注意!この作品は戦争が起きたポケモン世界でのお話になっています。直接的な描写はないんですが、エログロの範囲に入ります。読む場合は気をつけて読みましょう
ねえダイゴさん。
もう会えなくなってどれくらい経ちますか。
行ってくるよって言ったのにどうして帰ってきてくれないんですか?
いつも疲れて帰ってくるダイゴさんが甘えるかのように求めてきたのは何も一日じゃなかった。不穏な世の中の動きを知っていて、私に心配かけまいとしようとして……でも知ってましたよ。ダイゴさんが何をしようとして、どうしようとしていたのか。毎日一緒にいて気づかないはずがないです。
こんなことになることを防ごうとしてくれたんですね。あの日もそれを悟られないように必死で笑って行ってきますって……私はもうそこにいませんが、帰ってくるの待っているんですよ。ここからでもずっと待ってるんですよ。
だってダイゴさんがいなくなってから数日後、わけのわからない言葉を話す人たちが攻め込んできました。私もポケモントレーナーだから街の人たちを守るために戦ったんです。けれど容赦なかった。勝つというより殺し合いでした。私のポケモンたちが目の前で殺されていきました。生物兵器ってこういうことを言うんですね。
街の人も殺されました。使えそうな人を除いて。首に鉄の鎖をかけられて、手は重たい金属の輪をはめられました。とても重く、逃げられるようなものではありません。むしろ逃げたらその場で殺されました。血まみれになった子供を蹴り飛ばし、残った人たちはこうしてつれてこられました。
ねえダイゴさん。私ね、今はこの人たちの慰み者ですよ。
毎日吐き気がするほど汚れていきます。この人たちが何を言っているかわかりませんけど、きっと罵倒して嘲笑してるんだと思います。目がそんな感じです。
やっと今日もそれが終わって体を洗い流しても、心の中にまで入ってきた気持ち悪さは消えません。
ダイゴさんどうして帰ってきてくれないんですか? ダイゴさんどうして来てくれないんですか?
それとも、もうこんな汚れた私は嫌ですか? 会いたくもないですか? どう思っていてもダイゴさんに会いたいです。こんなことをされるために私は生きてきたんじゃない。私は生きてダイゴさんにもう一度会いたいです。
ダイゴさん
たすけてください
もうこれしか手がない。みんなを助けるにはこれしかない。チャンピオンがなんだというのだろう。戦争に負けたらそんな地位、何の意味もないのに。
ポケモンたちと引き離されてかなり経つ。みんな無事だろうか。元チャンピオンの手持ちだからうまく転用されて、無事に生き延びてほしい。
戦争が始まる雰囲気は前からあった。それはポケモンリーグからもデボンからも感じ取っていた。呼び出されるのは確実だ。しかし望むところだった。僕が出ることでハルカちゃんたちを戦火から遠ざけられるなら。
結果はごらんの有様だ。奇襲を受けて一緒に出た他のトレーナーは全滅してしまった。異国の兵士たちは僕を捕らえて、その後は思い出したくもない拷問だった。それよりリンチに近い。それでも生きていられたのは僕があっちでも有名だったのだろう。そりゃそうか、ポケモンリーグでも経済でも有名なのはそうそういない。利用価値があると生かされてきた。
そしてオヤジは僕を取り替えそうとしたみたいだけど、無理だったみたいだね。でもそんなことしなくていい。僕のために他の人間が危ない目に合う必要なんてない。
ほとんど服の役割をしていない布を身に着けた。すると兵士たちが僕の手を後ろでしばり、ひざをつかせた。強引に僕の髪を引っ張る。顔を上げさせたかったようだ。僕が見えたのはカメラだった。そんなに大きなものではない。僕をリンチするところを撮影しようというのか。それでデボンを脅迫するのか。
違うな。デボンに送りつけるのは確実だが、取引の失敗を意味するものなのだから……
ハルカちゃんは無事だろうか。ようやく手に入れた宝物。飾っておけない宝物。僕が帰ってこない間、寂しくないのかな。僕のことは早く忘れて、もっといい人見つけてほしいな。それで幸せになって、戦争の被害が及ばないところでその人とずっと
頭が霞がかったみたい。薄い布を身につけてやっと洗面台にたどり着いた。私はこんなに色白かったっけ? 違うよお腹も痛い。痛すぎてもう立ってられない。こんな痛み初めてで、床に倒れて叫んだ。異常だと思ったのかみんなが私のまわりに集まってくる。
痛いよ、痛い……お腹が痛い。内側から締め付けられるように痛い。目をあけると視界がまわる。こみ上げる強い吐き気とお腹の痛みで暴れた。何をどうしたら楽になるのかわからない。もう一度だけ目をあけると、私の身につけているものが真っ赤に染まっていた。どうして? なんで? わたしの血? お腹から出てきてるの? どうして、なんでこんな血がどこから?
声も遠くなる。私の体を揺り動かす振動に答えるのもできなくなる。息をするのも苦しい。いやだダイゴさん怖い。ダイゴさん怖いよ! ダイゴさん助けて。ダイゴさんに会うまで死にたくない死ねないよ。帰ってくるまで絶対に死ねない!
あ、よかった。お腹いたいのもだんだん治ってきた。息も楽になってきた。
「あっ」
そうか。目を開けたらダイゴさんがいた。ダイゴさんが助けてくれたんだ。会いたかったんだよダイゴさん。いつまでも待たせて。いない間にすごく大変なことが起きて。
「うん。待たせてごめんね。よくがんばったね」
「ごめんじゃないですよぉ! ずっと、ずっと心配で、心配で!」
ダイゴさんに抱きついた。暖かく迎えてくれる胸に飛び込み、泣きながらたくさん話そうとした。つらかったこと、苦しかったこと。でもダイゴさんに会えたらそんなもの全部どうでもよくなった。
「会いたかった……ダイゴさんに会いたかったんです」
「僕もハルカちゃんにずっと会いたかったから探したんだ」
ダイゴさんの唇に触れた。すると強く抱き返してくれる。やっと帰ってきてくれたね、ダイゴさん