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  [No.2628] remake.ver(百字?) 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/09/20(Thu) 16:49:18   92clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

一体、どれくらい書いたのだろう。
二年間という、長くも短い年月。その間にその力は、どんどん強くなっていった。
物語を書くことの楽しさを。それを評価してもらうことの楽しさを。
――私は、きっと忘れない。


  [No.2632] 海辺の崖の小さな家 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/09/21(Fri) 20:50:39   113clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

今でも時々夢に見る、あの光景。あれから一度も行ったことはないけど、それでもハッキリ覚えている。
随分と引っ込み思案だった私を。他人に合わせることしか出来なかった私を。
ガラリと変えたのは、紛れもない、あの出来事なのだ。

――――――――――――――――――
生まれてから幾度目かの夏が巡って来て、そして終わった。まだ少し蒸し暑い日もあるけど、朝方と夜の冷え込みは秋が少しずつ夏との椅子取りゲームに勝って来ていることを教えてくれる。
空は高い。雲は時々入道雲、鰯雲。雨は降る時にはしつこく、止むとまた少し涼しさを持ってくる。そんな昼夜の気温が安定しない日々で、私が考えていたことといえば、一匹のツタージャのことだった。
ツンとした態度と、時折見せる寂しげな表情。ロンリーボーイ……ガールではないと思う。会って少し経ったが、その子の性別は未だはっきりしない。そもそも自分のポケモンとしてポケモンセンターや育て屋に連れて行っていいのか、それが分からなかった。
生まれて十四年が経過したが、ポケモンを持たせてもらったことは一度もない。両親が海外へ行く前に免許は取ったが、どうしても持つ気になれなかった。持っていた方が何かと便利であることも、市民権をより強く得ることができるのも分かっている。
だけど……。
ピンポーン、という音で我に返った。慌ててパスを反対にして翳す。幸いにも後ろに待っている人はいなかった。
最寄り駅であるライモンシティから少し離れた場所。住宅街に面した、どちらかといえば田舎寄りの土地。同じような家が並び、何処が誰の家なのか見分けがつかない。
だが、迷うことは無い。何故なら、今から自分が行こうとしている家はそれらからかなり浮いているからだ。

「趣味が伺えるなあ……」

アースカラーが似合う家。壁にはめられたステンドグラス。今日はよく晴れていて、青い空がグラスに映っている。光を浴びている彫られたポケモンも、活き活きとしているように見える。
家と家の間に申し訳無さそうに建っている。写真を撮ろうにも全て同じアングルからしか撮れないだろう、というくらい小さい。まるでシンオウ地方にあるという白い時計台のようだ。ビルとビルの間にあり、たとえタウンマップの表紙を飾っても現地に行けば驚かれてしまうような……
いつも通りにノックして、ドアを開ける。そして――

ひっくり返る。頭を打った場所が芝生の上だったことが不幸中の幸いで、ゴチン!という目を覆いたくなるような惨事にはならなかった。
一応後頭部を撫でる。鈍い痛みはあるが、たんこぶになるような気配はない。一体全体どうしたもんだ、と前に視線をやった私が見た物は……。

「あ」
『キュウウ』

お馴染みの目と目が合う。大きな瞳に、私の間抜けな顔が映りこんでいる。眼鏡がズレているのを直すと、私は立ち上がった。ついでにパンツの埃を払う。
ツタージャは焦っているようだった。妙にわたわたしていて、いつもの冷静沈着な面は見えない。思わずクスリと笑うと、怒ったらしくつるのムチで頬をペシペシと叩いてきた。
ごめん、ごめんと謝ると腰に手を当てたままムスッとしている。

「珍しいね。自ら出てくるなんて」
『……』
「どういう風の吹き回し?」

私のからかいを無視して、そのままてってっと道路の方へ走っていく。予想外の行動に暫し呆然としていたが、慌てて開けっ放しになっていたドアを閉めて、ツタージャの後を追う。
相手の足の長さが幸いして、私は迷路のような住宅街でもその子を見失わずにすぐに追いつくことができた。
鉄の焦げる匂いがする。聞きなれた、ノイズ混じりの男性の声。スピーカーから流れる、割れたチャイム。小型ポケモンは料金は無料だということを思い出し、私は再びパスを通して改札口を通った。

「駅……」

ついさっき私が通ってきた駅。可愛らしいカフェは付いていないが、海と山、両方に囲まれた土地にあるため比較的通っている路線の数は多い。四番線まである。
その中の一つ―― 三番線ホームへの入り口である階段前に、ツタージャは立っていた。しきりに上の方を見つめている。見慣れた屋根の裏側。蛍光グリーンの文字盤が、時間を示す。電光掲示板はここからでは見えない。
そっと足を動かしては、引っ込めるという動作を繰り返すその子に、私はもしや、と思い訪ねた。

「……足、上がらない?」
『……』
「上に行きたいんだね?」

頷いたのを確認してから、私はそっと彼の腕の下に手を滑らせた。そのまま胸元まで抱き上げ、階段を上がっていく。多少プライドを傷つけられたのか、しばらくそっぽを向いていた。
変化があったのは五十段目を昇り終えた時。私が油断していたせいもあるけど、昇り終えて気が抜けていた私の手をひょいっと抜け出した。

「こら!」

そのままてててと停まっている電車に滑り込んでいく。右側に線路にドンと居座る、シルバーに緑色のラインが入った車体。ちなみに反対側はブルー。
息を切らして乗り込むと、ツタージャは一番前の座席の端っこにちょこんと座っていた。周りにポケモンを連れた乗客は数人。一人はヨーテリー、一人はドレディア(しかも恋人繋ぎ)、そして最後はツタージャの進化系であるジャローダ。
彼らの間で見えない火花が散った気がした。厄介ごとになる前に、相手のトレーナーがペシンと頭を叩いたから、大丈夫だったけど。
いつの間にかアナウンスが流れ、ドアが閉まっていた。ガタン、ゴトンと列車が動き出す。このまま立っているのも危ないので、ミドリはツタージャの隣に腰を下ろした。
上を見ると、広告と一緒に路線案内図が貼られている。何か書いてあるのは分かるが、両目とも視力0、1のミドリには読めない。
たとえ、眼鏡をかけていても今は。

(見えない物、か)

以前読んだ本に書いてあったフレーズが、ふと頭を過った。
『大切なものは、目に見えない――』
周りに付き合うことに疲れていたミドリの心に、それは深く響いた。
友達は、大切。その関係という物は目には見えない。だけど、人間は目には見える。目に見える物と見えない物が合わさり、この世界は成り立っている。
それに気付けるかどうかは、彼ら次第なのだと…… 他人に教えてもらうより、自分で気付けるかどうかが大切なのだということに気付いた。

