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  [No.2880] こうかんノート 投稿者:WK   投稿日:2013/02/14(Thu) 10:57:56   110clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 『こうかんノート』って、ご存知ですか?仲の良い友達同士で書いて交換しあう、秘密の日記帳のようなものです。
 書く内容は様々。昨日観たテレビの内容、最近あった出来事、遊ぶ約束。決して他の子には見せてはならない、内緒の話。
 今思えば大して秘密にしても意味がない内容ばかりでしたが、当時の私達はその甘美な響きに憧れ、お互いにノートを交換しあったものです。
 そう、決して他人に見せてはいけないような言葉たちも――。


 あれは七年前のことです。当時私は小学六年生。中学受験を控え、人間関係に揉まれ、ストレスフルな日々を送っていました。
 私の通っていた学校はカントーはマサラタウン寄りの場所にあり、全校生徒は約四十名。教職員の方々を入れても五十に満たない、小さな学校でした。
 私の学年は全部で十四名。その中の八名が女子で、私はその一人。
 皆、良い意味でも悪い意味でも子供という言葉をそのまま表したような子でした。特に女子は。

 事の始まりは小学五年の時。私はMちゃんと一緒にこうかんノートをしていました。彼女とは私が引っ越して来てから、ずっと仲良くしてきた友達でした。天然パーマがコンプレックスで、最近ストレートにしたばかりだったと思います。
 彼女とのノートは四年生の時から始まり、六、七冊目くらいにかかっていました。内容は前述した通り。たわいも無い話ばかりです。ですが、時々こんなことを書く時もありました。

『○○うぜー てんこうしろ』
『マジ寄らないで欲しいんだけど』

 言わずもがな、他人の悪口です。誰かと秘密を共有し合う、その『秘密』の中に、他人への嫌悪感も混ざっていました。あの子と嫌いな子が一致している。それだけで妙な高揚感に包まれたものです。
 その○○とは、クラスで嫌われていた男子でした。たった十四人の生徒の中にいじめが発生するのか、と疑問に思うかもしれませんが、子供は残酷です。無自覚ゆえ、他人を傷つけても平気でいられるのです。
 もしかしたら、あなたも経験があるかもしれませんが……。

 さて、風が変わったのは六年の後半からです。私と仲良くしていたMちゃんが、急に冷たくなりました。こうかんノートがあまり返って来なかったり、返ってきたと思ったら全然書いていなかったり。
 当時彼女はジャニーズにはまっていました。同じクラスの女子―― ここではYちゃんとしておきましょう―― といることが多くなり、私とはあまり一緒にいてくれなくなりました。
 私はジャニーズより、今流行っているポケモンやトレーナーに夢中でした。なので仕方がないことなのかもしれませんが、私達の間に大きな溝ができていきました。
 私はその二人に相手にしてもらいたくて必死でした。でも二人は私を除け者にしました。寂しくて、泣くことも数多くありました。
 そんな時でした。彼女が私の領域に入ってきたのは。

 彼女はTちゃんといいました。気が強く、ちょっとした言動で相手を傷つけ、泣かしてしまうことがありました。そのためかあまり周りの子とは馴染めず、特にこの時期は一人でいることが多かったように記憶しています。
 彼女は私に『こうかんノートをしよう』と持ちかけてきました。今の私の手にすっぽり収まってしまうような、ミニノートです。表紙は当時流行っていたキャラクターもの。ピンクの熊とも言えないような不思議な生き物が、天使の格好をしているイラストでした。
 私はそれに同意し、彼女とのやり取りが始まりました。Mちゃんに相手にされない悲しみを、ここで晴らせるならそれでもいいと思ったのです。
 イラストや遊ぶ約束など、一ページに沢山詰め込んでは向こうに渡しました。その間にもMちゃんとYちゃんは自分たちの世界で遊んでいました。班で給食を食べていたとき、彼女らは私に見せつけるように、

