「トウコやだ。ベルがいい」
チェレンの言葉がまっすぐ突き刺さる。トウコが初めて恋を知った相手の言葉はこうだった。
「トウコ怖いもん。ベルのが優しいから」
小さい時からずっと三人は一緒だった。優しい女の子のベル、リーダー格のチェレン。トウコがずっと一緒にいるチェレンに惹かれるのは当たり前のことだった。なのにチェレンはそれを何を言ってんだというようにあしらった。理由は、トウコの性格。
「なんでだよ!ベルも優しいけど私だって優しいじゃん!」
拒絶され、思わずチェレンを突き飛ばす。尻餅をついたチェレンが、だからだよと小さく言った。
「あー、ベル?うん……そう……よかったな!」
何も知らないベルは、トウコによくライブキャスターで連絡してくる。
ベルはトウコから見ても優しくて気が効く子だ。小さい時からずっと一緒。トウコも女の子というのはこういう子のことを言うと解っている。けれど自分はそんな繊細な性格をしていない。
少し年上の男の子とも喧嘩して勝ってしまうし、野生のポケモンだって下手したら追い返せる。それなのに、ベルはまわりからかわいがられ、守られて優しく接していた。もちろん、トウコにだって優しい。それゆえトウコの気持ちには気付けない。
嫉妬まじりの感情を送ってることなんて。
もし気付いていたなら、連絡して来ない。チェレンと付き合うことにしたとか、チェレンとデートしに行くとか。その話を聞く度にトウコはチェレンに言われた拒絶の言葉が巡った。
「んじゃ。気をつけろよ。プラズマ団とかもどこにいるかわかんねーし。おう、大丈夫だ、こっちは」
ライブキャスターを切る。大丈夫なんかじゃない。心が通じなかった相手を、ベルは軽々と触れ合って楽しそうにしている。それを想像しただけでどれだけ平穏な心が保てなくなるか。いつものトウコでいられなくなるか。チェレンもベルも、そんなこと気付かない。むしろトウコなんていなかったかのように二人は振る舞う。
最悪だ。どうしてこんな嫌われてしまっているのだろう。トウコの心は答えが全く出なかった。
目の前にいるのはNだ。カノコタウンを出てからというもの、何かと会う。ポケモンにしか興味ないことを言っておきながら、トウコの人間関係をずばり言い当てた。
「キミとボクは似ている。トモダチはあの子たちではない」
ポケモンと共に孤高の道を歩むものだと、トウコには聞こえた。Nには絶対に弱いところを見せられないと、威嚇してきたけれど、この時ばかりはNが去ってないというのに泣き崩れてしまった。いきなりの変化にNも驚いてしばらくトウコを見つめていた。
Nの前で泣いたのは一度だけであるが、いけ好かないという点は全く変わらない。けれど、以前とは違う心がトウコにあった。チェレンに感じた以上の親しみ。チェレンと違ってベルよりもじっと見ている。そして優しくしてくれる。こんなトウコでも受け入れてくれる。
いつか、Nにこの気持ちを告げなければならない。受け入れられないことがない。Nはきっと、好きでいてくれる。
ライモンシティで観覧車に誘われ、嬉しい半分、何をしていいか解らない半分。Nと二人きりになった瞬間、トウコはNから視線をそらした。けれどそんなトウコ衝撃を告げて行くのである。Nはまっすぐトウコの目を見て。
「ボクがプラズマ団の王様だ」
まただ。
なぜ受け入れてもらえない。なぜ人を好きになるという気持ちを一切誰も受け入れてくれない。
そんなに優しくて守られる女の子がいいと言うのだろうか。ベルのような子になれば、誰からも好かれてこの気持ちも受け入れてくれる人が現れるのだろうか。
思いきって鏡の前でトウコは話しかけた。鏡の中の自分に、優しくなれ、と。
「おはようベル。今日もいい天気だね。おはようチェレン。今日もきっと……」
自分じゃない。鏡の中の自分は偽物だった。人に好かれるために取り繕った中身のない自分。
今のままでは誰にも好かれなくて、愛されなかったとしても、自分を偽ることの方がよほど辛かった。
休憩の為に地下鉄の駅のベンチで座っていた。何本かのシングルトレインを見送る。次に乗る列車が指定されているからだ。ミックスオレを飲みながら、ひたすらその電車を待った。