窓ガラスが黒い画用紙を貼ったように黒くなっていた。そこに自分とツタージャの姿が映る。鏡のようだ。
その中に映る自分はどんな顔をしているのか。ぼやけてよく見えない。
いつの間にか周りに立つ人間が増えていた。その中の人集団に目を留める。彼らの格好はほぼ同じ。髪を短く切り、ピアスをしている。この季節には似合わない、よく焼けた肌の色。大荷物。左手首に不思議な形の日焼けの跡。
それに当てはまる物を考えた瞬間、一気に車内が明るくなった。ツタージャが眩しそうに目を覆う。ミドリも振り返って窓の外を見て―― 答えが出た。
キラキラ光る線。太陽が丁度世界の中心に上っている。青い波が押し寄せては崩れ、白波へと変わる。
小さな人影。皆が皆、彼らと同じような格好をしている。波に乗り、風を掴み、どれだけ転んでも立ち上がる。
周りに迷惑をかけることのないこの時期を選んだのだろう。

海だ。
山と崖に囲まれた場所に、海が広がっていた。

降り立った駅はかなり寂れていた。そもそもこんな駅でもきちんと成立しているのか、と考えてしまうくらいボロボロの建物である。屋根のペンキは剥がれ落ち、かつては赤だったと思わせる色。今では色あせ、その赤色の面影もない。どちらかといえば限りなく白に近いピンクに見える。
自動販売機があったが、ラベルが色あせていたためしばらく取り替えられていないことが分かる。つまりはドが付くほどの田舎だということだ。

「ライモンシティとは大違い……」

流石に呆然としたミドリの耳に、ツタージャの声が届いた。振り向くと改札口を通り過ぎ、そのまま道へ走って行こうとしている。
またこのパターンか、と思いながらもミドリは好奇心が湧き出てくるのを感じていた。ツタージャが知っている世界を、自分も見てみたい。
そんな思いを胸に足を動かす。
車通りは少なく、ツタージャはその短い足を器用に動かして先導していく。途中で寂れた飲食店、未だ現役なコンビニ(駐車場付き)を幾つか通り過ぎた。いかにも、な看板が目に入り、ふと懐かしさを覚える。
やがて、私の足は海の側にある小さな裏道の入り口で止まった。
まだ青い木々が行く手を阻む、坂道。『止まれ』の白い文字はハゲかけている。

「ここを登るの?」
『キュウ!』

それだけ言って上っていく。だがなかなか進まない。それでも確実に上がっていく。迷いは無い。
……慣れている。
汗一つかいていないツタージャと反対に、登り始めてたったの五分で息が上がり始めたミドリ。帰ったら運動しよう、と決心する。
それにしても、かなり長い坂だ。途中で右に曲がり、その後は一方通行。視界に『野生ポケモン出没注意』と書かれた看板があった気がしたが、気のせいだと思いたい。
携帯電話は圏外だった。

「あー……」

登り始めておよそ二十四分と五十三秒。ようやく視界が開けた。緑一色だったのが、青と土色が混ざる。
柔らかい風が髪を撫でていく。
まず最初に目に映ったのは、木で作られた家。昔読んだ某医療漫画の主人公の家によく似ている。だがそのシチュレーションがぴったり合って、ミドリはほう……とため息をついた。
ツタージャがつるのムチでドアノブを回そうとする。だが鍵がかかっているようで開かない。

「鍵無いの?」

頷いたのを見て、ミドリは少し下がった。そして――

「はっ!」

思いっきり体当たりした。錆び付いていたのだろう。バキッという音がしてドアが倒れる。はずみで地面に転がった。
舞う埃に咳き込みながら辺りを見回す。内装、家具共にカントリー調だった。しばらく使われていないのだろう、埃が積もりに積もっている。
ツタージャが遅れて入ってくる。小さな足跡が、床に付く。見れば自分が穿いているスニーカーの跡もくっきり付いていた。
……ついでに、転んだ跡も。

「ここは……」
『キュウウ!』

再びつるのムチ。目の前のテーブル横にある引き出しの一つを、必死で開けようとしている。長いこと開けられてなかったせいだろうか。その天然の木で作られた引き出しは染み出る樹液で固まっており、ビクともしない。
だがツタージャは気付かない。しまいにはタンス本体がガタガタと音を立て始めた。

「ストップ!」

不満げな顔をするツタージャを抱き上げ、テーブルの上に乗せる。自分で引っ張ってみたが、やはり動かない。
仕方ないので持っていたペンケースからカッターナイフを出し、境目に刃を擦り付ける。ガキン、という嫌な音がした。何とか引っかからずに刃が通るようになってから取り出す。
銀色に輝く刃は、見事にジグザグ状の割れ跡が入っていた。もう使えないだろう。
幾許かの虚しさを感じ、ミドリは使い物にならなくなったカッターナイフを机の上に置いた。続いて引き出しの取っ手を引っ張る。
刃を犠牲にしたおかげか、それは先ほどとは比べ物にならないくらいスムーズに開いた。

「……何だこれ」

古い、古いノートとスケッチブック。最近雑貨屋に増えてきたアンティーク風にデザインされたノートよりも、よっぽど年季が入っているように見える。色あせ、開いて見た中の文字はかなり薄くなっていた。
スケッチブックを傍らに寄せ、ノートの文字を見る。ツタージャにも見せようかと思ったが、しきりにスケッチブックを漁っているので放っておく。

「えー、なになに……って、英語!?」

日本語ではなかった。授業で習っていない単語のオンパレード。それでも今までの経験値とこの家の雰囲気からヒントをもらい、頑張って分かる単語を組み合わせていく。
一ページ読むのに五分。その日記は約二十ページあった。×五で百分。一時間と四十分。そういうわけで、ようやく納得できる翻訳を終えた時には既に西日が窓から差し込んでいた。
立ちっぱなしで棒のようになった足を擦る。埃だらけの椅子を持っていたティッシュで拭い、座る。机に突っ伏して、内容を反芻する。

「ツタージャのご主人様の、家なんだね」
『キュウ』
「ん?」

ツタージャがスケッチブックから一枚の紙を取り出し、私に見せた。良く見ればそれは紙ではない。いや一応紙の分類に入るのかもしれないけど、色あせた画像のオプション付き。
今とあまり変わらない服装の男女が立っている。撮影場所は多分この家の前。その真ん中にツタージャ。写真の状態から見て、二十年くらい前のようだ。
日記の内容と照らし合わせて再び考える。
その日記は、このツタージャのご主人が、自分が死ぬ前に書き記した物だった。