『やっぱり○○はいいよねー』
『ねー』

 今思えば子供ならではの安堵感を求めていたのでしょう。ですが当時の私は不快になるばかりでした。

『班変えてくれないかな』

 Tちゃんがそっと耳打ちしてきました。それに同意してしまったのも無理はないと思います。まあ、彼女らの前で耳打ちするなんてあまり意味がないと思いますが。
 その時、私はふと彼女らの影に違和感を感じました。蛍光灯に照らされる彼女らの影は、普通は黒色です。
 しかし、気のせいでしょうか。その時見た影の色は、濃い藍色をしていたように思えました。おまけに何かがうぞうぞ蠢いているような……。
 不意に、影の中にある奇妙な色の汚れが目に入りました。少しでもMちゃんに良い印象を与えたかった私は、『ゴミが落ちてるよ』と言いながらそれを拾おうとしました。
 ですが。

『ギャアッ!』
『ひっ』

 不意に影が飛び出してきました。私はバランスを崩し、後ろにこけてしまいました。影はそのまま暖房が効いていない廊下の方へ走り去っていきました。
 先生が慌てて教卓から走ってきました。当時Mちゃんとの関係が上手くいっていないことを察していたのでしょう、その目には焦りの色が見てとれました。

『大丈夫か』
『は、はい』

 先生に助けてもらって立ち上がった私は、右手に何かぬるりとした物を感じて手を開きました。
 そこには血のような、体液のような液体が付着していたのです。
 私は廊下の方を見つめました。しかしもうそこには、何もありませんでした。


 それから時は過ぎ、三学期になりました。私は受験を終えて、かなり軽い気分を味わっていました。向こうも同じだったのでしょう。Mちゃんも受験組でしたが、見事に合格。ずっと止まっていた私達のこうかんノートも、スムーズとはいかなくても少しずつ回るようになっていました。
 当時『シンオウ地方』という場所がちょっとしたHOTワードになっていました。女性で初めてのチャンピオンが誕生したということで、マスコミでも大騒ぎになりました。私もその様子はテレビで観ましたが、素敵だと思いました。
 このことを誰かと分かち合いたいと思い、まず私はTちゃんとのノートに書きました。しかし彼女はポケモンにあまり興味を示さず、むしろ今度はいつ遊ぼうか、とか、○○ってマジ死ねばいいのに、などと私に同意を求めるような質問ばかりを書いてくるだけでした。
 一方Mちゃんはその時の気分で左右されるものの、その話に乗ってくれました。テレビで紹介されたこの地では見れないポケモンの話もしてくれ、また前と同じようなたわいも無い話ができるまでに関係は修復されていきました。
 受験から開放されたことを知った他の子達とも大分話すようになりました。放課後一緒に帰ったり、同じ受験組の子とはどんな問題が出たかを面白おかしく話しました。
 そんな様子を彼女が面白くないと思ったのは、ある意味当然かもしれません。

 受験が終わって二週間くらい経ったある日、私はTちゃんから久々にこうかんノートを渡されました。そういえば随分久々だな、この前はどんな話を書いてたんだったっけな、と思いながら軽い気持ちで私はページを開きました。そしてすぐ閉じました。
 私は彼女の横顔をそっと眺めました。気のせいか少し虚ろな顔をしています。目の下に隈ができ、髪は少し傷んでいるようでした。
 私は深呼吸してから、もう一度開きました。内容は変わりませんでした。

『どうしていつもひとりで帰っちゃうの?いっしょに帰ろうって約束したじゃん。この前はRといっしょに帰ってたし。言ったじゃん前に。RはKのことウザいって言ってたんだよ?YもMもKのこといやだって言ってたんだよ?どうして分かってくれないの?
Kのいちばんの友達は私だって言ってくれたじゃん』

