだ。
「飲もうって言ったんだよ。お酒はいいよ!何だってその気にさせてくれる。誰も見てやしない」
これだけ酩酊してれば、普段とは違うのは当たり前。ダイゴはカルバドスを口に含む。そして口移しするかのようにミクリの唇に触れた。
強い酒がミクリの口腔に流れ込んだ。蒸留酒の香りが鼻から抜けていく。
けどそれより衝撃なのは、ダイゴと舌まで絡ませあっていることだった。今にも泣きそうな息づかいと共にミクリを求めて来る。
「ミクリ、僕を抱いてよ、誰でもいいわけじゃないんだ。一番の親友に抱かれたいんだよ」
子供のようにしがみつくダイゴは、今まで見たことがなかった。ミクリはダイゴの頭を軽くなでる。
「酔いがさめたら後悔しますよ。今のことは忘れますから」
「いやだ!ミクリまで僕を要らない人間にするの!?」
「誰も要らないなんていってないでしょう。ダイゴは私の大切な友人だと思ってる。だからこそ酒によって間違いをおかすなど見てられない」
黙ってダイゴはミクリを見る。納得いかない顔をして。今度はミクリの上にかぶさるように唇を求める。勢いよくミクリは後ろに倒れ込む。
親友だと思っていた男……抱きつかれた時に、ほんの少し感じた色気。いつにないものがダイゴから漂っている。それはベッドに入る前の女のようだった。
唇を離したダイゴは遊んで欲しい子供だ。困惑しているミクリを楽しそうに見てる。
「ダイゴは本当にそれでいいんですか」
「なんで?僕はミクリがいいよ。女なんかもういやだ」
「私たちはそういう目で見られるんだよ。これからずっと」
「ミクリは僕より誰も知らない他人の評価の方が気になるの?そんなのありえなくない?ねえ、あり得ないよね、ねえ!そんなに僕に魅力ないの?じゃあミクリは僕よりその辺の女の子のがいいっていうの!?」
「とにかく落ち着いて。人肌恋しいのは解ったから。でも私にも選択権があること忘れないで」
酔っぱらいはとにかく面倒だ。なるべく優しく言っても、ダイゴも感情の起伏がおかしく、泣いたと思えば怒りながらミクリを叩く。
「ミクリまで僕を振るんだ」
「こんなになよなよしてるダイゴは嫌い。それに君だけ気持ちよくなろうなんて図々しい」
軽くダイゴの額に唇をつける。
「今日だけだ」
ミクリの返事にダイゴは物凄い嬉しそうだった。やっと受け止めてくれる人を見つけたような、そんな顔。
酒の力もあった。
ダイゴの着ているものをはぎ取る。ソファに横たわる彼は、温泉などでよく見るダイゴの体とは違った。錯覚のようにも感じる。これから抱く男の筋肉。
この体に毎晩抱かれておきながら、他の男も求めたのか。随分と贅沢な女だったんだな。こんなに強く、男らしい体なのに。この上ない男だというのに。
そんなに合わなかったのだろうか。ミクリはダイゴの体を抱きとめながら考えた。今の彼は確かに頼りないが、それがいつものダイゴではないはずだ。
「ミクリぃ、どうしたの?」
やたら色っぽい声と共にダイゴはミクリを見つめる。
「なんでもない」
ミクリ自身も服を脱いだ。ダイゴを力強く抱きしめる。そしていつもするようにダイゴの唇をそっと塞いだ。
ミクリに抱かれた。初めてであるのに、ダイゴは少しずつ心が軽くなっていくのが解る。ミクリが自分を求めてくれている。そして肌に感じるミクリの暖かさ。
もっと早く知っていればよかった。こんなに親友の肌が優しいなんて。その暖かさがダイゴの傷を癒していくようだった。
ダイゴの中にミクリが入って来ても気持ち悪いとか不快だとか思わなかった。どんどんミクリが入ってくればいい。そして自分を埋め尽くすくらいになってしまえばいい。
そこから感じる快感が、いつもより強いのは酒のせいではないだろう。
「ミクリ……」
ダイゴの体が絶頂を知らせる。ミクリに抱かれながら。それがとても幸せなことに感じた。
その夜もダイゴはミクリに抱いてくれるように願った。仕方ないね、とやや困ったようにダイゴの唇に触れる。そして半分固くなったダイゴのものをそっと握った。ダイゴも応えるようにミクリの舌を絡ませた。
朝になってミクリは目を覚ます。あんだけ強い酒をあおった後の行為を思い出すと物凄い罪悪感がある。その隣ではまだダイゴが寝ていた。全裸で何も知らないように寝ている。
「ダイゴ、朝だよ」
「ん……」
それだけ言うとダイゴは寝返りをうって反対を向く。さては飲み過ぎか。酒に強いとはいっても、あんだけ飲んで抱いてと言う。相当苦しかったのだろう。それだけ相手の女が好きだった。それはミクリにも解る。
もうこの先、二度と親友とこんなことをすることはないだろう。ならば最後にもう一度だけ……。ミクリはダイゴの頬に軽くキスをした。まだ起きて来なそうな親友をおいて、ミクリは昨日脱いだ服を羽織った。
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ダイゴさんください。
ダイゴさんならもうなんでもいいよ。
ダイゴさんくれよ。
ダイゴさんください。
ダイゴさんよこせ。
【好きにしてください】