時は三十年ほど前。その男は、デザイナーとして世界中を回っていた。カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ。同じ場所に一年留まることなく、まるで風のように居場所を変え続ける。――いや、居場所なんて求めていなかったのかもしれない。新しいデザインのネタとなりそうな噂を嗅ぎ付ければ、たとえどんなに遠い場所でもすぐに向かう。そんな生活をしていた。
そしてそんな生活の中で、彼はふとしたことから伝説のポケモンに魅入られてしまった。神話や昔話だけに登場し、気まぐれに人間の前に姿を現す、希少な存在。それは何処の地方へ行っても伝わっており、その話をする人間の瞳は輝いていた。どんなに歳を取った者でも、それを口にする時その瞳は子供のように輝く。
そして、その男もそうだった。
彼は旅の途中で出会った女性と結婚し、彼女と共に各地の伝承や昔話が書いてある本を求めて回った。理由は一つ。想像図で描かれた伝説のポケモンを、何らかの形で残したいと思ったから。
その形は、彼の職業によってすぐに成すこととなる。
それが、ステンドグラスだった。
想像だけで描かれた物も多く、細部などはなかなか納得のいく物ができず、作っては壊しの繰り返し。それでもやっと、ほとんどのポケモンをモチーフにしたそれを作り上げた。
さて、少し落ち着いたかと思った彼の耳に飛び込んで来た、新しい情報。それは、イッシュ地方の英雄伝説だった。
理想と現実。対立した二人。それぞれについた、黒と白のドラゴンポケモン。
男はすぐさまイッシュに飛んだ。愛する妻と共に。ツタージャとはそこで出会ったようだ。育て屋の主人と知り合い、タマゴを分けてもらったのだという。
特に戦わせることなく、だが一緒に本を読んだりしたおかげで思考回路だけは発達したようだ。その気になれば仕事を手伝ってくれたりもしたらしい。
だが、イッシュに来てから三年目の冬に妻が倒れた。長い間連れまわしていたせいで彼女の体には病魔が巣食っていた。
我慢強い性格ということに気付けなかった男は、仕事を放り出して妻の看病をした。だが妻はステンドグラスの完成を望むと言い残して息を引き取った。
悲しみに暮れていた男だったが、妻の最期の言葉を思い出して再び英雄伝説を調べ始める。気付けばイッシュに来てから五年が経過していた。
そして、やっと完成したというところで男は倒れる。彼の体にもまた、病魔が巣食っていた。
死を予感した男は、一匹で残されてしまうツタージャを思い、死の床で手紙を書いた。それは遺言状だった。
内容は――

「『このツタージャが認めた者は、自分の今まで造り上げたステンドグラスの所有権を持つ。その人間が現れるまで、作品は全て何処かの場所に保存しておくこと』」

昔からの知り合いに頼み、全ての遺産を使って保存しておく場所である小さな家を建てた。
ツタージャを任せ、彼が素晴らしいパートナーにめぐり合えることを祈った。
そして、息を引き取った。
日記に書かれていた文は最後の方が震えていた。おそらく最後までペンを握っていたのだろう。

「……」

ツタージャの瞳は綺麗だ。だが、その目が主人の最期を見ていたのかと思うと、何とも言えない気持ちになる。
明日が分からない世界に、自分は生きている。たとえば家に帰ったら両親の訃報がメールで来ていたり、今こうしている瞬間に巨大な地震が起きて死ぬ―― なんてことも考えられないことではないのだ。
『ありえない』と言い切れない。
それが、怖い。

――だけど。

「『ありえない』そんな言葉通りの世界なら、きっと君は私をここに連れて来る事はなかったんだよね」
『……』
「ううん。きっと、会うこともなかった。私を垣根の上から見つけて、私が貴方を見つけて、目が合うことも―― そしてここまで発展することも」

何が起きるか分からない。未来は、何が起きるか予測できない。
――だから、面白い。そう思いながら生きれば、きっとアクシデントも乗り越えられる。
そう、信じたい。

「……ご主人のこと、好きだった?」
『キュウ』
「私は、ご主人にはなれない?」
『……キュウ』

予想していた言葉。私だって、この子の『ご主人』になる気はない。だから。

「じゃあ、私と『友達』になってくれる?」

そっと右手を差し出す。『友達になってください』なんて言うことはないと思ってた。だって友達は自然に作るものだと思ってたから。
でも今なら分かる。
この仕草って、恥ずかしいけど……。

『キュウウ!』

なんだか、嬉しい。


ツタージャの小さな手と、私の人差し指が繋がった。
ガタガタという音と共に、窓が全開になった。
驚く私達をよそに、カーテンが海風に煽られて広がる。
一人と一匹の影が、夕方近くの太陽に照らされていた。

「――浜辺を散歩してから、帰ろうか」

私の言葉に、ツタージャは目を閉じて頷いた。


――――――――――――――――――――
『ソラミネ ミドリ』  

誕生日:12月4日 射手座
身長:154センチ(中二) 156センチ(高三)
体重:51キロ        53キロ
在住:イッシュ地方 ライモンシティ
主な使用ポケモン:ツタージャ(中二)   ジャローダ、フリージオ、あと何か水タイプ(高三)
性格:れいせい
特記事項:両目とも近視。祖父は官房長官。叔父は監査官。父は世界的に有名な科学者。母はフラワーアレンジメント。

きなりの キャラで かなり しょきから いる。
めがねをしたり はずしていたり デザインが おちつかない。
あいぼうは ねいろさんの もちキャラである コクトウさん。
まさに あいぼう。
はくしきだが だんじょかんけいには うとい。
レディ・ファントムが からむと あつくなる。

めさきのじけんに とらわれて たいせつなものを みおとす タイプ。
あるいみ しあわせなこである。

――――――――――――――――――――
『紀成』から『神風紀成』になったのと、高校入学の年から卒業の年まで来たので、リメイクしてみた。
ついでに途中から来た人は知らないであろううちのキャラのプロフィールを載せてみた。
もう少し続ける予定。


  [No.2640] ファントムガール 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/09/22(Sat) 21:59:28   110clap [■この記事に拍手する] [Tweet]


ふと、何かを思い出した時は必ずそれに関する何かが近付いて来ているのだという。
まだ幼さを残した顔と、他人に接する口調が脳裏に蘇る。
彼女は―― まだレディではなく、ガールだった。


――――――――――――――――――――
魂。正確には霊魂。辞書で引けば『肉体とは別に精神的実体として存在すると考えられているもの』とある。その存在は宗教的価値観からも違っており、古代ギリシャ、キリスト教、果ては日本の仏道に至るまで様々な見解が成されている。
そのどれに当てはまるのかは分からないが、自分の知る限り、魂とは生きとし生ける者全てが持つ命の源である。何故なら、肉体が死んでも魂はそのままさ迷っていることがあるからだ。
本体が成仏しなければ、その人間は輪廻転生のルートに乗ったことにはならない。――と、この仕事に就く時に言われた。