 うろ覚えですが、こんな感じで延々と三ページくらいにわたって綴られていました。以前にもこんなことがありましたが、ここまでではありませんでした。
 最後の言葉は読んだ時に思い出しました。一回目の彼女の追求があまりにも激しくて嫌気が差したので、ご機嫌取りのつもりで書いたのです。
 私はこう書いて、彼女に渡しました。

『世の中には知らなくていいこともある』

 確かこの前にもう少し書いた記憶もありますが、覚えていません。当たり前ですが彼女がそれで納得するはずもなく、渡してから二分くらいでこんな一文が返ってきました。

『何?おこんないから、教えて』

 受験が終わったことで多少のトラブルは笑って対処できるだろう、という意味の分からない自信が私の中にありました。
 私はこう書いて、彼女に渡しました。

『ごきげん取りだよ。Tちゃんがあまりにもしつこかったから』

 その後の彼女の顔を、私は知りません。


 私は五時間目に熱を出し保健室で寝ていたことで、放課後に目が覚めました。先生は職員室に行ってしまったようで、部屋には誰もいませんでした。私は薬臭くなったトレーナーを脱ぐと、一階にある教室へと鞄を取りに行きました。
 夕暮れの光が廊下へ伸びていて、既に四時半くらいであることが分かりました。何だか急に不安な気分になり、早く帰ろうと私は教室に入ろうとしました。
 ビクリとしました。Tちゃんが、私の机の前に立っているのです。何もせず、つっ立っているまま。

『……Tちゃん?』

 Tちゃんがこちらを向きました。今度こそ、私の全身を悪寒が襲いました。足元からじわじわと這い上がってくるようです。
 彼女の目には光がありませんでした。なのに、なのに、彼女の影の中には――!

『Tちゃん!』

 私は無我夢中で彼女の肩を揺さぶりました。彼女が糸の切れたマリオネットのように床に崩れ落ちました。
 私はふと彼女の右手を見ました。何か黒い物を掴んでいます。そっと指をほぐして取ると、それはあのノートでした。
 表紙を見て―― 私はぞっとしました。あの綺麗な青と可愛いキャラクターで彩られていた表紙は、黒いマーカーか何かで真っ黒に塗りたくられていたのです。

『くすくす』
『あはは』

 ハッとして私は後ろへ下がりました。未だに彼女の影の中には彼らがいました。そう、前にMちゃんの影に取り付いていた、彼らが。
 その中から一匹が私の持っていたノートに飛んできました。驚いてノートを取り落としたところへ、彼らは一斉に群がり、そのまま何かを食べるかのように首を動かしはじめました。

『やめて!』

 彼らは一斉に上へと飛び上がりました。私はノートを持ったまま、閉じられていたカーテンを思い切り引っ張りました。
 夕方の太陽の光が、教室を照らしました。窓を開け、私は叫びました。

『こんなもの!』

 私の手から放られたノートは、くるりと弧を描き、金網の外へ消えました。


 その後、私の叫ぶ声に驚いた先生達が教室へ来て、私は少しお咎めを受けました。本当のことは話しませんでした。おそらく話してもきっと信じてはもらえなかったでしょうから。
 Tちゃんはあの後、病院で軽い処置を受けた後目を覚ましました。私との一件のことは覚えていても、あの影にいた者たちのことは何一つ知りませんでした。
 それでもいくらかは収まったようで、少し大人しくなりました。

 あれから、七年の時が過ぎました。当時あれほどくっついていたMちゃんとYちゃんは、中学へ行った途端疎遠になり、今では連絡のれの字も取っていないそうです。反対に私とMちゃんは時々ですが連絡を取り合ったり、一緒に遊びに行ったりします。
 当のTちゃんは、高校に行った後に地元のハンバーガーショップでバイトを始めたようですが、今ではどうなっているかは分かりません。
 そして彼らは――

