ある日のことです。ある草原にいっぴきのコラッタが生まれました。そのコラッタはふつうのむらさきいろのコラッタたちとちがって、きんいろのコラッタでした。
いろちがいのポケモンをめずらしいと言ってよろこぶ人間もいます。けれど、それは人間からしたはなし。
ポケモンたちからすれば、まったくちがいます。
いろがちがうということは、めずらしいと同時に仲間外れということなのです。みんなとちがうということは、それだけで受け入れてもらえなくなってしまうのです。
いろがちがうというだけでそのコラッタは、仲間にいれてもらえませんでした。
ある日。きんいろのコラッタがいる。そんなはなしを聞いた、たくさんの人間がみんなのばしょをあらしていきます。みんなはきんいろのコラッタのせいだと言いました。出ていけ、と言いました。
かれは大好きなおとうさんやおかあさんのために、出ていくことにしました。もうこれ以上、めいわくをかけたくなかったからです。
つぎの日、かれは人間につかまりました。でも、よくばりな人間たちは、もっといろちがいのコラッタがいるかもしれないと言って、みんなのばしょをあらしつづけました。
きんいろのコラッタがつれて行かれたのは、とあるお金持ちの家でした。
その人にとって、いろちがいのポケモンというのは、きれいな宝石と一緒でした。ただ、他の人に見せびらかすためのものでしかないのです。めずらしいものを持っていると、うらやましがられる、それだけです。それだけのために欲しがったのです。だから、注目されなくなれば、いらなくなりました。もっとべつのめずらしいものをみつけた人間は、かれを売りました。
かれがつぎにつれて行かれたのも、似たような人間のところでした。
誰ひとりとして、かれそのものを見てくれる人間はいません。
人間にとって、かれはただの『もの』でしかありませんでした。すぐにあきられては、つぎの人間のところへ売られて行くのでした。
つぎこそは、かれ自身を見てくれる人間のところへ行けるのではないかと、きたいしました。けれど、そんな人間はどこにもいませんでした。みんなみんな、かれのことなど見てはいません。『きんいろのコラッタ』しか見ていないのでした。
そうするうちにだんだんかれは、つかれてしまいました。もう、なにもかもがどうでもよくなりました。そんなかれを見て人間たちは、あいそうがない、かわいくない、などとかってなことばかり言ってはかれを手放していきました。
かれがわるいのでしょうか?
かれがなにをしたのでしょうか?
なにがいけないのでしょうか?
答えなんてでません。
かれは思います。
どうしてぼくはこんな目にあわなくちゃいけないんだろう?
どうしてぼくはきんいろなんだろう?
どうしてぼくは生まれてきたんだろう?
ある日、いたずら好きのこどもが、かれにむらさきいろのえのぐでいろをぬりました。いろがちがうのはおかしい、だからいろをぬってやると言って。
いろがちがうのは、いけないことなのでしょうか?
さいごにかれがつれて行かれたのも、それなりにゆうふくな家でした。かれはその家にいる女の子のために買われたのです。
そのころにはかれの心はすっかりすさんでいたものですから、女の子を見てもなんとも思いません。ただ、ああまたか、と思っただけでした。
女の子はかれを見てもなんにも言いませんでした。でもかわりに、ひざの上にかれをのせて、べたべたとさわるとにっこりしました。
そうやってべたべたとさわられるのは、はじめてのことではありませんでした。たとえばかれのきんいろが、ペンキか何かのいろじゃないかをたしかめるためとか。そうやってさわられるのは好きではなかったので、かれは女の子の手から逃げるようにひざの上からおりました。
そんなふうにさいしょからかれは嫌がったのに、女の子はかれをなでたがりました。だから女の子は、まわりの大人にたのんで、よくかれをひざの上にのせてもらいました。そうしてかれをなでるのでした。けれどやっぱり、かれはそれを嫌がってすぐに逃げるのでした。
「コウ」
女の子はかれをそう呼びました。かれはへんじなんかしませんでした。
女の子はよくかれに話しかけました。ごはんはおいしいか、さむくはないか、あつくはないか、と。けれどやっぱり、かれはへんじをしませんでした。
「コウ」
はなれたところにいるかれを、女の子が呼びました。でも女の子は、かれがいるのとはべつの方を見ています。そういうことは何度もありました。
そういえば、とかれは思います。女の子はいつもかれをしっかりとは見ていないことを。また、女の子がなにかをさわるとき、たいていそうっとさわることを。かれをひざの上にのせるときは、かならずだれかにやってもらっていることを。
かれは気づきました。女の子は目が見えていないのでした。
どうりで、とかれは思います。
どうりでいろのことを言わないはずだ。
でもどうしてぼくは買われたんだろう?