『後乗せサクサクのような気がするのは気のせいだろうか……』

睡眠不足と疲労で、死神である自分が死者になりそうな上司の顔を思い浮かべ、モルテはため息をついた。
黄昏が終わった時間。生きる者は皆家の中に入り、愛する者達と共に過ごす。外は灯りで照らされているものの、光の届かない場所には異形の物が住まう。それらは時に、無垢な彼らに襲い掛かり、恐怖と混乱に陥れる。
彼らは、その異形の物を悪霊と呼んだ。そして、モルテも彼らから見ればその一つに過ぎない。
だが少しだけ違うこと。それは、彼が俗世間で言う所の『死神』であることだった。簡単に説明すると、モルテはサラリーマンでいう『営業部』所属で、その上司はオフィスで書類に追われている……そんな感じだ。
ただし仕事内容はそこらのサラリーマンよりずっと厳しい。身の危険に晒されることもあるため、どちらかといえばヤの付く自由業に近いかもしれない。
例えば――

『グルルルルル……』
『まずいな。死んでから相当時間が経っている。自分が何であったかすら分からない状態だ』

薄暗い路地。時折ホームレスが新聞紙を敷いて眠っている。そこでモルテは一つの悪霊と遭遇していた。元々は魂だったのが、ある出来事により自分が何故死んだのか分からず、そのままこの世界をさ迷い、ついには悪霊と化してしまった。
一番ありがちなパターンだが、一番危険なパターンでもある。

『落ち着け。お前はここにいてはならない。私が連れて行ってやるから、送りの泉に……』
『ダマレ、ダマレ!オレハコンナトコロデクタバルニンゲンジャナイ……』

最後の方は獣のような唸り声に掻き消され、意味が分からなかった。どうやら何か恨みを持って死んだらしい。しかしそんな人間がこんな所でさ迷っているものおかしな話だが。
いつもなら説得して同意の上で連れて行く所だが、この状態になるまで放っておかれてはまともな会話はまず不可能だ。
すまない、と心の中で詫びて持っていた鎌を振り上げる。

『ギャアアアアッ!』

シュウウ……と音を立てて禍々しいオーラが消える。白に変わった魂をそっと小瓶の中に仕舞い込む。これで一先ずは安心だ。緊張感が少し解けて、フッと肩の力が抜ける。

『……』

この仕事を始めてから、どれくらいの月日が経ったのだろう。もう数え切れないくらいの時間が流れ、数え切れないくらいの魂を送ってきた。何匹ものポケモンと知り合い、何匹ものポケモンを看取ってきた。
いつもそうだ。自分は死ぬことができない。相手が先に死んでいく――

(疲れた……)

路地の壁に背を預ける。一つの大きな目が、空を映す。星は見えない。
ふと気配を感じて路地の出口を見れば、不思議な光景が映った。
まず最初に目に映ったのは五匹のカゲボウズ。それぞれ違った表情をしているが、楽しそうだ。ケタケタと笑いながら誰かの後を付いて行く。
続いて現れたのはムウマ。友達なのか、ジュペッタと楽しそうにおしゃべりをしている。一方のジュペッタも幸せそうな顔をしていた。
その後にも数え切れないくらいのゴーストポケモンがぞろぞろと列を成していく。まるでパレードのようだ。

『これは……』

体に力が戻る。鎌を握り締めて体を起こす。胸が高鳴る。指先に血が巡り出す。
その行列は住宅街や店が立ち並ぶ大通りには行かずに、ただひたすら広場の方へと進んでいく。昼間はベンチに腰掛けて談笑するカップルや夫婦で穏やかな雰囲気が保たれているが、今は夜。灯りに囲まれた丸い円状の広場は、どことなく不気味な印象を与えてくる。
一緒にいるゴーストポケモンに邪魔されて、一番前の人物が見えない。ただ、柔らかい風に乗ってほんのり甘い香りが漂ってくることに気付いた。
不意に、彼らが止まった。ぶつかりそうになって慌ててこちらも立ち止まる。
何十もの目がこちらを見ていた。一瞬怯んだが、敵意を持っている様子はない。風に押し出され、一つの人影が前に出た。
目を疑う。

「……何の用?」

セミロングの髪が夜風に揺れる。香りはあそこから漂っているらしい。少し物鬱げな表情は、とても少女と呼ばれる歳の子供とは思えない。とある花魁を思い出す。二百年近く前の話だが、ジョウト地方で知り合った花街一番の花魁。その美しさだけでなく、全身から漂う色香は多くの男性を魅了し、骨抜きにした。
そして彼女は『視える者』であった。だから知り合うことができた。
美しい着物と簪に身を包み、夜でもそこだけ光があるように見えた。モルテも、魅入られた一匹であった。

『獣に見初められたのは初めてだよ』

気だるそうに足を伸ばして煙管を吹かす姿は、情事の後を思わせた。当時から死神として仕事をしていたモルテは、時折仕事の合間に彼女に会いに行くようになった。お金の代わりに、自分の仕事の話を持って。
その彼女も、とある男に付き纏われて精神を病み、最期は自ら命を絶った。
――あの時のことを、今でも忘れない。忘れるはずがない。
彼女の魂を回収したのは、自分なのだから。
手首を切って変わり果てた姿になった肉体の側に浮いていた、ちっぽけな魂。男の存在に震えながらも、まだ美しさは保っていた。
自分が行くと、運命を分かっているかのように擦り寄ってきた。そのまま汚される前に回収し、転生させた。
まさか……。
少しの期待と、幾許かの不安が入り混じった声で、その名を呼ぶ。

『コウ……?』
「?」

首を傾げて、そのまま立ち止まっている。秋の風が、一人と一匹の間を吹きぬけていく。口を開いたのは、彼女の側にいたカゲボウズだった。

『おいカオリ、キャンディーくれ』
「ほら」

空気を読むどころか、読もうとも思わない相手にモルテは少しカチンと来た。だが彼女は別に気にしていないらしい。その振る舞いに、自分がその瞳に映されていないことを痛感する。
何故こんなにも気になるのか。彼女に雰囲気が似ているから?それもあるけど、もっと別の明確な理由がある気がする。
数個のキャンディーを口の中に押し込んだところで、再びその瞳が自分を映す。

「見えてるんだろ」
『ああ……』
「驚かないんだね。まあ当たり前っちゃあそうだけど」

ゴーストタイプがゴーストポケモンにビビるとか興ざめだよね、と独り言のように呟く。月明かりに照らされて、白い肌が輝いていた。まるで蛍石のようで思わず見とれる。
コウではなかった。だがその名前の中に、しっかりとその文字は刻まれている。