 一度ホウエン地方に遊びに行った時、彼らの正体を知ることができました。
 彼らは、カゲボウズ。人の恨みや妬みを餌とし、時には脅かして遊ぶこともある。
 何故ホウエンのポケモンがカントーにいたのかは、今でも分からないままです。誰かが持っていたのが野生化したのか、それとも勝手に何かに紛れて来てしまったのか。
 Tちゃんの念はどんな味がしたのでしょうか。あんなに群がっていたのだから、きっと彼らにとっては美味しいものだったのかもしれません。
 誰かが胸糞悪くなるような物でも、誰かにとっては素晴らしい物に感じる。彼らはその典型的な物かもしれません。

 そして最後に、あのこうかんノートについて。

 結局Mちゃんとのノートは十冊目に行かずに終わってしまいました。中学へ行っても、もう誰もやる人などいませんでした。
 私が投げ捨てたあのノート、卒業式の日に探してみましたが、不思議と何処にも見当たりませんでした。用務員さんに聞いてみても、あそこは掃除してもポイ捨ての瓶や缶ばかりで、ノートなんて見当たらなかったというのです。
 この前、久々にMちゃんとのこうかんノートを発掘しました。七代目くらいでしょうか。幼い字と絵に、遊ぶ約束。プリクラにシール。

 こんな物を楽しんでいたのかと、今でも私は不思議に思うのです。
 


  [No.2884] 前日談、もしくは後日談 投稿者:WK   投稿日:2013/02/15(Fri) 21:00:52   124clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 これを書く前、久々にMちゃんと会った。そもそもこれを書くきっかけに至ったのが彼女との会話だったのだ。直接会うのはそれこそ五年振りくらいだったと思う。
 彼女は既に天パの名残を消した髪を靡かせ、待ち合わせから五分ほど遅れて私の前に姿を表した。私は駅の改札口前で、コートの薄さから来る寒さに顔をしかめながら立ち尽くしていた。

「よう」
「久しぶり」

 彼女はワンピースにタイツと茶色いローファーを合わせていた。小学生時代の服装を思い返すと、信じられないくらい地味な色合いになったものだ。当時彼女は某キッズブランドの、Tシャツが一万円は下らないような物ばかり身につけていた。ちなみに私はパリと青がモチーフの物ばかり身につけていた。
 当時の服は、私が知る限り残っていない。皆母の友人の子にあげてしまった。

「寒いんだけど」
「悪い」
「んじゃ行こうか」

 風が吹きつける構内を通り、私達は南口にある真新しいビルへ向かった。今日はここにあるスイーツ・バイキングに行くのだ。
 エスカレーターで三階まで上がり、店に入る。券を買い、店員に案内されて席に着く。平日、しかも午前十一時前後とあり、人はまばらだった。私と同じくらいの子が二組、おばさんが一人。
 烏龍茶を注いでテーブルに置いてから、私は実のある物を取りに向かった。流石にスイーツ・バイキングと銘打ってあるだけ種類が多い。青りんごのケーキ、ベリー系のショートケーキ、かぼちゃのプディング、シブースト、抹茶のシフォンケーキ。
 ついでにたらこスパゲッティもチョイスして席に戻る。店員が気を利かせてくれたのか、テーブルがもう一つくっつけられていた。
 さて食うかと手を合わせたところで、店内のBGMが変わる。聞き覚えのあるイントロ。
 私は吹き出すのをこらえるのに必死だった。

「ねえ」

 しばらく黙々と目の前のスイーツを平らげる作業が続く。沈黙に耐え切れなくなった私は、彼女に話を持ちかけた。

「?」
「最近どうよ。学校は?」
「ああ……。Kも同じだと思ったんだけど、違うの?」

 どうやら一週間に一度の割合、らしい。私立の高三って何処もこうなのかしら、と嘆く母の言葉を思い出す。そうみたいだぜ、お袋さん。

「課題とか出てる?」
「レポート的な。あと英単語があるから、それ。まあ意味だけ覚えればいいから楽だけど」
「へー……」

 その後お互いの学校の話題が続く。体育祭で初等部との綱引きが女子は勝ったのに男子は負けて女子に般若の形相でお説教をくらったとか、修学旅行の沖縄でプライベートビーチで服を着たまま走り飛びして先生に怒られたとか、そんなもの。
 何故か女子が砂場で女の裸体を作っていた、と話したとき、彼女はふと思い出したように呟いた。

