パパが死んだのは一ヶ月前のこと。
パパが死んでから、ママはぬけがらになっちゃった。
いつもぼーっとしているんだ。
ぼくがママを呼んでもなかなか返事をしてくれない。
それにぼくを見ると、ママは泣いてしまうんだ。
ぼくがパパにそっくりだから、パパを思い出しちゃうって。
どうしたらママは元気になってくれるかな。
今日はクリスマスだったのに、ごちそうはなかった。
パパがいたときはテーブルいっぱいに、ママがごちそうを作ってくれたのに。
サンタさんにママの元気が出るようなものをお願いしたいけど、ダメなんだ。
だって、サンタクロースはパパだったから。
もうプレゼントはもらえない。
でもね、もし本物のサンタさんがいるなら、お願いです。
パパを返してください。
かみさまお願いです。
もう好き嫌いしたり、ワガママ言ったりしません。
おもちゃもがまんします。
だから、どうかパパを返してください。
パパさえいれば、きっとママは笑ってくれるから。
だから。
ベッドの中でお祈りしている間に眠ってしまったみたいだった。
まわりはまっ暗。
今、何時だろう?
時計が見たくて、明かりをつけようとした。
そのとき、ベッドの横に背の低いだれかが立っていることに気がついた。
おばけだったりしないよね?
「だ、だれ?」
だれかさんは黙ったまま、ぼくに何かを差し出した。
でも、暗くてよく見えない。
ぼくは枕の近くにある明かりをつけた。
そこにはなんと、サンタクロースみたいな、真っ赤な体に白いひげのデリバードがいたんだ!
一体どこから入ってきたんだろう?
なんてぼくが考えていると、デリバードはまた何も言わないまま、白いものを差し出した。
おてがみ、かな。
『ぼうやへ』って書いてある。
もしかして。
ぼくは白いふうとうをあけた。
『かわいいぼうやへ。
ぼうや、元気にしているかい?
ママは元気かい?
きっとママは落ち込んでいるんじゃないかな?
そのことでちょっとぼうやと話がしたいんだ。
この手紙を届けてくれたデリバードといっしょに、パパのところへ来てくれるかい?
今日はクリスマス。神様が特別に許してくれたんだ。
どうかパパに会いに来てほしい。
パパより』
パパからだ!
ぼくは信じられなくて、小太りのデリバードに聞いてみた。
「これってほんとう?」
やっぱり黙ったままだったけど、デリバードはこくんとうなずいた。
そしてぼくの手をつかんでひっぱった。
痛い! 何するのさ!
って言おうと思ったけど、びっくりして何も言えなくなっちゃった。
だってベッドには、ぼくが寝てるんだもの。
どういうことなんだろう?
わけがわからないぼくを、デリバードがぐいぐいとひっぱる。
「待ってよ!」
ぼくがそう言ってもやめてくれない。
そしたらそのまま、カギを閉めていたはずの窓を開けて、ぼくをひっぱっていく。
待って待って!
そうしてぼくは無理やりソリにのせられた。
外は雪が降っていて、寒いはずなのにちっとも寒くない。
息も白くならないし、へんなの。
ソリの前にいるのはオドシシかな。
角が生えてるし、サンタクロースといえばオドシシだもの。
暗くてよく見えないから、絶対ではないけど。
それにしても、どうせならママにおてがみを出せばいいのに。
その方がずっとママにとってもいいと思うのになあ。
そんなことを考えていたら、ソリが急発進!
「うわ! 危ないなあ!」
ソリはぐんぐんスピードをあげて、ぼくはいつの間にか気を失っていた。
「……ぼうや、ぼうや」
んん? パパ?