『カオリ』
「そうだよ。私はカオリ。香るに織物の織で、カオリ」


カオリも『視える者』だという。ただし少し違うのは、視えるだけでなく、その視える相手に懐かれるということだった。ボールには入れないし、ましてゲットするつもりもない。だが彼らは自ら彼女の後に付いて行く。月明かりに照らされた彼らの影は、奇妙な形をしていた。実体があるのは一つだけ。だがその影にくっついて、何か別の物達の影が揺らいでいる。
よほど月明かりや街灯がきつくないと気付かないが、人間よりもそういうことに敏感なポケモン―― 特に獣系のポケモンにはよく吠えられるという。
直感的に怯えているのだろう。そう。自分を見てはぐれ魂が喚くように。

「中には襲ってくる奴もいるけど、そういうのは皆彼らが何とかしてくれるんだ」

彼らにとってはよほど居心地のいい場所らしく、しきりに喋っている。時折彼女に話しかける者もいる。驚いたことに、彼女も彼らの言葉が理解できるらしい。
テレパシーのような物だと、彼女は説明した。頭の中に声が直接響いてくるのだと言う。

「学校では一人だよ。あ、これでも私高一。実年齢よりも上に見られることが多いけど」
「カゲボウズが五匹もいるのには理由があってさ。彼らは負の感情を好んで食べるから、私の生活は絶好の餌場みたいだ」
「別に最初から視えていたわけでも、ましてや話ができたわけでもない」

左手親指の付け根。目を凝らして見ないと分からないが、確かに一本の線が入っている。

「小学生の時に、彫刻刀でザクッとやっちゃったんだ。血がボタボタ落ちて、もう少しで手術するところだったよ。
今思えば、あれがきっかけだったんだ」

その『血』を流したことで、彼らが見えるようになった。嘘のような本当の話。家の頭領である祖父にそっと話を聞いたところ、他言無用を前提にこんな話をしてくれた。
それは、火宮という家の血が出来た時の話。

昔々、とある村に忌み子が生まれた。その子は同じ村で大火傷を負って蔑まされていた女と一緒に、村から出された。
その女は子供を捨てることなく、むしろ同情を感じて大切に育てた。村から少し離れた川近くの水車小屋で。
子供はすくすくと育ち、美しい少女へと成長した。
ある時、少女は川の近くに大怪我を負った若い男が倒れているのを見つける。体には矢が刺さり、あちこちから出血していた。
親である女を呼び、水車小屋に連れて行き、山から薬草を持って来て看病した。やがて男は意識を取り戻し、多少の会話が出来るくらいまで回復した。
男はここから遠く離れた街の方から来たらしい。この怪我は戦争で出来たものだと説明した。この家と近くの川、そして山にしか行ったことのない二人は、男の話を面白いと思った。
もっと話をしたいということで、男はしばらくそこで生活することとなった。
ところがある日、川の方へ水浴びをしに行った少女が夜になっても帰ってこない。女と共に探しに行った男は、川原で裸で震えている少女を見つける。
見れば彼女の肌には殴られた跡があった。それだけで全てを察した男は、震える彼女を小屋に送り届けた後、近くの村へと向かった。
そして―― そこにいた男を皆殺しにした。
その男は人間ではなかった。生まれながらにして霊獣の血を引く人間だった。普通の人間には無い能力を一国の王に利用され、兵器にされていたのだ。
男は水車小屋から出て行こうとするが、少女がそれを止めた。その夜二人は交わり、月が満ちて一人の子供が生まれた。
その子供が作ったのが、火宮家の原型となった一族。

「私はその末裔なんだって。だから何って思うけど」

そう言って冷たく笑う彼女の横顔は、香によく似ていた。
もしかしたら、香もその一族の子孫だったのかもしれない。
ということは、この少女も香の子孫に当たるのか。

「寒いなあ」
『家に帰らないのか』
「帰ってもね」

酷い面構えの叔母の顔が浮かぶ。今夜は何をしてくることやら。首を絞めるか、毒を盛るか、ならず者をけしかけてくるか……。
それでも屈しない、あざ笑う顔を見て、ますます彼女は怒り狂うだろう。
それでいいのだ。

『このまま朝までいるつもりか』
「うん」
『風邪を引くぞ』
「シャンデラがいるから」

独特の炎が差し出される。それは不思議なくらい温かく、寒さを遮断していた。

「……ねえ」
『何だ』
「ハグしていい?」

驚いたのはモルテだけではなかった。カゲボウズが喚いている。不満げな顔でカオリはモルテを見た。

「うん、大体予想はしてた」
『いや…… 構わないが』

両腕が体に回る。心臓の音が聞こえてくる。生きている人間の証拠だ。しばらく振りに感じるその温もりに、モルテはしばし硬直していた。


――――――――――――――――――
『カミヤ カオリ』

誕生日:12月24日 山羊座
身長:157センチ(高一) 164センチ(レディ・ファントム時)
体重:54キロ        60キロ
在住:不明
主な使用ポケモン:特になし(手持ちとしてはいない)
性格:いじっぱり
特記事項:上の名前で呼ばれると激高する。下の名前もあまり良い反応を返さない。ミドリは後輩。

いつのまにか レギュラーに なっていた。
18さいで レディ・ファントムと なる。 つうしょう レディ。
ちなみに なづけおやは ねいろさん。 ファントム・レディと よぶあんも あったが ぜんしゃが きれいなので そうなった。
しらなくて いいことを しっていたり する。

ひにくやで あつかいづらい。 でも かのじょの はなしが いちばん かきやすい。
ついでに マダムと くませると なんでも アリになる。 カクライさん とは けんえんの なか。

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リメイクその2。カオリのデビュー作。多分。


  [No.2643] あるカフェの片隅で 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/09/23(Sun) 14:34:36   90clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

ゼクロム。レシラム。キュレム。ついでにイーブイ。
前者はトレーナーが死ぬまでに会いたいポケモンとして、アンケートで毎回上位にランクインする。
後者は『もふりたいポケモン』として、どの世代にも人気である。中には宗教的な意味合いでの信者もいる。
ちなみに、バトルで使えるかどうかというのは、また別の話らしい。