「シングルトレイン、ご乗車の方は」
トウコは案内された通りの列車に乗る。
そこから先はいつもと変わらない光景。ワルビアルがなぎ倒し、残った敵をメブキジカが倒して行く。それでも倒せない時はダイケンキの出番。頼りになる相棒とひたすら前へ前へ進むトウコ。
ポケモントレーナーなんてみんなこんなもの。ジムリーダーも、四天王も、Nもこんなもの。誰もトウコを止められない。トウコを受け入れない。
「貴方の実力を讃えて、サブウェイマスターがお待ちです」
何のことか解らなかった。考え事をしていて、その言葉の意味が解らなかった。どうやら次がシングルトレインの先頭車両のようだ。その先にいるのは、バトルサブウェイを取り仕切るもの。
けれどそんなのどうせ同じだ。皆変わらない光景しかない。トレーナーなんて皆同じ。ポケモンからの信頼は自信がある。それに勝てる人なんていない。
「ようこそ、バトルサブウェイへ」
黒いコートを来た車掌。これが噂のサブウェイマスターなのか。確かにオーラはそこらのトレーナーと違うようではあるが。トウコは何も言わずにモンスターボールを差し出した。
「つべこべ言わずにやろうぜ。どうせお前もその辺のトレーナーなんだろ?」
「その辺の、とは随分おおざっぱに分類いたしますね。ではその考えが間違いであることを、証明いたしましょうか。貴方の進路がどちらに進むのか、いざ!」
ノボリの放ったボールからダストダスが現れる。いつもの調子でワルビアルに地震を命令する。あんなポケモン一発で落ちる。そしたら次は……。
「ダストダス、ダストシュートです!」
ダストダスの鎧が砕けた。それからの大量の毒がワルビアルに降り掛かる。相性の問題で、そんなダメージはなかったが、トウコは言葉を失った。ダストダスごときが、ワルビアルの攻撃を耐えられるなど思ってもみなかった。
「あ、ワ、ル、ビアル、じしん!」
疲れて動けないダストダスは、あっけなくワルビアルの攻撃で倒れる。次は何が来るのか。トウコは知らず知らずのうちに手を握りしめる。
「おや、あれだけ挑発しておいて、ようやく実力を理解していただけましたか」
ノボリは涼しい顔をして次のギギギアルを出して来る。しかも早い。ギギギアルはワルビアルにラスターカノンを、しかも最も柔らかい腹の付近を狙ってやって来た。ぐう、とワルビアルは倒れてしまう。
強い。ノボリはとても強い。サブウェイマスターと名乗るだけあって強い。このままでは負ける。ポケモンが強いことだけが取り柄なのに、負けたら何も残らなくなってしまう。ただの性格の悪い人間になってしまう。
負けたくない。まだメブキジカもダイケンキも戦える。元気だ。
「行けっ、メブキジカ!」
メブキジカがボールから出るのと同時に、トレイン全体が大きく揺れた。カーブだ。技を命令しなければギギギアルは特殊攻撃でメブキジカを攻撃する。けれどこのカーブで飛び蹴りを命令するのは賭けにも等しい。他に何か手はないか。
メブキジカが角を振る。春風を受けて桜のいい香りが咲いた角。その匂いがトウコに届く。落ち着け、と言われているようだった。
トウコは決めた。
「宿り木のタネ」
メブキジカの方が速かった。宿り木のタネがギギギアルの歯車の隙間に入り込む。体力を少しずつ奪う。ギギギアル自体は、メブキジカに効果は抜群である技を持っていないはずだ。一撃で倒されることだけは防げる。
ラスターカノンがメブキジカの胴体を狙う。トウコの命令が一瞬遅く、食らってしまう。勢いに飛ばされ、メブキジカは四本の足で倒れまいと踏ん張った。つるつるのサブウェイの床では止まりにくい。けれどなんとかぶつかる前に止まる。そしてそこから強力な四本の足で跳ねる。
「飛び蹴り!」
ギギギアルの接続部を狙う。何度か戦って来た相手だ。メブキジカも要領を心得ている。固い蹄が、ギギギアルを強く蹴り飛ばした。大きな金属が、サブウェイの床にがしゃんと落ちる。ノボリがボールに戻した。
「急所狙い、ですか。運がよろしいですね」
「最後の一匹で余裕じゃん?どーすんだよ」