かれがふしぎに思うのも当然でした。でも考えてもわかりませんでした。
女の子はかれを見ることはできません。けれどいつもかれを見つめていました。
「コウ」
女の子はかれを呼びます。かれはいつものように、しらんぷりして部屋のすみっこにいました。
けれどその日、女の子はおいしそうなにおいのするおかしを持っていました。だからかれは、はじめて自分から女の子のひざの上にのりました。おかしを食べるためなんだ、と言いわけして。
それからよく、女の子はおかしをもってかれをまっていました。かれはおかしを食べると、すぐにまた部屋のすみっこにもどります。けれど、おかしを食べているあいだは、女の子のひざの上にいました。
かれがひざの上にいるあいだ、女の子はかれをなでました。はじめはおずおずと。やがてしっかりとした手つきで。そうして、花がさくように笑うのでした。
それからだんだん、おかしを食べおわっても、そのままでいる時間がながくなっていきました。こうやってひざの上にいれば、あたらしいおかしをもってきてくれるかもしれないじゃないか。そう、言いわけして。
ある日のことです。女の子はまた、
「コウ」
とかれを呼びました。
たまたま、そう、たまたまだとかれは言いわけしました。たまたま、気がむいたから。かれは、ちゅうとへんじをしました。
女の子は、はっとして、しばらくしずかにしていました。そうしておずおずと、もう一度かれを呼びました。かれは、また、たまたまだといいわけして、女の子のひざの上にのりました。ただの気まぐれだと、何度目かわからない、言いわけをしながら。
女の子はぎゅうっとかれを抱きしめました。はじめてのことでした。
かれは、ああ、あたたかいなあと思いました。
あるところに、ユキちゃんという女の子がいました。ユキちゃんは目が見えません。うんと小さいときに、病気になって目が見えなくなってしまったのでした。
目が見えないせいで、ユキちゃんにはおともだちがいません。だって、みんなとおなじようにあそべないんですもの。それに、学校にもいけませんから、いつもおうちでべんきょうしていました。まわりには大人ばかりで、こどもなんていません。だから、ユキちゃんはいつもひとりぼっちでした。
そんなユキちゃんをしんぱいしたお父さんとお母さんは、いっぴきのポケモンをつれてきました。そのポケモンは、いろちがいの、きんいろのコラッタでした。お父さんもお母さんも、めずらしいポケモンならユキちゃんがよろこぶと思ったのです。
ユキちゃんはきんいろと聞いて、まだ目が見えたころに見たいろを思い出そうとしました。ユキちゃんはキラキラしたきれいないろをいっしょうけんめい、思いうかべました。きんいろのコラッタはめずらしいと言われましたが、ユキちゃんにはピンときませんでした。
いろがちがうということのいみがわからなくても、ユキちゃんはとってもうれしくてたまりませんでした。だって、もうこれでひとりぼっちじゃなくなるんですもの。
コラッタがユキちゃんのおうちにやってきた日。ユキちゃんはひざの上にコラッタをのせてもらって、べたべたとたくさんコラッタをさわりました。なんとあたたかくてやわらかくて、なめらかな手ざわりなのでしょう。ぬいぐるみとはおおちがいです。
ユキちゃんがさびしくないようにと、お父さんとお母さんは、たくさんのぬいぐるみを買ってくれました。でも、どんなにぬいぐるみがあっても、ぬいぐるみは動かないし、あたたかくもありません。ぬいぐるみであそんでも、やっぱりひとりぼっちなのはかわらないのです。
だから、コラッタがきてからというもの、ユキちゃんはコラッタに夢中です。コラッタをなでたくて、まわりの大人にたのんで、よくひざの上にのせてもらいました。そうしてそうっとコラッタをなでるのでした。でも、コラッタはいつも嫌がってすぐに逃げてしまうのでした。そのたびに、ユキちゃんはちょっぴりかなしくなりました。