ぱっと目を開けるとパパがいた。
「パパ!」
ぼくが抱きつくと、パパはいつものようにぎゅっとしてくれた。
思う存分パパに抱きついて、ようやくぼくとパパは話し始める。
「ぼうや、来てくれてありがとう。パパはうれしいよ」
パパはにこにこして言った。
「だって、パパのお願いだもん。でも、ママを呼んだ方がよかったんじゃないかなあ。だって、ママずっと元気ないんだ……」
ぼくは下を向いてしまう。
ああママ……。
ぽんぽんとぼくの優しく頭をなでながら、パパは言った。
「ママはここには来れないんだ。大人だからね」
ごめんね、とパパがあやまる。
「ううん、パパが悪いんじゃないんでしょう? だったらしょうがないよ」
ありがとうぼうや、と言って、パパはまたぎゅっとぼくを抱きしめてくれた。
「ぼうや、今までよくがんばったね。パパは本当にぼうやを誇らしく思うよ」
パパは明るくそう言った。
でも、なんでだろう、ぞわぞわと嫌な感じがする。
「だけど、ぼうやはもうがんばらなくていい」
パパはぼくをしっかりと抱きしめたまま、続けた。
「これからはぼうやの代わりにパパががんばるよ。だからぼうや」
パパ?
「――パパに体をちょうだい」
え?
「パパ? どういうこと?」
にい、とパパが笑ったのがわかった。
抱きしめられているから、パパの顔なんて見えないはずなのに。
パパ、パパ、怖いよ。
「パパがぼうやから体をもらって、ぼうやの代わりにママを支える。だからぼうやは」
「やだよ!」
叫んで逃げようとしたのに体が動かない。
どうして?
「ぼうや、もう遅いんだ。ここまで来たんだから、おとなしくパパに体をちょうだい」
怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいこわいいやだいやだいやだやだやだやだやだ。
動かない体をいっしょうけんめい動かそうとする。
「ぼうや、お願いだから……」
「やだよ! いやだーーーーーーーー!」
まぶしい! あれ、朝?
ぼくは寝る前と同じようにベッドの中にいた。
いつもと変わらない朝。
「夢、だったのかな」
きょろきょろとまわりを見ても、パパからのおてがみも、なんにもない。
そっか、夢だったんだ。
もしかして、いつまでもパパに頼っちゃいけないってことなのかな。
うん、きっとそうだ。
「ママー! おはよう!」
まだ寝ていたママを起こしに行く。
「今日からは、ぼくがパパの代わりにママを守るよ!
だから安心してね、ママ」
起きたばかりのママにそう言った。
ねえ、パパ。ぼくもうパパに頼らない。
ぼくがママを支えるよ!
ぼくならできるよね。
だって、ぼくはパパの息子なんだから!
「息子に負けるだなんてざまあないな」
ケケケと頭にアンテナのついた、灰色のポケモンが笑った。
笑ったときに、お腹の大きな口が動く。
「ま、それだけぼうやが強かったってことさ」
答えたのはあのぼうやによく似た、まだ若い男。
「ケケケ、まあいいさ。お前は賭けに負けた。だから約束通り今すぐ地獄行きだ」
それにしてもよお、と体のわりに大きな手を顎のあたりにもっていき、灰色のポケモンは言葉を続ける。
「お前は馬鹿だなあ、何もしなけりゃ天国行きだったのによお」
ポケモンは不思議そうに一つしかない赤目を細める。
「いや何、僕の妻は少々愛が大きすぎてね。まあでも、ぼうやならなんとかなるだろう。僕の息子だしね」
そう強がってはみたものの、男は複雑そうな表情を浮かべる。
「代わって、やりたかったな」
ぽつりとつぶやくと、そのまま一つ目のポケモンとどこかへ消えていった。
あとに残されたのは、赤と白の毛皮だけだった。
「ママ?」
ママはぼんやりとぼくを見ている。
「あなた……」
そう言ってママは、にっこりと笑った。
Happy end...?
*
一応クリスマスということなので。
オチ分かりにくいですかねー?
というかヨノワさんは魂だけを引っこ抜くことができるんだろうか。
昔見たアニメで、ゲンガーがサトシの魂だけを体から引っこ抜いてたのを思いだしてこんな話に。
あとはまあ、シンオウ神話のあれとか。
ハッピーエンドだよ!
誰がどう見てもハッピーエンドだよ!(
※追記
シンオウ神話のあれとかと書きましたが、より直接的には鳩さんの遅れ青年の影響が大きいです。