再びサブウェイ全体が揺れる。カーブに差し掛かっているのだ。それに加え、少し減速している。だとすれば次に来るのは加速。それを計算して命令しないとならない。飛び蹴りは強力だが、外すと自分にダメージが来る。ならばこんな揺れる車内で何度も出すのは危険だ。
「そうですね、最後でございます。では、行きなさいイワパレス!」
メブキジカの目の前に現れるイワパレス。助かった。これならメブキジカの方が早く動ける。
「ウッドホーン!」
「シザークロスです!」
桜の香りがする角を振りかざし、メブキジカはイワパレスに一直線。強い角の一撃を、自慢のハサミで受け止めた。そしてそのままノボリの命令通りにメブキジカの角は切り裂かれる。
「そちらも残りは一匹でございますね」
この車掌、ただ者ではない。改めてトウコは思った。全てを知り尽くしているような、そんな印象を受ける。もしかしたら手のうちですら知られているのではないだろうか。だとしたら勝てるわけがない。
けれど解らない。解っていたって、力が強ければ勝てるかもしれない。祈るようにトウコはダイケンキのボールを投げた。
「ウッドホーンくらって、それなりのダメージは入ってるはずだ。ダイケンキ、確実に仕留めろよ。ハイドロポンプ!」
トウコは命令してから思い出した。ここは平地ではないこと。急な減速に、ダイケンキはハイドロポンプを打ち損ねる。イワパレスがそこを鋭いハサミで切り裂く。ダイケンキのヒゲが切れそうだった。
「飛ぶ系の技はやめた方が……でもあの防御からして物理よりも特殊の水が絶対いい。ダイケンキ、ハイドロポンプだ!」
痛がるダイケンキはもう一度、大量の水流を作り出した。今度こそイワパレスに向けて、イワパレスを撃ち落とせるように。絶対に勝つ為に。大好きなトウコに喜んでもらうために。イワパレスの体が全てダイケンキの水流に飲み込まれる。激しい流れに、ノボリですら近づけない。やっと弱まって来た時、イワパレスはノボリの指示を聞ける状態ではなかった。
「ブラボー!」
戦いは終わりを告げた。ノボリがその証にイワパレスをボールに戻していた。
「見事わたくしに勝利なさいました。これより、あなた様をスーパーシングルトレインに挑戦する権利を差し上げましょう!」
ギアステーションに戻って来た。ノボリから貰ったスーパーシングルトレインへの許可証を見る。なんだか実感が湧かない。あんな強いノボリに勝てたということが。実はこれは幻とかなのでは、と何度もこすったり匂いを嗅いだりしているが、まぎれも無い許可証だ。
「おや、先ほどの方ですね」
ノボリに話しかけられる。その声は大人のゆったりとした声で、凄く優しそうだ。
「いや、その、さっきは悪かった。その辺のトレーナーとかいって」
「いえ、あなた様ほどの実力者ならばわたくしなどその辺のトレーナーと一緒でしょう。スーパーシングルトレインでもご活躍できるかと思いますよ」
トウコは不思議だった。負けた相手の実力を素直に認めることが出来るなんて。普通のトレーナーはそんなことせず、負けたら暴言を吐いたり、途中で逃げるようにしてどこかへ行く人をたくさん見て来た。
「ノボリだっけ。ちょっと聞いていいか?」
「はい、なんでございましょう」
「どうしてそんなに強いんだ?」
「わたくしが、サブウェイマスターであるからですよ。あなた様は十分お強いのに、わたくしを強いと思うのでしょうか?」
「強いじゃねえか。なんであんなに……」
「……よければお名前お聞かせ願いますか?」
「トウコ。カノコタウンから来た」
「トウコ様、ですね。それでは、スーパーシングルトレインでお待ちしております。わたくしとしては、絶対に来ていただきたいところでございます」
ノボリは右を差し出して来た。トウコはその手を取る。固くかわされた握手は、ポケモントレーナーとして認めていると言われたようだった。
「すぐ行ってやるよ!じゃあなノボリ!」
トウコは走り去る。何を期待していたんだ。チェレンもNも、受け入れなかったじゃないか。なのにまた人を好きになるのか。相手はポケモントレーナーとして受け入れているんだ。そうに違いない。期待なんかするな!