ユキちゃんはいつもおせわしてくれる女の人といっしょに、いっしょうけんめい考えて、コラッタにコウという名前をつけました。
ユキちゃんは
「コウ」
とたくさん呼びました。でもコラッタはいつも知らんぷりするのでした。やっぱりそのたびにユキちゃんはかなしいと思いました。
へんじはなかったけれど、ユキちゃんはよくコラッタにはなしかけました。ごはんはおいしい? さむくない? あつくない? と。けれどやっぱり、へんじはありませんでした。
あるときユキちゃんは、いっしょに名前を考えてくれた女の人にそうだんしました。
「コウとなかなか仲良くなれないの」
女の人は、おかしをあげたらどうでしょうと言いました。
それはいい、とユキちゃんはおかしを作ってもらいました。ダメと言われたけれど、そのおかしをちょっぴりかじってみたら、とってもからくってユキちゃんはたくさん水を飲むはめになりました。
ユキちゃんがおかしをもってすわっていると、今までちっともちかづいてこなかったコラッタがちかづいてきました。おまけに、ユキちゃんのひざの上に自分からのりました。ユキちゃんはびっくりして、でもとってもうれしくなりました。
それからよく、ユキちゃんはおかしを作ってもらいました。そうしてまっていると、コラッタがひざの上でおかしを食べるのでした。コラッタはおかしを食べるとすぐにいなくなってしまいます。でも、おかしを食べているあいだは、ユキちゃんがなでても逃げたりしませんでした。
何度もおかしをあげているうちに、コラッタはおかしを食べおわっても、そのままひざの上にいる時間がながくなっていきました。ユキちゃんはうれしくなって、たくさんたくさんコラッタをなでました。
そんなある日のことです。いつものように、ユキちゃんが
「コウ」
とコラッタを呼びました。へんじがないのはいつものことだったので、ただ呼んでみただけでした。でも、その日、コラッタはちゅうとへんじをしました。
ユキちゃんはびっくりして、しばらくどうしたらいいかわかりませんでした。どうしたらいいかわからなかったので、もう一度、呼んでみることにしました。
「コウ……?」
すると、いったいどうしたことでしょう。おかしもないのに、コラッタがユキちゃんのひざの上にやってきました。
ユキちゃんは思わず、コラッタをぎゅうっと抱きしめました。コラッタはやっぱりあたたかくてやわらかくて、生きていました。
ほんとうは、ずっとユキちゃんのひざの上にいたかった、もっとなでてほしかった。だって、ユキちゃんはあたたかいから。ずっとずっと、だれもあたためてくれなかった。ユキちゃんのひざの上は、ユキちゃんの手は、ほんとうにあたたかくて。気づかないふりをしていたけれど、ぬくもりがほしくて。それをくれるユキちゃんのそばは幸せだった。
ユキちゃんのあたたかいひざの上が、やさしくなでてくれる手が、名前を呼んでくれるすきとおった声が、見えないのにちゃんと自分を見てくれる目が、ユキちゃんのえがおが、みんなみんな、あたたかくて、やさしくて。おかしなんかなくたって、よかったのです。
かれはもう、言いわけしないことにしました。
ユキちゃんのそばに、ずっといるよ。だってユキちゃんは、とってもあたたかいから。
きんいろの毛が、お日さまの光でキラキラとかがやいていました。ユキちゃんには、もちろんそのけしきは見えません。でも、ユキちゃんはもっとすてきなものを知っていました。
【追記】
語りたがりって場合によっては痛いかもしれないけど、気づいてもらえないのはやっぱり淋しいので、ちょっとだけ解説。
ユキちゃんは漢字で「幸」と書きます。
コウは幸の別の読み方。
タイトルの意味はこういうことです。
ちなみにコウは光とも書けるとかいうのもあったりします。