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  [No.2958] 真夏の手前の一片 投稿者:音色   投稿日:2013/05/26(Sun) 18:02:34   81clap [■この記事に拍手する] [Tweet]

 暑苦しい季節になった。梅雨入り前の茹だるようなお日様が恨めしい。春の終わり、夏の入り口、だというのに温暖化は容赦しない。今日は何十年振りに最高気温記録を突破したというニュースの一つでも流れれば「あぁ、やっぱり」と納得して言い訳できるが、別に期待しているわけではない。
 時期を勘違いしたテッカニンでも大量発生すれば面白いかもしれないが、奴らの騒がしさを考慮すると自分の思い付きを即座に否定する。同時にヌケニンまでぞろぞろ浮いてる様子なんか気味が悪くてしょうがない。
朝は寒い、昼は暑い、夜は冷えたり暑苦しかったりとこれじゃあ体の一つでも壊して当然、つまり学校を休む口実の一つにでもなるかと思えば、残念なくらい俺の体はそれなりに健康で、今日も渋々講義に向かう。
 冷房ガンガンに聞いているかと思った校内はクールビズということでしっかり28℃設定。ですよねー。いいけど。暑さしのげりゃそれでよし。クーラーなんてハイカラなものがない下宿に比べれば断然マシだ。むしろ居座りたい。
 そういえばモンスターボールの中はこの暑さをどうしのいでいるのか。取扱説明書には『ポケモン達がすごしやすい快適な環境になっております』とか書いてあるけどつまりどういうことだってばよ。
 あれか、家賃タダ冷暖房完備なわけか。食事もついてくるわけだから、すげぇポケモンって優遇されてんじゃね?とか思った。思っただけ。なりたいとかは思わない。
 

 授業が終わってさっさと帰ろうかと思ったら同じサークルの奴に捕まった。興味津々ってわけじゃないがサークルに所属していたらのちの就活に有利という噂を聞きつけて適当に顔だして幽霊部員を決め込もうとしたのだが、あんまりにも元気溌剌爽やかな美女(先輩)に「一緒に頑張りましょう」と一声かけられて割とハードな所に入ってしまったのを後悔する。
 何を隠そう、俺の所属しているポケモンバトルサークル…の、ローテーション部門は閑古鳥が鳴いている。すなわち使い手がいない、使い手がいないと実績がない、実績がないと評価されない、評価されないから予算も省かれない、予算がないから人も来ない、以下繰り返しという真に残念なローテーションを誇る。
 ほとんどがシングル、ダブル、たまーにトリプル、そしてリア充用タッグと枠が埋まり、特に希望がないと伝えた俺は歓喜の目をした先輩たちにここをあてがわれた。
 俺一人なら「やることないんで」とか何とか言って逃げられるのだが、最悪なことにヤル気満々なもう一人がいる。先ほど俺をここに連行したミタムラという奴だ。同じ部門だから意気投合しようぜ!とばかりに爽やかに声をかけてくれるが正直帰りたくてしょうがない。せめて女の子ならいいのに何が悲しくて色黒眼鏡と一緒にバトルの特訓なぞせにゃならんのだ。

「と、いうわけで次回の大会は是非!お互いにベストを尽くして入賞しよう!」
「あーはいはいさいですかよくわかりましたそれじゃあ帰ります」
「……人の話聞いてた? あのね、僕らは同級生なんだから敬語なんて使わなくてもいいじゃないか」

 俺が帰ることに問題はないようなので去ろうとしたらさっと俺の目の前にでかい影が立ちふさがった。何かと思うとミタムラのジャローダである。
 図鑑によるとこいつに睨み付けられると動けなくなるらしいが、まさにその通り。どうやら返してくれないらしい。

「君はきっとサボろうとするだろうと思ったからね。さぁ!今日はせめて3戦はさせてもらうよ」
「やだよ、俺じゃお前の相手になんかならねーっての」
「そんなことないじゃないか!最近は僕が苦戦しているのだから」

 嘘付け。
 吐き捨ててから腰のボールスペースから3つもぎ取る。イラついたままの足をバトルフィールドに向ける。

「ほら来いよ、どうせ叩き潰されてやるさ」
「やる気になってくれたみたいで嬉しいよ!」

 そうしてミタムラが繰り出した残りのポケモン共を見て、舌打ちする。
 さっきのジャローダに、ガブリアス、そんでミロカロス。あーあぁ、最悪。こいつマジふざけんなよ。何がしたいの。俺相手にフルボッコとか何が楽しいの。せめてどいつかは戦闘不能にできればいいな。
 軽い絶望感を感じつつ、俺はボールをやけくそに投げつけた。

 
 太陽が傾いてようやくお開きになった。大学付属のポケモンセンターでズタボロになった俺の手持ちは包帯だらけで帰ってきた。パソコンの中のデータ復元でこいつらはすぐに元気になるといっても、それは表面上だけで、体力や精神力は回復しないと何かの講義で聞いた。
 穴を塞いでもらったフライゴンを残して残りの二匹をボールにしまう。なんか気分が悪いと言ったら唐突に最初の相棒は俺をつかんで背中に乗せると飛び上がった。
 蒸し暑い根源の太陽が沈もうとしている。上昇するアングルで見上げる夕焼けはやたらと迫力があった。

「なんだお前、日はまた昇るって言いたいのかよ?」

 俺の質問に相棒は答えない。ただ冷たい風ばかりを切る。

「……わぁってる。次は、ってわけにゃいかねぇけど、いつかぶっ潰すからよ」

 爽やかな朝日なんていらない。ボロボロの俺には沈みかけの夕陽こそがお似合いだ。

「ずいぶんとダイナミックな時間だな、おい」

 背中を預ける若草色の竜は一声鳴くと、下宿へ降りて行った。


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はい、お久しぶりです。音色です。
なんか即興で書いてみようぜ!みたいになってので書いたらこうなった。
お題は『ダイナミックな夕方』 なにこれあんまり関係なくね?

ちなみに一時間クオリティだね!

【そんなことよりコンテスト書け】