このカフェでは、彼らはそういうポジションを貰っていない。
商品の名前として、訪れる客をもてなすためだけに存在している。

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キュレムはお冷を指す。運ぶことはできるが、自分はあまり好きではない。何故なら、自分はマグマラシというポケモンで、なおかつ炎タイプだからだ。
天気は晴れ。風はやや強め。空を見上げれば誰の手持ちなのか、それとも野生なのか。モンメンが一列に並んでふわふわ漂っていた。下を歩く人間がくしゃみをする。中にはハンカチで目元を拭っている奴もいる。
……花粉症は辛い。
春の次は秋に来る花粉。春は杉がその代表だが、秋はブタクサなどが挙げられる。だが草ポケモンが散らす胞子や綿もそれに入るらしい。特に車が多いライモンシティ、ヒウンシティは花粉症患者が多く、病院を訪れる患者が後を絶たないという。
元々、花粉だけではアレルギー反応は起きない。そこに排気ガスが加わり、花粉症を引き起こす。一度天然の杉が沢山生えている林に行った花粉症患者は、友人に連れられて嫌々車から降りたところ、全くくしゃみも涙も出ずに驚いた、という話を聞いたことがある。
さて、自分は未だに縁が無いが、花粉症にかかるのは人間だけではない。ポケモンだって、花粉症にかかることがある。
ふわあ、と欠伸をしてマグマラシは店内に戻った。ライモンシティはギアステーション前にある、個人経営のカフェ『GEK1994』。このマグマラシの仕事は、主人であるユエに頼まれて看板になること。
いわゆる『看板息子』である。
子供連れはあまり来ないが、例えばOLなどがこちらを見つければ、後はこっちの物。見つけた!というような反応で一気に駆け寄り、相手の顔を見上げる。ここですぐさま足に擦り寄ってはいけない。相手の反応を見て、笑顔を見せれば最初に二本足で立つ。そこで頭を撫でてくれれば、後は足に擦り寄る。
何事も出しゃばらないことが肝心なのだ。それに、中にはポケモンが苦手な人間もいる。まあそういう人間は目が合った瞬間に分かるが。
こちらにあまり良い印象を抱かない相手は、目が合った瞬間の表情で判断できるのだ。
そんなわけで、今日もマグマラシはカフェにお客を呼び込むのに一役買っている。


それは、一日中降り続いた雨が、残暑をすっかり吹き飛ばしてくれた、ある日のこと。午後になってから一人の女性が風のように現れた。
雑誌のモデルにいそうな、背の高い女性だった。年齢は二十代というところ。マグマラシから見れば、シルエットだけで判断すればユエの方がボディラインは良いと言える。ちなみにこれは♂ポケモンとしての価値観も微妙に入っている。
ツンとすまし顔だが、ここに入るのが楽しみで仕方なかった、というのが雰囲気で分かる。どんなにごまかしても、分かる人には分かるんだろう。現にマスターであるユエは心からの笑顔で『いらっしゃいませ』と言った。ちなみに彼女は表情を作るのが上手だ。ただぎこちなさは、無い。
メニューを開いた後、お客はモンスターボールからエンペルトを出した。毛並みがいい。頭にあるのは王者の風格を放つ金色の角。王冠に見えるのは気のせいではないだろう。
睫が長いことから、♀だと思われる。
ソファ席に座って、少し退屈そうに店内を見渡していた。

「よう」

自分の数倍上にある顔を見ながら話すのは、すごく疲れる。特にオレは普通体勢が四つん這いだから、仁王立ちに鳴れていない。進化すればこの悩みも解消されると思うけど、主人はバトルをあまりさせてくれない(というか機会が無い)からレベルアップすることもない。
エンペルトがソファから降りた。主人である女性は何も言ってこない。

「何用かしら」
「お前は注文しないのか?」
「お小遣いもらってないのよ」
「んなもん、オレだって貰ってねえよ」

お小遣いを貰うポケモンなんて聞いたことがない。俺が食べる物は、ここのアルバイトや店員に休憩時間にもらう賄い食の残りだ。
はっきり言って食べ飽きてるけど、ユエは期間限定商品はなかなか食べさせてくれない。
理由は『贅沢』だかららしい。

「ゼクロム飲むか?」
「ゼクロム?ポケモン飲むの?」
「違う。ここではブレンドコーヒーのことを言うんだ。ちなみにミルクコーヒーはレシラムゼクロム、な」

一先ずキュレムが運ばれてきた。喉が渇いていたのだろう。すぐに飲み干して――その表情が『!?』に変わるのをオレは見逃さなかった。
ガラスコップの底に印刷された文字。
『ひゅららら』

「……どういうことなの」
「いや、こういうデザインだから」

付き合いたて、熱々カップルで来るのはお勧めしない。以前オレは、これを見てしまって水を噴出した男が彼女に振られたシーンをその場で目撃したことがある。
熱しやすく、冷めやすい。この場合はキュレムがそれを冷やしてくれたということだろう。いささか冷やしすぎな気もしたが。
ユエはその時は無表情でマスターとしての対応をしていたが、その日店を閉めた後、耐え切れなくなってカウンターをバンバンと叩いていた。『くそwww腹筋崩壊しかけたww』『リア充ざまあww』と言っていたことは、従業員には内緒だ。

「名前長くない?」
「オレも最初はそう思ったんだけど、ユエがどうしてもって言うから」
「変な人ね」

ゼクロムが運ばれてきた。カップにはこのカフェのマークがプリントされている。『1994』を真ん中に、トライアングル式に『GEK』の文字が並んでいる。色は緑かチョコレート色。この時は緑色だった。
一口啜って、ほう……とため息をつく。
そんな主人を羨ましそうに見つめるエンペルトに、オレは持ちかける。

「お前も飲むか?」
「だからお金持ってないのよ」
「奢る」
「……」

考え込むエンペルト。ゼクロムを飲みたいという気持ちと、プライドが天秤にかけられている。一分、二分、三分経過した。カップ麺が作れる時間だ。もっとも、自分は一分立たずに開けてそのまま食べる派だが――
話が逸れた。約五分経ったところで(生麺タイプが作れる時間だ)、エンペルトが目を開けた。

「飲む」

カウンター裏へ行って、コーヒー豆をブレンドする。キリマンジャロにモカ、ブルーマウンテン。うちのゼクロムはザラザラしてなくて少し甘みが強い。モカを多く使っているからだ。
流石に企業秘密ということでそこは見せない。
主人がいつもしているやり方で入れる。そこで忘れてはいけないのは、必ず手袋とマスクとゴーグルをすること。ユエはしていないけど、オレはしないといけない。毛が入ったら大変だ。
せっかくなのでとっておきのカップに注ぐ。黒い陶器。取っ手が独特の形をしている。底の文字を見て、思わず笑う。
小物に隠されたネタを、ゼクロムと一緒に堪能してもらおうか。

「できたぞ」

お盆に乗せたカップを見て、エンペルトは目を丸くした。実はこれ、ゼクロムをモチーフにしたカップ。レシラムもあるけど、そちらは主にミルクを使ったドリンクに使うことが多い。
ジグザグの取っ手。ただし持ちやすいようにきちんと改良してある。

「何これ」
「ゼクロムカップ。レシラムカップもあるぞ。ちなみにお冷を入れるのはキュレムタンブラー」
「すごいアイデア心ね」
「アイツに直接言ってやってくれ。このカフェのメインはゼクロムとその小物なんだ」

ふと店内を見渡せば、そこかしこにポケモンをモチーフにしたグッズがある。
たとえばタンブラーを乗せているコースターはディアルガの胸部をデフォルメした物だし、カウンター隅の籠に置いてあるキャンディーは、色合いがクリムガンとアーケオスの二色だ。