「この後、どうする?」

 カラオケに行くことになった。二時間。トイレに行くと言って彼女は出ていき、私が最初に歌うことになった。
 曲は『少年よ/我に帰れ』。途中で彼女が戻ってきてハチPの曲を入れた。彼女がボカロを知っていることに少なからず驚いたが、高音の曲を歌い上げることにも驚いた。

(あんだけジャニーズって騒いでいたのにねえ)

 ふと七年前のことを思い出す。今思えば大したことのない、ただの無邪気な残酷さに遊ばれただけだったと笑い飛ばせるのに、当時はひたすら傷つき、涙を流していた。
 当時彼女らを夢中にしていた物は、今はすっかり存在を消している。今の小学生は彼らがいたことすら知らない。当時ハマっていた子すら、覚えていないかもしれない。
 飛沫の夢に弄ばれた、子供達。
 あそこで培った何かは、どこへ行ったのだろう。

「おいK」
「あっ」

 気がつくと彼女の曲は終わっていた。私は機械を操作し、『恋愛/勇者』を入れる。ボーカルの発表会で三ヶ月前に歌ったばかりだ。
 あの時、スポットライトとギターの音色と、マイクを持つ手が私を動かしていた。緊張は最初の音で全て吹っ飛んだ。
 歌っていて、自分の声が随分低くなったことに唖然とする。男ではないからそこまで変化はないけれど、それでも昔の声じゃない。
 確実に、

(……)

 二時間はあっという間だった。次に何処へ行く、と聞くと彼女は某青い看板のアニメショップを挙げた。ニッと笑えば足は自然と動き出す。
 白いタイルに、長さが変わらない影が並ぶ。

「ねえ、」
「何ー」
「こうかんノートやってたの、覚えてる?」

 その話題が出たのは、帰りのバスの中だった。彼女は目を丸くして、それこそ―― バスの中だったからそこまで大きくはなかったけど―― それでもこちらが驚くくらいの声を上げた。

「あー!やってたやってた」
「十冊くらいまでいったんだよ、私とMのノート」
「えー!そんないったっけ!」

 一人百面相する彼女に、私は少しため息をついた。覚えていない。本当に、彼女は覚えていなかった。
 思い返せば、あの時が一番人間関係で悩んだ時期だったと思う。今まで仲良くしていた人間が、急に敵になる。『裏切られた』『誰も信じられない』本気でそう思った。皆表面では仲良くしていても、裏では何を言っているか分かったものじゃない。
 今なら『それが女なんだよ』とバッサリ言えるかもしれない。『仕方ないよ』『人間だもん』『女同士だもん』そんな言葉がぽんぽん思いつく。生きとし生ける物全てを愛せ、そんなことできるわけがない。悟りを開いているならまだしも、普通の人間にそんなことできるわけない。
 今でも私には受け付けない人間がいる。私をそう思っている人もいるかもしれない。それでいい。だって、人間だもん。
 だが当時の私にそんなことを言ったって、おそらく何も解決しないだろう。何もかも未熟な子供にそんなことを理解しろと言う方が無理なのだ。反対に言えば、あれがあったから今の私の一部分が作られている。

(ま、今の私が語っても多分意味ないんだろうけどね……)

「そういえば、この前部屋の掃除してた時に、Yとのノート出てきたよ」
「……マジで?」

 今度は私が驚く番だった。それで、と先を促す私に、Mは苦笑しながら言った。

「おそるおそる開いたんだよね。そうしたらさ、すごいの。もうね、相手に土下座しても足りないくらいの、罵詈雑言」
「おおう」
「思わず叫んでビリビリに破ったよ。いや、ほんと当時の私を殴りたいね」

