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  [No.2989] Kyun ★ Kyun ★ Blue Heart 投稿者:ダイヤモンド仮面★Raccoo   投稿日:2013/07/07(Sun) 06:05:34   57clap [■この記事に拍手する] [Tweet]
Kyun ★ Kyun ★ Blue Heart (画像サイズ: 416×600 46kB)

 ぺたん。
 ぺったん。
 ぺーったん。
 少し止まって、またぺったん。
 
 先端が青色に染まった水色の尻尾でゆっくり床をぺたぺたとたたく。
 
 ぺたん。
 ぺったん。
 ぺーったん。
 やがて止まって床に水色の体を転がせる。そしてそのまま尻尾を自分の体にぎゅーっと抱き寄せる。

 なんだか体が熱い。
 胸の辺りがなんだかしめつけられるような感じだ。
「ん? グレイシア。なんか具合悪そうだけど、大丈夫?」
「きゅう」
 いつのまにか近づいていた主人に呼ばれた水色の――グレイシアは見上げてとりあえず返事をした。具合が悪いと言われれば確かにそうだ。グレイシアの頬はやけに赤みかかっており、風邪を引いているかのように見える。グレイシアはごろんと寝返りしてうつ伏せのかっこうになった。
「あ、そうそうプリン買ってきたんだけど、食べる?」
「きゅっ!」
 主人が近くにあるテーブルの上にビニール袋を置くとガサコソと中からプリンを取り出した。グレイシアはそれを見た瞬間、立ち上がって尻尾を振る。先程までの具合悪そうな姿はどこへやらと主人は苦笑いしながら、カップ容器に入っているプリンを皿に移して、グレイシアのところに置いた。昔、主人のおやつであったプリンを一口もらったときからグレイシアはプリンのファンになった。黄色のプティングの上にはこげ茶色のカラメルソースがかかっており、濃厚な甘い香りがグレイシアの鼻をくすぐる。さぁ、食べようと思った瞬間、グレイシアはその大きく開いた口をいったん閉じ、そのままプリンをじっと見つめた。黄色とこげ茶色のカラーリング――それはグレイシアにあの夢を思い出させていた。
 さかのぼること昨夜、グレイシアは夢を見た。ただし大好きなプリンに囲まれてウフフキャハハと笑いが止まらないような幸福な夢ではなく、不幸な夢――悪夢のほうだった。空はなんだか紫色や水色がぐるぐると渦巻いており、周りは変な形のした石がそこかしこに置かれていて、なんとも不気味な世界だった。なにやら不穏な予感がすると、グレイシアが身震いしながら周りをきょろきょろと見渡していたときだった。いきなり、変な形のした石からガス状のお化けがたくさん現れたかと思うと、その大群はグレイシアに向かって一斉に襲いかかって来たのだ。まんまるい白の中に一点ある黒い瞳孔は鋭く、大きく開いた口からはよだれがぽたぽたとはしたなくこぼれる。今すぐ逃げなきゃと本能的に悟ったグレイシアはその場から走り去った。あのお化けに捕まっちゃったら絶対ダメだと自分に何度も言い聞かせながら水色の足で地面を蹴り続ける。しかし、走れど走れど、空は紫色と水色の渦巻き模様、周りには相も変わらず変な石と全く変わらない景色にグレイシアの中では徐々に前を走っているという感覚を奪われていってしまった。
 もう走れないとグレイシアが足を止めてしまったときには、ガス状のお化けは目の前まで来ていた。いただきますと言わんばかりに向けられてくる大きく開いた口にグレイシアがぎゅっと目をつぶった。あぁ、食べられちゃった、そう思いながらグレイシアが目を開けると、あのお化けは自分から離れたところで倒れており、代わりに目の前にいたのは上半身は黄色、下半身はこげ茶色とプリンのようなカラーリングをしたぽっちゃりが一匹いた。黄色の長い鼻をぶんと振り回したかと思った次の瞬間、大群のお化けが次々とぽっちゃりの鼻の中へと吸い込まれていくではないか。またたく間にその場からガス状のお化けはいなくなり、気がつけば、空は晴れ渡っていた。
 覚えているのはここまで。
 名前を聞こうと、お礼を言おうと、色々したかったことがあったのに、ぽっちゃりに助けられた瞬間、グレイシアは現実の世界に戻っていた。。
「あれ? 珍しいね、プリンにまだ一口もつけていないなんて」
「きゅう」
 グレイシアはプリンを前足でつっついてはぷるぷる震えるそれを見つめては、夢の中で助けてもらったあのぽっちゃりはとてもかっこよかったと思い浮かべる。少ししか見ていないけど自分を守ってくれたり、あのお化けを一気に倒したり、その姿に胸がきゅんきゅんと鳴って――そう、だから、また、あのぽっちゃりに会いたい。会って、伝いたいことがある。
 その日、グレイシアがプリンに口をつけることは一度もなかった。
 
 そして、その日の夜、グレイシアはまた夢を見た。
 しかし、前回のようなあの不気味な空も変な石もない。今回の空は澄み切った水色が広がっていて、吹き抜ける風も心地良かった。そのままどこまでも駆けていこうかとグレイシアが足を動かそうとしたとき、目の前にあのぽっちゃりが現れた。プリンのようなカラーリングに長い鼻。そして、鋭い目。グレイシアは顔を赤くさせながらもあいさつをした。すると、ぽっちゃりも返事をしながらぺこりとお辞儀をした。
「きゅう、きゅうきゅう」
「ばうばう」
「きゅう……きゅうきゅう?」
「ばうばう」
「きゅう、きゅきゅうきゅう」
「ばう」
 昨夜のお礼からグレイシアはぽっちゃりのことを少し知る機会を得た。
 ぽっちゃりの名前のこと。
 そして、彼が色々な悪夢から色々なモノを守っている旅をしていること。
 後は月並みなことだが好きなもの、嫌いな物など。
 ぽっちゃりのことを知れば知るほど、グレイシアの胸がきゅんきゅんと高鳴っていく。特に彼が色々な悪夢から色々なモノを守っているという下りのところで、グレイシアの胸の高鳴りが一気に急上昇した。ただ一言、とてもかっこいいと。昨晩の自分みたいに体をはって戦っているその姿を思い浮かべながら。
 できればもっと一緒にいたい。ぽっちゃりのことをもっと知りたい。そう、ぽっちゃりのことが――。
 きゅんきゅんと高鳴る胸に押されながらグレイシアは尋ねる。
 ぽっちゃりは一瞬、目を丸くさせた後、応える。
 グレイシアが最後に見たのは申し訳なさそうに見つめてきたぽっちゃりの顔であった。

 翌日、主人から出されたプリンをグレイシアはまたつついていた。
 つついては震える。
 その度に胸にきゅんきゅんという感覚がよみがえる。
 あの夢で助けてもらった、そしておしゃべりした、あのぽっちゃりの姿ばかりがきゅんきゅんとグレイシアの胸に訴えかけてくる。
「グレイシア……アンタ、本当に大丈夫? 風邪でも引いた?」
「きゅう……っ」
 そんなことはないとグレイシアは首を横に振った。
 今、苦しそうに見えるのは風邪のせいではないことは自分が一番よく分かっている。
 何が原因か分かっているからこそ、余計に苦しかった。
 そんな苦しさをまぎらわそうとグレイシアは一口、プリンにかぶりつく。
 その甘さがつらすぎて――。

 ぽろぽろと涙がこぼれた。