「美味しい……」
「火傷には気をつけろよ」
「分かってるわよ……  ?」

カップの底が見えるまで飲んだところで、何かが薄っすら書いてあるのに気付く。もしやタンブラーと同じネタかと思い、一度口を離して深呼吸する。
そして一気に飲み干し、底を見る。

『ばりばりだー』と書かれていた。

「……ナイス」

「このカフェ、元々はユエのじゃなかったんだ。『diamate』って名前で、主人はそこで働いてた。看板娘みたいな感じで。お客の出入りはあんまりよくなかったけど、当時のマスターが元・警部だったことで部下がよく休憩しに来てて、それで成り立ってた。
だけど三年位前に、そこのマスターがユエに店を預けるって言い出した。理由は分からないけど、とにかく店を受け渡した後フラリと何処かへ行っちまった。その後の消息は未だ掴めてない」
「何故かしら」
「ユエは多分知ってる。だからユエはマスターが戻って来る時まで、ここを守ろうと努力してるんだ。最初はなかなか大変だったけど、今ではリピーターも増えた。特に女子高生が多くてさ。あの年代のクチコミ効果は馬鹿に出来ないぜ」

最初、二人だったのが次の日には三人か四人に増えている。ついでに『課題セット』(そのまんま。課題をして良い代わりに特定の飲み物と軽食を付けたセット)を学生限定で始めたところ、女子高生の使用率が三倍になった。
若いがそこまで騒がしいタイプではないユエを慕い、大人しいタイプも集まってくる。中には相談事をしてくる人もいる。そんな彼女らの話を、ユエはゼクロムを淹れながら聞く。その間、従業員達は忙しくなる。
ユエが話を聞くことに集中しているからだ。
こんなのアリか、と思う人もいるかもしれないが、未だに苦情が来たことは一度もない。

「皆、ユエに話を聞いてもらいたいんだ」
「……」
「話を聞いてもらうだけで大分スッキリした顔で帰っていくからな」

女と男の違い。それを知ることが、付き合いを円滑に進める第一歩だという。
女はただ話を聞いてもらいたい生き物。男は何か意見を言いたがる生き物。
女が相談事、と言って話し始めた時は、男は黙って相槌を打っていればいい。そして、『どう思う?』と聞かれたら決して自分の意見を言ってはいけない。『君が正しいと思うよ』『大変だったね』と言わなくてはならない。
たとえどんなにその女に非があったとしても――というかそんな女とは別れた方が身のためだが――相手を否定してはいけない。


少し店を周りに任せ、一日一本のお楽しみに火を付ける。いつから吸い出したのかは分からないが、健康の害にならない程度に楽しむようにしている。
左手で持ち、煙を吐き出す。先から白い線が揺らいで空に上がっていく。
今のところ、順調に来ている。マスターが戻って来るのが何時になるかは分からないが、それでも何かあったら連絡をくれるはずだ。
そう信じたい。

「……」

流石にもう、半袖で外に出れる季節ではなくなってきたなと、ユエは二の腕を押えて思った。


―――――――――――――――――
『ミナゴシ ユエ』

誕生日:9月16日 乙女座
身長:165センチ
体重:64キロ
在住:イッシュ地方 ライモンシティ
主な使用ポケモン:バクフーン
性格:ずぶとい
特記事項:体重が重いのは胸のため。子供が大の苦手。高校時代に剣道部を全国優勝に導いた経験あり。

じつは このはなしでは なまえは まだ でていなかった。
あとに なって やっと なまえが あかされた。
べんきょうは あまり できないが ざつがくは たくさん しっている。
とくぎは コーヒーを いれることと りょうり。

ひょうじょうが よく かおに でるため つきあいやすい。
タバコを すうという せっていは さいきんに なって つくられた もの。

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リメイクその3。面倒なのでユエも登場させた。


  [No.2647] 雨の中で 投稿者:神風紀成   投稿日:2012/09/24(Mon) 20:55:10   77clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

雨は、あまり好きではない。あの日のことを思い出すから。
灰色の石は降り注ぐ雫で黒へと変わり、あの人の面影を消していく。
目を閉じれば、今でもそこにいるような気がする。
何も言わない骨となった貴方は、石の底で永遠の安らぎを手に入れたのだろう。痛みも苦しみも感じない、ただの骨。意味ある物は貴方に降り注ぐ雨の雫のみ。
それは、貴方を清めてくれるのだろうか。

『ねえ、何で君は泣かないの』

答えは簡単。失う物が無いからだ。

――――――――――――――――――――
傘の先から溜まった雫が落ちた音で、カズオミは目を開けた。足元を支えるアスファルトは既に黒く濡れ、その天気独特の匂いを醸し出している。太陽の光を浴びて熱していた鉄が、冷やされて冷めていく匂い。
そういえば昔嗅いだ物は別の臭いも混じっていたことを思い出す。土の匂いは幼い頃嗅いだ。まだ故郷が開発されていなかった時代。今となっては、はるか昔のことのように思える。実際そうなのだが。
ブルーシートを被せられていても漂う、その臭い。不謹慎かもしれないが、特に雨の日はより濃くなる。その臭いが叫んでいるように思えたのは、気のせいだったのだろうか。
雨に濡れた髪を揺らして、頭を下げる。目を瞑り、両手を合わせる。それは一種の条件反射に近かった。だが自分の心には、懺悔の気持ちがいつもあった。
それが誰に対してなのかは―― 分からない。
周りに人はいない。あのざわめきは、ここにはない。誰かの泣き声と、苦しげに顔を歪める後輩。彼はまだ刑事だった。両親共々美術系の仕事だったのに、何故か彼だけはこの職についた。

『いや、何ででしょうね。俺にも分からないんすよ』

一緒に飲んでいる時、決まってその話題になった。最後に見た時よりかなり痩せている体を反らして、彼はグラスを煽った。

『死んだ親父が最期まで良く言ってたんす。何でお前はわざわざ死に行くような仕事についたのかって。酷くないっすか?全国の現場を走り回ってる人達に失礼っすよ』
『その中には、お前も含まれているのか』
『当たり前じゃないっすか!俺はこの仕事に誇りを持ってますから。そりゃ、理想と現実のギャップに悩むことはありますけど……』

大分酔っているらしい。彼はカウンターに突っ伏した。

『それでも……。俺はこの仕事について良かったと思ってます。生と死を一番近くで見ることができるって、この仕事くらいじゃないっすか。消防士や病院に勤めている人もそうだけど、仏さんの無念の声を聞いて、自分達に出来る事をする。
この時代に、大切なポジションでいたいんすよ。刑事として』

今でも彼は、そこに所属している。ただし、もう刑事ではない。警部だ。当時の私と同じように刑事である一人の部下を引っ張り、指導しているらしい。
理想と現実のギャップに幻滅しても、なお自分のできることをしている彼を、私は羨ましいと思う。
私は――

