むかし むかし の こと でした
さなぎ を わるい め で みる ひと が いました
そこで ひと は さなぎ を みかける と すてるよう に なりました
なに も しない
なに もの にも かわる こと が できない
ぶきみ だ
ぶきみ だ
そんな ことば を ぶつけられた さなぎ は かなしく なり
その からだ から ときわぎ を はやしました
ひと が たくさん すてる ので そこは かなしい もり と なって しまいました とさ
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日が沈みかける頃、一人の小童(こわっぱ)が緑色の蛹(さなぎ)と金色の蛹を抱えながら歩いていました。その顔はなんだか嫌そうな顔で、時折、二つの蛹の顔をにらみつけています。やがて小童が常磐木(ときわぎ)の並ぶ森までたどり着き、少し奥まで行きますと、二つの蛹をぽいと乱暴に投げ捨てました。二つの蛹は地面に落ちるとそのままころころと転がっていっていきます。小童は二つの蛹に指を指しながら言いました。
「おめぇたちみたいによわっちぃやつがいてもめいわくなんだよっ! うごかねぇでぶきみなおめぇらにはここでずっところがっているのがおにあいさ、はははははっ!!」
いい気味だといわんばかりに小童は腹を抱えて笑うと、満足したようで、そのまま踵(きびす)を返して、元来た道へと戻っていきました。二つの蛹はただその小童の背中を見送ることしかできず、そのつぶらな瞳は寂しい色を帯びています。なんでこんなことをされたのかがまったく分からないと二つの蛹は悩んでいました。
そのまま二つの蛹は木々の陰に覆われているまま時間が経っていくと、緑色の蛹はこの先どうしましょうと尋ねます。その答えに金色の蛹は何も答えることができませんでした。
しかし、ずっとこのままではいられない。この先、なにが起こるか分からなくても何かをしなければ、そう思った金色の蛹は白い糸を吐いたかと思うと、それを常磐木の枝にくっつけて、自分の体を振るわすとぴょんと飛びました。
それを見た緑色の蛹も真似をしてぴょんと飛びます。空は緑葉達に遮られており、薄暗く、なんだか不安な気持ちが二つの蛹に漂います。しかし、それでもただ前に二つの蛹は白い糸を吐き出し、木から木へと飛んでいきます。その身に冷たい風を切りながらもひたすらに進んでいきます。ひゅんひゅんと風を切る音だけが小さく森の中に木霊しました。
やがて、二つの蛹が開けた場所までやってきますと、そこには今までよりも大きな大きな常磐木が一本たたずんでいました。その根元までころりんと寄せますと、二つの蛹は空を仰ぎました。全開ではありませんが、多少開けているその場所からは真っ暗な空が広がっています。
緑色の蛹はこのままここで終わってしまうのでしょうかと尋ねました。金色の蛹は答えることができません。緑色の蛹の質問に答えかねて悩んでいると、あのときの小童が放った言葉が金色の蛹によぎります。そうか、本当に自分達には力がないのか。だから、こうやって捨てられてしまったのか。そんな考えばかりが浮かんできて、金色の蛹は泣きそうになりました。
冷たい夜風がひゅうっと一筋通り過ぎ、ざわざわ、ざわざわと常磐木達が不安を駆りたてさせるようにささやきあいます。
また さなぎ が ここ に きちゃったの?
だめだよ そんな きもち で ここ に とどまっていたら
はやく きぼう を もって この もり から でなさい
そうしないと おれたち みたい に なっちゃうぜ?
そんなささやきに緑色の蛹と金色の蛹は余計にどうすればいいのだろうと迷います。
すると、二つの蛹が根元で休んでいた大きな大きな常磐木がざわざわと夜風に揺れながらささやきました。
そら を めざすのじゃ
わしゃあ こんな き に なって ながくなるが
そら には ここ には ない いろいろ な もの が あってな
そこ を めざして いけば きっと いいこと が あるぞ
大きな大きな常磐木のささやきは二つの蛹にとってよく分かりませんでした。
ただ、他にやれることも思いつかなかったので、空を目指すことにしました。
先程、ここまでやって来たときと同じ要領で吐いた白い糸を枝にくっつけて、上に向かってぴょんと跳ねます。そしたら、すぐさま新しい白い糸を違う枝にくっつけて、更に上に向かって跳ねます。そのまま大きな大きな常磐木の天辺(てっぺん)まで来ると、最後は思いっきり、二つの蛹は自分の体を空へと投げ出しました。ふわぁとした柔らかい感覚が二つの蛹を包みこみ、なんだか長い時間が流れているかのよう。真っ黒な空の中に点々と輝くもの、そしてまぁるい大きな光がなんだか近くにあるよう。
しかし、結局なにも起こらず、そのまま、二つの蛹は地面へと戻されました。ぽんっと大きく跳ねてころころと転がります。最後に上を仰ぐ形で止まった二つの蛹の瞳はきらきらしていました。
あぁ、なんだか別の世界に行ったみたいでしたと緑色の蛹は感動していて、地べたを這って(はって)いたときにはなかったものがそこにはあったような気がするなと金色の蛹も感動していました。それから、二つの蛹は何度も何度も大きな大きな常磐木に白い糸を吐いては上へ上へと跳ね上がっていき、天辺から空へと大きく身を投げ出します。元々固い体だったのに加え、予め、身を更に固めておいたので、落ちてもへっちゃらでした。
上へと昇っては空に向かって飛んで、それから地面に落っこちるの繰り返し。二つの蛹を見守っていた大きな大きな常磐木がざわざわとささやきます。
いたく は ない の かのう ?