スーパーシングルトレインに通うため、ギアステーションに来る。前はいなかったものに会う。
サブウェイマスターノボリだ。トウコが来るのを待っているようで、スーパーシングルトレイン乗り場で待っている。もっと話したいが、目を合わせることも出来ない。
「お待ちください。顔色が悪く見えますよ」
ノボリがトウコの手を掴む。その時に目があった。
「だいじょーぶだよ!それよりそんな敵に探りばかりいれて余裕こいてんと知らねーぞ!」
「トウコ様の強さは存じております。それより次のトレインをクリアすれば、ですね」
トウコは無言で乗って行った。これ以上期待させるようなことはして欲しく無かった。受け入れない人間が、優しくするなんて、残酷なことだ。ノボリと交した一言一言が、トウコの心を熱くさせる。
ノボリが欲しい。背の高い、黒いコートの中に抱かれたい。受け止めて欲しい。今のありのままの自分を。ポケモントレーナーとしての価値しかないなんて言わないで欲しい。女の子として、人間としての価値を認めて欲しい。
そんなの無理なこと解ってる。そんな魅力がないことなんて解ってる。
ベルのように優しくもない。大人しくもない。突き進むことでしか生きることが出来なかった。可愛くもない自分をノボリのような大人が受け止めてくれるわけがない。
ノボリと向かい合えば心が折れてしまいそうになる。急激な変化。止まることを知らない恋心が、トウコを苦しめる。
ノボリとスーパーシングルトレインの中で会った時、それははっきりと現れた。あの時のように行かない。同じ空間にいるというだけでこんなに苦しいものなのか。
「トウコ様、この電車を降りたらお話があります」
「な、なんだよ」
「まあ、いずれにしてもトウコ様が目的地を決めることでございます」
もう「トウコ様」と呼んでくれることはないということか。それならば最も強いトレーナーとして記憶させてやる。トウコはポケモンを出した。対するノボリも、モンスターボールを投げた。
頭の中がスパークしたようだった。ギアステーションのベンチにつくと、倒れ込むようにトウコは座る。
「勝った。けれど」
好きな男に勝つなんてどうかしてる。負けず嫌いな性格が、こんなところに災いするなんて。
勝たなければまた会えたかもしれないのに。何をしているのだろう。ノボリに会えないのは嫌だ。
「トウコ様、先ほどは素晴らしい戦いでしたね」
顔をあげた。ノボリが涼しい顔をして立っている。また会えた。思わずトウコの顔が明るくなる。
「トウコ様、健闘をたたえて、もしこれから予定がなければ付き合っていただきたいところがあるのですが」
「え、ああ、いいぜ。どこに付き合えばいいんだ?」
「わたくしが休憩によくいくレストランですよ。安さの割にボリュームがあって、人気の店でございます」
ノボリについていく。こんなに期待させるなんて酷いやつだ。でも、今はノボリとこうして過ごしていたい。
「わたくしが出しますので、お好きなものをご注文ください」
駅員に人気の店だというから、小汚い麺屋を想像していた。けれどここはライモンシティだ。まわりはカップルばかりで、これではデートみたいではないか。ノボリは一体なにを企んでいるのか。こんな魅力のない人間を連れてきて、見せ物にしたいのだろうか。
「ノボリ」
「なんでございましょう」
「何を企んでるんだ。期待させるだけさせといて、何してんだよ」
トウコはイスから立ち上がる。その音に、まわりの視線が一気に集まった。
「わたくしは何も企んでおりませんよ。ただトウコ様と」
「してるだろ!人の心弄んで、さらし者にしてーのかよ!てめえはいいよな、そうやって何人も笑い飛ばしてきたんだろ!?」
「トウコ様?どうしたのですか?」
「うるせーよ!男なんてどうせベルみてーなか弱いのがいいんだろ!」
どうせノボリにも受け入れてもらえない。このままじゃいけないのは解ってるけど、自分を偽って生きるほどトウコは器用ではない。まわりの空気に耐えられず、トウコはノボリに背を向けて出て行った。
「トウコ様!」
全力でノボリは追いかける。店から出て数歩のところで、トウコを捕まえることが出来た。
「何があったのでしょう?あの店の選択がよくなかったのでしょうか?」
「うるせえんだよ!ノボリなんか、ノボリなんか!」
「わたくしの何がいけなかったのでしょうか?教えてくださいまし。トウコ様に喜んでもらおうとしているのに、泣かせてはわたくしのプライドに関わります」
ノボリの胸に抱かれて、トウコは一層声を上げて泣いた。止まらなかった。ノボリがこんなに優しいから。
