俺のかわいい3匹のグラエナ。俺のことが大好きで、いつも俺の言うことを聞く。今日も俺が仕事から帰って来たらしっぽが千切れるくらい振って俺のところに来て。寂しかっただろ。こんな男には女なんかこねーから世話してくれるやつがいなくて困るよなあ。
一番古い付き合いのグラエナがクロコで、2番目の素直なやつがハイイロで、最近の勇敢な新入りがチョコだ。特に意味はねえ。でもどれも俺の自慢のグラエナだ。強さだってその辺のひよっこなんかに負けん。
餌箱に入れてから待てと待機させてクロコにお手、と命令した。待ちきれない様子で、しっぽを振ってるから尻が浮いてる。それに前足を何回も俺の手に乗せてくるからお手というより俺の手にタッチしている。ハイイロは俺の目をじっとみて早く許可をくれないかと言っていた。チョコはおすわりを命令したのにしゃがんでる。
みんなのふわふわの黒い毛皮をなでてやると、俺はよしと言った。早いが我れ先に餌箱に鼻を突っ込む。対して上手くもないポケモンフードだが俺の安月給だから我慢してくれよ。
飯おわったら夜の散歩行こうなー。おかげで俺は運動不足にもならねーし。もう真っ暗だからお前ら保護色だけどな。
ポケモンの足にはやっぱり舗装してない道路がいいみたいだな。グラエナたちが土の上をはしゃぎながら歩く。歩くというより、飛び跳ねてる。散歩のときくらい落ち着いて前歩けよ。俺が歩けないじゃねえか。
俺の足に体おしつけて歩いてるのはチョコ。俺の足の間に顔を出すのはクロコ。歩けと言えば歩くけどそのうちチョコと反対の足にじゃれついてくるハイイロ。街灯が暗いんだが仕方ない。少し離れるとグラエナだと見えなくなるからな。リードつけてるからどっかいっちまうようなことはないが。
3匹のリードは同じ手で持ってたんだが急に引っ張ってそれぞれ走り出した。俺はその反動で転んだ。いきなり何があったんだ。俺のグラエナが家出の仕方をするとは思えない。
「クロコ! ハイイロ! チョコ!」
遠くでグラエナの息づかいが聞こえる。3匹で何をしてるだ。追いかけないとあいつら野生で生きていけるかもしれねーけど!
道を少し外れると真っ暗で何も見えなかった。名前を呼んでも何の反応もなかった。
なんでいきなりあいつらが俺から離れていったのか解らない。俺は真っ黒な森をぼーっと見ていた。あんなにかわいがっていたのに見捨てやがって。あっさり見捨てやがって。餌も毎日やってたのに裏切りやがって。
個人的なことだけど一週間前に振られたばかりでそれでもお前らの世話してやったじゃねえか。餌餌餌、散歩散歩散歩って毎日いってやったのにこのザマかよ。
ああもう人間もポケモンも信じねえ。どーせお前ら自分のやりたいようにやるんだろうよ。帰って寝てやる。もう明日から何の世話なんかしなくていいんだー。
俺の家の玄関の前に、黒い毛皮が座っていた。
なんだよ、なんでお前ら帰って来てんだよ。しかも一匹増えてるじゃねえか。遅かったじゃないかと言いたげな顔してんじゃねえよ。じゃれつくなよ。しかもハイイロのリード切れてんじゃねえかよ。いくらすると思ってるんだよ。これでも節約してお前らに投資してんだぞ。
しかもチョコ、増えたやつを見てみてと差し出すなよ。ポチエナだし。大きさからいって生まれたばかりか?
「……またか」
だからこいつら走って行ったんだな。お前らもそうだったもんな。
ホウエンでは子供でも小さい時からポケモンに触れさせる教育をしている。個人的に持つ場合もあって、力のあまり強くないジグザグマとかポチエナとかエネコが人気だ。
けれどな、力のあまり強くないということは、強くなったらイラナイんだよ。不要になる。だからクロコはゴミ捨て場に一匹でひたすら主人を待っていた。ハイイロは餌を取ろうとして川で溺れてた。チョコは主人に会って自分より強いポケモンにコテンパンにされていた。
俺にボランティア精神はないが、クロコが俺の弁当の匂いにつられて会社まで追いかけてきたことが発端だ。仕方ないから飼ってやったら次々に捨てグラエナを拾ってきやがる。
俺の経済力を知ってろよ。全部のグラエナは助けられねえよ。あー、そんなこといってもこいつらには解りませんですね。俺がバカだった。生まれたばかりのポチエナとかどうしろって言うんだよ。
頭かかえてしゃがみ込むと、クロコが覗き込んで来る。疲れたのか、元気だせと言ってるのか知らんが、元はといえばお前らのせいだ。
「随分たくさんのグラエナを飼ってるんだな」
知らないおっさんの声がかかる。好きで飼ってるわけじゃねえよおっさん。こいつらみんな俺をよりどころにしてる捨てグラエナだっつーの。なんならこのポチエナおっさんが飼ってやれよ。
「その力をトレーナーとして使わないか」
「はぁ?」
「そんなたくさんのグラエナをそのレベルまで育てるのは、トレーナーとして……」
「これは俺のグラエナじゃねえよ。弱くなって要らなくなったグラエナを引き取っただけで、育てたトレーナーは今頃どっかでエリートトレーナーじゃねえの」
それより俺はもう寝たい。ポチエナのボール買いに行きたい。誰だよこのおっさん。話が止まりそうにないというか、ますますこのおっさんの恐ろしい系のオーラが増えてる気がする。上司に怒られる前の空気と似ていて俺の居心地もよくない。
「それを制御しているのだから、やはりトレーナーの才はある。どうだ? 悪い話ではあるまい。私は才能のあるトレーナーを探している。あるポケモンを探しているのだが、それにはトレーナーの協力が必要なのだ」
「へえ。何の為にポケモン探してるんだ? こいつらの寝床を広くしてくれるのか?」
「……まあそんなところだ。条件はこちらから出そう」
人をほめて引き抜くなんてよくやるじゃねえかこのおっさん。今より貰える金が増えるなら協力してやろうじゃねえの。そうしたらこいつらにもっといいもの食わせてやれる。
「これだ。この計画は秘密にして欲しい。先を越されたくない」
「企業秘密ってやつか。なるほどな」
妖しい匂いはする。しかしこのおっさんの話になぜか興味がある。玄関先でグラエナに囲まれてる男に声をかかけるやつなんていないだろ。何を期待しているんだ。
「この話に乗るなら、君の名前をそこに書いてくれ」
俺は敢えて違う名前を書いた。よく知らないおっさんに全てを吐き出す勇気はないんでね。
「……この話、乗ってやるよウヒョヒョ!」
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グラエナに囲まれたホムラというツイートがホムラ大好きな人からまわってきました。
グラエナ多頭飼いしてるんだろうなあ。いいよなあ。ワンコに囲まれて幸せそうなホムラ。
わんわんお
【好きにしてください】