 一体何を書いていたのだろう。そしてそれを振られたYは、何と答えたのだろう。Tちゃんが私にひたすら求めたように、彼女らもお互いに自分と同じことを考えるように求めたのだろうか。
 そして、きっと二人が求めた物の中には、私への――

「……ほんっと」

 子供とは、残酷な生き物だ。


 そして――。
 四十分近くバスに揺られて、私は先に降りた。彼女に手を降り、歩き出す。
 空は夕焼け。風は冷たく、肌を突き刺す。

「寒いなあ」

 家までの緩やかな坂を、ただ歩く。脳裏に、数時間前に彼女が歌った歌の歌詞が浮かんでくる。
 そっと、呟く。

「『――きっと、歩いていけるわ』」

 そう、どんなことがあっても。生きている限り、足は動くのだ。


―――――――――――――――――――――――
 そしてこれは、夜の話。
 夕食を終えた私は、ふと思い立ってしばらく手を付けていない戸棚を漁った。嵩張るから、とプリントや薄いノートを入れてある大きめのファイルを漁る。途中で中三の時に書いた小説もどきを見たような気がするが、無視する。

「……あった!」

 そう。それは上の小説の最後に出てきた、『七代目のこうかんノート』だった。今から七年前、ポケパークが期間限定でオープンした際に売られていた物だ。万博のついでに連れて行ってもらい、買ってもらったのだ。
 『星空トリップ』というアトラクションをモチーフにしたそれは、ジラーチとセレビィとミュウが表紙だった。そしてそこには小学生女子らしく、シールとプリクラが貼ってあった。

「懐かしいなあ」

 そしてそこで『何故このノートをこうかんノートなんかにしたんだ』というツッコミを入れたくなる。ちなみにプリクラはまだ幼さの残るMちゃんと私―― ではなく、Mちゃんと彼女の幼馴染の男子二人だった。ちなみに片方は今や車の免許を所得し、ついでに車まで買ってもらい(借金だってさ、byMちゃん)、バリバリ運転しているらしい。
 感慨にふけったところで、ふと当時の私の画力を思い出す。

「……」
 
 開けてみた。そして閉めた。別の意味での寒気を感じた。下手すぎる。これを描いた後に『Kって塗り方雑だよね』とMちゃんに言われることとなる、私の絵。これはひどい。
 とりあえず表紙を写メって彼女に送る。
 二時間後、『寝てた』という題名とともにこんなメールが返ってきた。

『懐かしいいいい!それか!
ってか右下にあるのは一体…… 私が何か貼っちゃったのか……?』

 色々思うことはあるが、とりあえず右下を拡大して写メって送る。今度は数分で返ってきた。

『ぎゃあああああああああああああ\(^ω^)/
なんでww表紙にwもうwww私の馬鹿』

 今にも『もうやめて!私のライフはゼロよ!』とでも言いだしそうな空気だったので、とりあえずいじるのはやめる。
 ああ、本当に。

「人生って、何が起こるかわかんないねえ」


――――――――――――――――――――
 まだ半世紀も生きてねえお前が人生も糞もねえだろ、というツッコミをいただきそうですね。WKです。
 さて、この『こうかんノート』とこの『前日談、もしくは後日談』。読んでいただければ分かると思いますが、ほとんど実話です。いや、カゲボウズは実際にはいませんが。というか実際にいればどれだけ楽に過ごせたか……。
 

 女の子の友情って難しいですよね。今一番仲がいい友人に聞けば、

『私は小五の時に急にある子に嫌われたよ。私、その子に何もした覚えないの。その子自身も、R(私の友人の名)は何もしていないって言った。でも何故か気に食わないって言われた』

 とのこと。なるほど、と二人小学生時代の思い出について語りながら帰りました。

 三年ほど前に書いた『友情メモリー ブロークン』も実話から書いています。知っている人いるのかしら。

 とりあえず、ここまで読んでくださり、ありがとうございました!