いくら かたくなった とは いえ なにも かわらなくて かなしく は ならぬ のか ?
何度も地面に落っこちたので二つの蛹はどろどろ泥まみれ。
しかし、大きな大きな常磐木の心配をよそに、緑色の蛹も金色の蛹も諦める様子はありませんでした。何度も空に身を投げ出したとき、もしかしたら、変わることができるかもしれない可能性を二つの蛹は感じていました。それは繰り返せば繰り返すほど、強いものになっていました。
その気持ちに比例するかのように大きな大きな常磐木の天辺から空へと跳ね上がる高さはぐんぐんと上がっています。もっともっと高く高く空へ行きたいと緑色の蛹の瞳の輝きはきらきらと更に強く、ここで諦めたら小童は元より自分にも負けたことになってしまう、負けたくない負けたくないと金色の蛹の瞳はぎらぎらと燃え上がっていました。
そんな意志を見せる二つの蛹に、大きな大きな常磐木はもしかしたらこの二つの蛹ならやってくれるかもしれないと期待を持ち始めました。期待を持ち始めたのは大きな大きな常盤木だけではありません、他の常磐木も二つの蛹を応援するかのようにざわざわと音を立て始めます。
それからまた時が流れ、真っ暗な空が白け出してきたときの頃。二つの蛹はまた白い糸を使って大きな大きな常磐木を昇っていき、そして天辺からまた身を空へと投げ出しました。今までよりももっと高く、もっともっと高く。すると、二つの蛹にヒビが入り――。
緑色の蛹から黒い紋様を映した羽を持つ濃紫(こむらさき)の蝶が出てきました。
金色の蛹からは薄くて滑らかな羽を生やし、尾には大きな針を持った黄色い蜂が出てきました。
濃紫の蝶と黄色い蜂は真っ赤なお目目をお互いに向けて、とんでもないものを見たような顔を浮かべています。何度も変わったことを確認するかのように羽をぱたぱたと動かし、おでこから生えた触角をぴこぴこ揺らします。
あぁ、変わることができたのですねと濃紫の蝶が言うと、あぁ、変わることができたなと黄色い蜂が言いました。朝焼けの光が世界を照らしている風景を真っ赤なお目目に焼き付けながら、二匹は改めて変わることができたのだと呟きました。
そして、色々と教えてくれた常磐木達にお礼を言うと、濃紫の蝶と黄色い蜂は朝焼けに照らされながら遠くに飛び去っていきました。
まだ知らない世界を目指してぱたぱたと。
朝焼けに照らされてきららとしている羽から光をこぼしながら。
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むかし むかし の こと でした
もり に すてられた みどりいろ の さなぎ と こんじき の さなぎ が おりました
けれど ふたつ の さなぎ は あきらめない こころ で すがた を かえました
ひとつ は こむらさき の ちょう に
ひとつ は きいろい はち に
もり から はばたいた にひき は やがて また もり に もどって きます
にひき の おもいで ばなし で もり に はな が さき みだれ
もり は にぎやか を まし
かなしかった ときわ の いろ は うつくしく なり
きぼう あふれる もり と なりました とさ
あるひ の こと
たび を していた ひとり の おとこ と おんな が この もり に やって きました
さらさら と ときわぎ たち が かぜ に ゆれる おと
どこまで も つづく みどりいろ の せかい
どこから か はこばれて くる ここち よい はな の かおり
もり の うつくしさ に こころ を うたれた かれら は
こむらさき の ちょう と きいろい はち に いいました
どうか ここに すまわせて おくれ と
その ねがい を こむらさき の ちょう と きいろい はち は うけいれ
そして
ときわ の むら が うまれました とさ
【書いてみました】
蛹ポケモンが『いとをはく』を駆使しながら木から木へとターザンジャンプしながら進化するとか素敵そうだなぁ、と思い浮かべながら書いていたら、こんなことになっていました。
タグにも書いてありますが、蛹ポケモンはトランセルとコクーンでございます。
ありがとうございました。
【何をしてもいいですよ♪】