「トウコ様、おねがいでございます。わたくしの何が気に入らなかったのでしょう?」
トウコは答えない。代わりに悲鳴にも聞こえる声で泣き続けるだけだった。
「チェレンも、Nも、私を受け入れなかったのに、ノボリもそうなんだろ」
少し落ち着いたところで、トウコは話す。チェレンのこと、Nのこと。夕方のライモンシティは夜へ向けて街灯がちらほらついていた。ゆったりとしたベンチに座って、トウコは絶対にノボリと目を合わせない。
「それで、トウコ様は受け入れないと思ったのですか?わたくしが?」
「うるせーよ。どうせ身の程を知れって思ってんだろ。もうギアステーションなんかこねえよ」
ノボリはトウコの頬に触れた。そして自分の方へと向ける。
「トウコ様、それは遠回しにわたくしへの告白と受け取っていいのですね」
顔を背けようとしてもノボリが離さない。だから目をそらして絶対にノボリを見なかった。泣いた後の酷い顔なんて見られたい人間がいるとは思えない。
「いいのですね。ではわたくしから口説く手間が省けたというものでございます」
「はぁ!?人の話きいてたのかよ」
「聞いてましたよ。その人たちがトウコ様に思うのと、わたくしがトウコ様に対する思いは別でございます。一体、その二人がトウコ様を受け入れなかったからなんだというのです?それがわたくしに何の影響があるというのです?わたくしはトウコ様のことを魅力的なトレーナー、そして女性だと思っています。それだけでは、わたくしと付き合っていただけませんか?」
「バカ、じゃねえの」
おさまってきた涙が再びあふれる。
「こんなひでー言葉使いで、守られるほど弱くもねーし、優しくもねーのに、付き合おうとかバカじゃねえの」
「そうですね。バカかもしれません。恋は盲目と言うでしょう」
「ノボリは最上級のバカだ。こんな汚いの口説いて、何になるんだよ」
「今まで耐えて来た思いがあふれてるだけでございましょう。それに今までの男がトウコ様の魅力に気付かなかっただけでしょう。わたくしと付き合っていただけますね」
トウコの答えを聞くまでもない。トウコの頬を優しくなでて、唇を重ねる。初めてのキスは、涙でよくわからなくて、それでも心はとびきり嬉しくて、夢じゃなかったら何の奇跡が起きたのか。もっと欲しいとねだっても怒られないだろうか。ノボリの袖を強く掴んだ。
「トウコ様、朝でございます。起きてくださいまし」
ノボリの家に泊まった朝は、いつもこうだ。夢と現実の境にいたトウコは、ようやく朝の日差しを迎える。
「んー、ノボリおはよう」
「おはようございます。もう朝食できていますよ。今日はトーストと目玉焼きでございます」
シーツに包まりながら、裸のトウコがベッドから起きて来る。
「トウコ様、あまりに裸でいるともう一回して欲しいと取りますよ」
「なっ、ノボリの変態!昨日だって2回もしやがって聞いてないぞ!」
「なぜ事前に何度するかと申告しなければならないのでしょうか。わたくしは、トウコ様を心のままに愛しているだけでございます」
トウコの額に軽いキスをする。言葉とは裏腹にもっと欲しいと、表情でねだってる。
「せめて軽いものに着替えてからですよ。シャワー使ってもいいですから」
「はいはい。じゃあシャワー借りる」
トウコをバスルームに見送る。
別人のようだな、とノボリはいつも思う。今みたいに乱暴な言葉で話すくせに、ベッドの中では今までの経験した女性の誰よりも女の子だ。けれどそれがきっとトウコの本当の顔。それを知っているのはノボリだけで、他の誰にも知られたくない。トウコですら気付いていない色気を見せつけられたら、そう思わない男はいない。
「早く上がってこないと、冷めてしまいますね」
コーヒーをいれて、テーブルにつく。朝食の前に、もう一度やってしまえばよかったと思うばかりだった。
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ノボリ×主人公♀(トウコ)っていうカップリングがあることに私は非常に驚いています。
共通点ないじゃん
本編で接点ないじゃん
それであんなに人気大爆発なのがタブンネには解らないよ。
書け書けと言われて書いたもの
人間の魅力は一面から見ただけでは解らないし、素敵だと思う人間は必ずいるんです。
ちなみにこのトウコのキャラはみーさんの「掴みにいく者」の主人公が公式絵とぴったりだったので 好きにしていいですよっていうから その、あの、モデルにしました。
【好きにしていいですよ】