「逃げた、のか……」

雨音は途切れることなく、傘を打ち付ける。あの日を思い出す。何故か人生の転機を迎える時は決まって雨が降る。雨男なのだろうか。それにしたって、嫌な運の持ち主だ。
例えば、彼女にカフェを預けたいということを告白した日。
彼の面会に行く日も、必ず雨が降っている。
警部という職業を辞めた日は、台風が近付いていて家に帰れないほどの大雨が降っていた。
そして、

「父さん」

父が、死んだ日。そして、彼の葬式の日も。

父は弁護士だった。母は私が幼い時に事故で亡くなり、以来男手一つで育てられた。
私が異常な雨男なのに対し、父は異常な晴れ男だった。母が死んだ日は、秋なのに二十五度を超えるほどの暑さだったらしい。
父は自分のその運を嫌っていた。よく酒に酔うと、私に話した。

『お前は、母さんの運を受け継いだのかもなあ』

母は雨女だったそうだ。幼い頃から特別な行事の度に雨が降り、クラスメイトから疎まれた。遠足、運動会、文化祭、修学旅行。
母もその運を嫌い、あまり外に出なくなった。すごいのは、母がその場からいなくなれば、そこがどんなに激しく雨が降っていても、十分も経たないうちに雲が晴れ、青空が見えてくる。
大学に進み、父と出会い、やっと晴れ間を見る日の方が多くなったという。

母が死んでからは、自分が雨を降らす役になった。
だが父もいなくなった今、この運はいらない物でしかない。

ポテポテという足音がして、カズオミは我に返った。道路の色がいくらか薄くなったように見える。傘に打ち付ける雫の音が、合唱から独唱へと変わっていた。
視界の隅に入る、緑色と朱色の影。背丈は腰くらい。自分の体が濡れるのも構わず、しきりに手を天に向かって伸ばしている。
それと同調するように、光が差し込んでくる。

「……!」

思わず傘を閉じる。ぽつん、と頭に雫が落ちたが、それ以外の打ち付けるような感触は無かった。空を見上げて、その理由を知る。
買ったばかりの青の絵の具を、思い切りぶちまけたような――
葉に付いた雫が太陽の光を浴びて、宝石のように輝いている。水溜りに空が映し出されていた。風が吹いて、波紋が出来る。雲が移動していくのが見えた。
隣を見て、その相手と、その原因を知る。

「ドレディア……」

緑のドレスを纏い、巨大な花飾りを頭に付けたような姿。普通に見れば場違いな女性だと眉を顰めるところだが、今はその理由は思い当たらない。何故なら、その姿が彼女の素の姿だからだ。
ドレディア。その外観から、世間でセレブと呼ばれる人間達のポケモンになっていることが多い。頭の花は大きいほど育て方が良いとされているが、上手く育てるのはプロでも難しい。
ドレディアが野生で出るという話は、カズオミの経験では聞いたことがなかった。おそらく誰かに飼われていた物が野生化したのだろう。その証拠に、今使った技は決して野生では使うことがない。

「『にほんばれ』、か」

少しの間、日差しを強くして炎タイプの技の威力を上げる。ソーラービームを放つまでの時間を短くする。バトルをする立場でなくとも、常識として学校で必ず習う知識だ。
ドレディアがこちらを見た。どうやら、この雨で困っているように見えていたらしい。少しもじもじとした仕草で下を向く。
傘を左手に持ち替え、そっと右手を差し出す。目がこちらを映す。

「ありがとう」

少し経ってから、ドレディアの手の部分である葉がそっと差し出された。雨に打たれたのだろう。濡れている。ポケットからハンカチを出し、渡す。

「良かったら使ってくれ」

ギンガムチェックの刺繍が施されたそのハンカチは、男が持つにはあまり相応しくない色をしていた。白地に赤と青と緑の三色。普通なら自ら選んで買うことはない。
それを送ってくれた『彼女』の顔を思い出し、カズオミは目を閉じた。
あの日、告げた瞬間彼女がどんな顔をしていたか思い出せない。覚えておくべきことのはずなのに、思い出そうとすると靄がかかったように、そこだけボウッとかすんでしまうのだ。
忘れたいことにインプットされ、そのまま知らず知らずのうちに消去されてしまったのかもしれない。随分都合の良い海馬を持ってしまったものだと、自嘲の笑みを零す。
その割りに、あの雨の記憶は忘れることがない。あれから四十年近くが経過しているというのに――

(忘れるな、ということか)

また意味合いは違えど、それと同様に強く焼きついてしまっているのかもしれない。もしくは、忘れてはならないということか。
疑う、ということをその仕事についてから強いられてきた。相手の隠していることを見抜く。自殺か他殺か見抜く。事件関係者を心の底から信じてはならない。そうしないと、裏切られた時のダメージが深くなってしまうから――
かつて尊敬していた父とは全く正反対のポリシーが、いつの間にか心の中に刷り込まれていた。

『相手を信じる。何があっても。判決が下るまで、相手を信じぬく』

差し出されたハンカチを仕舞い、カズオミは立ち上がった。傘はもう開くことは無い。そしてそこで何故こんな場所にいるのかを思い出す。散歩の途中だったのだ。雲行きが怪しくなってきたので傘を持参し、ここらまで来た所で急激に降り出した。それは風も伴う激しいもので、このまま進んでは傘が御猪口になってしまうと判断し、しばらくの間傘を差したまま立ち尽くす羽目になったのだ。
雨は上がり、空気はカラリとはしていないものの、先ほどの湿り気は引いている。自宅であるアパルトマンがある街目指して、カズオミはゆっくりと歩き出した。

それから三百メートルほど歩いたところで、後ろで何か鈍い音がし、振り向けば先ほどのドレディアが転んでいたのは、また別の話である。
その縁でそのまま『彼女』を手持ちポケモンの一匹にすることになるとは―― 今の彼が予想することはなかった。

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『クロダ カズオミ』

誕生日:不明
身長:179センチ
体重:70キロ
在住:不明
主な使用ポケモン:ドレディア
性格:しんちょう
特記事項:『マスター』と呼ばれていることが多い。本名を出すのは多分これが初。個人情報が不明な欄が多い。

カフェ 『diamante』の マスター。 いまは ユエに ゆずり かいがいに いる。
もと けいぶで ある じけんで ユエと しりあう。
ちちおやは べんごし だが 12さいの ときに しぼう している。
ユエの がくせい じだいの ほごしゃ ポジション だった。

ストイックな ふんいきと ときおり みせる やさしさに ほれる じょせいが おおい。
いまだに みこん だが べつに そのけが あるわけでは ない。

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リメイクその4。数少ない男性キャラ、マスター。
双子の存在を知っている人はどのくらいいるのかしら……。